15歳差の御曹司に甘やかされています〜助けたはずがなぜか溺愛対象に〜 【完結】

日下奈緒

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第1章 出会いは、ほんの一瞬の勇気から

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ぎゅっと、優しく、でも強く。

「君だって……大切だよ」

耳元で、低く、囁くように響いたその声に、全身が震えた。

張りつめていたものが、するするとほどけていくようだった。

私はただ、彼の胸元に顔を埋めたまま、声も出せずに涙を流していた。

しばらくして、彼はそっと私の肩から手を離した。

ゆっくりと目線を合わせると、まっすぐに言った。

「また来るよ、ひよりさん」

その瞳には、迷いがなかった。

私は涙を拭きながら、かすかに頷いた。

そして玲央さんは、次の日も、そのまた次の日も、欠かさずお見舞いに来てくれた。

手には必ず、小さな花束を持って。

「お忙しいのに……」

遠慮がちにそう言うと、彼は軽く首を振った。

「ああ、いや。時間を取るのも、仕事のひとつだから」

そう言って、いつものように花瓶に水を入れ、ブーケを丁寧に活けてくれる。

手慣れた所作に、最初は驚いたけれど、今ではそれが当たり前のように思えていた。

「どう? 調子は」

「相変わらず頭が痛い?」

「それはだいぶ治ってきました」

そう答えると、玲央さんはホッとしたように笑った。

「それはよかった」

そう言って椅子に座ると、ひょいと片手を上げて、私の目の前に差し出した。

「はい、問題です」

「……え?」

「何本、見える?」

その手には、指が広げられていた。

私は真剣に見つめてから、そっと答える。

「……5本、です」

すると彼は、ふっと笑った。

「うん、脳に異常はないな」

そんなふうに冗談を交えながら、でもその表情はどこか本気で心配してくれているようだった。

その優しさが、じんわりと心に染みて、胸が少しだけあたたかくなった。

「ひよりさんの、好きなものはなに?」

唐突に、でもどこか楽しそうに玲央さんが聞いてきた。

「ええっと……読書。ですかね」

少し考えてからそう答えると、彼はふんわりと優しい笑顔を見せた。

「今度、何か本を持ってこようか。好きな小説家は?」

思いがけない言葉に、心が弾んだ。

ただのお見舞いだけじゃない、私という人間に興味を持ってくれている気がして。

「谷川麻里さんの小説が好きです」

名前を言うと、玲央さんは小さく首をかしげた。

「谷川麻里……あまり聞いたことないね」

私は少しだけ照れながらも、笑顔で言った。

「溺愛カップルのお話が、すごく素敵なんです」

その言葉に、玲央さんの眉がほんの少しだけ上がった。

「溺愛……」

彼は、その単語をゆっくり繰り返す。

まるでその響きを口の中で転がすように、確かめるように。

そして、ひと呼吸置いてから、少しだけ意味深な微笑みを浮かべた。

「……それって、たとえば、どんなふうに?」

問いかけの声が、すこしだけ低くなった気がして、私はなんだか恥ずかしくなって、視線をそらした。
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