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第2章 恋に落ちるのは、ほんの数日だった
⑥
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私はそっと手を伸ばして、一輪の花を指先で撫でた。
柔らかくて、優しくて、まるで玲央さんの手のひらみたい。
――私、誰かに花を貰ったことなんて、なかった。
誕生日も、卒業式も、そういう特別な日でさえ、花束を受け取るような人生じゃなかった。
だから、玲央さんが初めてだった。
花の香りが、ふいに胸の奥をくすぐった。
嬉しさと、寂しさと、ほんの少しの期待が、胸の中で静かに渦を巻いていた。
しばらくして、私はふとベッドの脇に手を伸ばし、玲央さんからもらったメッセージカードを取り出した。
白地に金の縁取り。カードの中央には、落ち着いた筆跡で「一ノ瀬玲央」とだけ、丁寧に書かれていた。
その文字を指先でなぞると、じんわりと胸があたたかくなる。
玲央さんの声や、表情が蘇ってくるみたいだった。
「明日で……終わり。」
つぶやいた言葉が、妙に重く響いた。
お昼過ぎに迎えに来てくれるって言ってた。
たぶん、車で送ってくれて、玄関で「じゃあね」って笑うんだ。
そうしたら――きっと、それっきり。
「……ありがとう」って言って、終わるんだ。
それが当たり前のはずなのに、どうしてこんなに切ないんだろう。
私の中に、ひとつの想いが溢れかけていた。
「……もっと会いたい。」
声に出した途端、胸がきゅっと締めつけられる。
その気持ちは、もうごまかしようがなかった。
好きだ。
私、玲央さんのことが好き。
優しい声も、穏やかなまなざしも、全部――あの人が私の毎日にいてくれることが、嬉しかった。
ずっとそばにいたい。
この一週間、彼がそっと椅子に座って、静かにいてくれたように。
私の中に芽生えたこの想いが、明日、終わってしまうなら。
せめて、伝えたい。
でも――それは、わがままだろうか。
私は、メッセージカードの裏に、黒のボールペンで小さく綴った。
「好きです」
たったそれだけの文字が、まるで心の奥を削り取るように震えている。
──彼には、届かない。
これはもう渡すつもりなんてない。
いや、渡せない。
届けてはいけない、そんな気がした。
玲央さんは「示談にしてほしい」と私に言った。
それはつまり――きちんと終わらせたいという意味だ。
彼にとって私は、事故で出会った“助けてくれた人”であり、感謝すべき存在。
それ以上では、きっとない。
だからこそ毎日見舞いに来てくれて、花を贈ってくれて、優しくしてくれた。
私の方が、勝手に……思い上がっていただけだ。
「会いたいよ……」
小さく、声に出して呟く。
ほんの数時間前に「じゃあ」と手を振ったばかりなのに、
もう胸の中が空っぽで、あたたかな存在が恋しくてたまらない。
彼の声が聞きたい。
彼の笑顔が見たい。
――でも、それは叶わない願いなのだ。
メッセージカードを胸元に抱えながら、私はそっと目を閉じた。
明日は退院。
きっとそれが、本当の「さよなら」になる。
柔らかくて、優しくて、まるで玲央さんの手のひらみたい。
――私、誰かに花を貰ったことなんて、なかった。
誕生日も、卒業式も、そういう特別な日でさえ、花束を受け取るような人生じゃなかった。
だから、玲央さんが初めてだった。
花の香りが、ふいに胸の奥をくすぐった。
嬉しさと、寂しさと、ほんの少しの期待が、胸の中で静かに渦を巻いていた。
しばらくして、私はふとベッドの脇に手を伸ばし、玲央さんからもらったメッセージカードを取り出した。
白地に金の縁取り。カードの中央には、落ち着いた筆跡で「一ノ瀬玲央」とだけ、丁寧に書かれていた。
その文字を指先でなぞると、じんわりと胸があたたかくなる。
玲央さんの声や、表情が蘇ってくるみたいだった。
「明日で……終わり。」
つぶやいた言葉が、妙に重く響いた。
お昼過ぎに迎えに来てくれるって言ってた。
たぶん、車で送ってくれて、玄関で「じゃあね」って笑うんだ。
そうしたら――きっと、それっきり。
「……ありがとう」って言って、終わるんだ。
それが当たり前のはずなのに、どうしてこんなに切ないんだろう。
私の中に、ひとつの想いが溢れかけていた。
「……もっと会いたい。」
声に出した途端、胸がきゅっと締めつけられる。
その気持ちは、もうごまかしようがなかった。
好きだ。
私、玲央さんのことが好き。
優しい声も、穏やかなまなざしも、全部――あの人が私の毎日にいてくれることが、嬉しかった。
ずっとそばにいたい。
この一週間、彼がそっと椅子に座って、静かにいてくれたように。
私の中に芽生えたこの想いが、明日、終わってしまうなら。
せめて、伝えたい。
でも――それは、わがままだろうか。
私は、メッセージカードの裏に、黒のボールペンで小さく綴った。
「好きです」
たったそれだけの文字が、まるで心の奥を削り取るように震えている。
──彼には、届かない。
これはもう渡すつもりなんてない。
いや、渡せない。
届けてはいけない、そんな気がした。
玲央さんは「示談にしてほしい」と私に言った。
それはつまり――きちんと終わらせたいという意味だ。
彼にとって私は、事故で出会った“助けてくれた人”であり、感謝すべき存在。
それ以上では、きっとない。
だからこそ毎日見舞いに来てくれて、花を贈ってくれて、優しくしてくれた。
私の方が、勝手に……思い上がっていただけだ。
「会いたいよ……」
小さく、声に出して呟く。
ほんの数時間前に「じゃあ」と手を振ったばかりなのに、
もう胸の中が空っぽで、あたたかな存在が恋しくてたまらない。
彼の声が聞きたい。
彼の笑顔が見たい。
――でも、それは叶わない願いなのだ。
メッセージカードを胸元に抱えながら、私はそっと目を閉じた。
明日は退院。
きっとそれが、本当の「さよなら」になる。
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