社長は身代わり婚約者を溺愛する

日下奈緒

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第25話 生産が追い付かない

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それからしばらくして、信一郎さんと連絡が取れなくなった。

仕事が忙しいのだろう。

そう思っていた。


そんなある日、買い物に出かけようとして、家を出ると沢井家の車が、前を過ぎた。

「芹香?」

車は少し進んで、後部座席の窓が開いた。

「礼奈。」

いつも通り、私の名前を呼んでくれる芹香に、ほっとした。

もしかして、前の芹香に戻ったのかもしれない。

私は、少しずつ芹香に近づいて行った。


「元気?」

「うん、芹香は?」

そう聞いて、ハッとした。

芹香は、少し痩せたみたい。

「あの後、よく考えて黒崎さんとの結婚は、お断りしたの。」

「そう。」

やっと信一郎さんとの事、諦めてくれたんだ。

「黒崎さんっていい人ね。支度金も、返さなくていいなんて。」

「信一郎さん、そういうところあるから。」

やっと芹香と穏やかに話せる。

私はその嬉しさでいっぱいだった。

「これからは、自分の道を探すわ。」

「芹香ならできるよ。頑張って。」

芹香は、ニコッと笑った。

ああ、いつもの芹香だ。

その途端、芹香はうつむいた。

「そうそう、そう言えば。」

「ん?」

「黒崎さん、元気?」

その質問の意図が、最初分からなかった。

「……最近、会えていないけど、元気だと思う。」

「そう。でも、大変そうね。」

「えっ?」

芹香が、私の方を向いた。

「黒崎さんの会社、倒産するんですって?」

私は目を大きく開けた。

「何かしたの?」

「別に、私は何も。」

「嘘!」

そう言えば、取引を止めるとか言っていたような。

でも、それで困るのは沢井薬品の方だって、信一郎さんは言っていた。

「私はただ、ありのままをお父さんに話しただけよ。」

そう言って芹香は、車の窓を閉め行ってしまった。

私は慌てて、信一郎さんに電話を架けた。

でも出ない。何回も何回も架けて、やっと信一郎さんは電話に出てくれた。

「信一郎さん、会社大丈夫?」

信一郎さんは、”ああ”としか言わない。

「今、芹香に聞いたの。信一郎さんの会社、倒産するかもしれないって。」

「参ったな。そこまで聞いてるのか。」

その一言で、芹香の言葉はあながち間違っていないと知った。


「沢井薬品が、グループでウチの会社との取引を引いたんだ。その数は、10社にも上って……」

「10社⁉」

「売り上げが急に厳しくなった。資金繰りが上手くいかなかったら、芹香さんの言う通りに、倒産するかもな。」

「そんな……」

家の門をくぐり、工場の中を見た。

お父さんとお母さんが、慌ただしく働いている。


「とにかく、礼奈は心配しなくていいから。」

信一郎さんは、優しい口調で言ってくれた。

「うん。信じてる。」

「ありがとう。」

電話は切れて、私は工場に顔を出した。

「ただいま。今日は、残業?」

するとお父さんが、私を見て手招きをした。

「礼奈、手伝ってくれないか?」

「何を?」
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