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第3章 大学生だと知った日、彼は手を離した
⑧
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「ずるいよ……そんなの。」
もう一度、ブログをスクロールする。
もしかして、コメント欄があれば――。
会えなくても、何か言葉を残せるかもしれない。
けれど、どこを探しても、見つからなかった。
コメント機能は無効になっていた。
誹謗中傷や悪意の書き込みを避けるためかもしれない。
でも今の私にとっては、その優しささえ、壁に思えた。
「……どうすれば、会えるの?」
スマホの画面を見つめながら、指先に力が入る。
名前も、電話番号も知らない。
ただ、ひとつだけ――。
副社長のブログ
そして、その会社の名前。
私の中で、ひとつの決意が芽生えた。
週明けの昼休み。
キャンパスの片隅にあるカフェテリアで、私は久しぶりに友人たちと昼食をとっていた。
「ひより、なんか痩せた?」
サラダに手を伸ばしながら、岡本さくらが私の顔を覗き込む。
彼女は高校からの友人で、昔から観察眼が鋭い。
「やつれたの間違いじゃねえの?」
からあげ定食を頬張る中野誠一が、苦笑まじりに言った。
彼は大学に入ってからの友人で、私のことを何かと気にかけてくれる。
「実はさ……好きな人に、振られて。」
言葉にした瞬間、胸の奥がちくりと痛んだ。
この二週間、まるで夢だった。
出会って、心が高鳴って、少しずつ距離が縮まった気がして――
でも、気づけば彼の背中を見送っていた。
「振られたって……いつの間にそんな相手が?」
さくらが目を丸くする。
「紹介も何もなかったじゃん。え、同じ学部?」
「ううん、全然違う人。社会人。ちょっと歳の離れた人で……」
「へえー。年上か。いくつぐらい?」
誠一がストローをくわえたまま、興味深そうに聞いてくる。
「十五歳……上。」
ふたりの手が止まった。
「マジか。」
「まさかのガチ大人じゃん!」
私は笑った。泣き笑いみたいな顔で。
「でもね、すごく優しかった。誠実で、真面目で。でもそれが、返って距離を感じるっていうか。」
「それって……自分から離れようとしたってこと?」
さくらが、そっと尋ねた。
私は、こくりと頷いた。
「“君には未来がある”って。そんなこと言われたの、初めてだった。」
「うわ、なんか切ない……」
さくらが小さくつぶやき、誠一はサラダをつついている。
「でも、マグカップひとつだけ、もらってくれたの。」
その一言に、ふたりとも顔を上げた。
「副社長のデスクに置いてあったの、ブログに載ってた。」
「おいおい、なんだそのドラマみたいな話!」
誠一の声が、少しだけ笑いを混ぜてくれる。
私はその優しさに、救われるような気がした。
「もう、会えないかもしれないけど……あの人が、どこかであのカップを使ってくれてたら。それで、十分なんだ。」
私はそう言いながら、オレンジジュースのグラスを見つめた。
もう一度、ブログをスクロールする。
もしかして、コメント欄があれば――。
会えなくても、何か言葉を残せるかもしれない。
けれど、どこを探しても、見つからなかった。
コメント機能は無効になっていた。
誹謗中傷や悪意の書き込みを避けるためかもしれない。
でも今の私にとっては、その優しささえ、壁に思えた。
「……どうすれば、会えるの?」
スマホの画面を見つめながら、指先に力が入る。
名前も、電話番号も知らない。
ただ、ひとつだけ――。
副社長のブログ
そして、その会社の名前。
私の中で、ひとつの決意が芽生えた。
週明けの昼休み。
キャンパスの片隅にあるカフェテリアで、私は久しぶりに友人たちと昼食をとっていた。
「ひより、なんか痩せた?」
サラダに手を伸ばしながら、岡本さくらが私の顔を覗き込む。
彼女は高校からの友人で、昔から観察眼が鋭い。
「やつれたの間違いじゃねえの?」
からあげ定食を頬張る中野誠一が、苦笑まじりに言った。
彼は大学に入ってからの友人で、私のことを何かと気にかけてくれる。
「実はさ……好きな人に、振られて。」
言葉にした瞬間、胸の奥がちくりと痛んだ。
この二週間、まるで夢だった。
出会って、心が高鳴って、少しずつ距離が縮まった気がして――
でも、気づけば彼の背中を見送っていた。
「振られたって……いつの間にそんな相手が?」
さくらが目を丸くする。
「紹介も何もなかったじゃん。え、同じ学部?」
「ううん、全然違う人。社会人。ちょっと歳の離れた人で……」
「へえー。年上か。いくつぐらい?」
誠一がストローをくわえたまま、興味深そうに聞いてくる。
「十五歳……上。」
ふたりの手が止まった。
「マジか。」
「まさかのガチ大人じゃん!」
私は笑った。泣き笑いみたいな顔で。
「でもね、すごく優しかった。誠実で、真面目で。でもそれが、返って距離を感じるっていうか。」
「それって……自分から離れようとしたってこと?」
さくらが、そっと尋ねた。
私は、こくりと頷いた。
「“君には未来がある”って。そんなこと言われたの、初めてだった。」
「うわ、なんか切ない……」
さくらが小さくつぶやき、誠一はサラダをつついている。
「でも、マグカップひとつだけ、もらってくれたの。」
その一言に、ふたりとも顔を上げた。
「副社長のデスクに置いてあったの、ブログに載ってた。」
「おいおい、なんだそのドラマみたいな話!」
誠一の声が、少しだけ笑いを混ぜてくれる。
私はその優しさに、救われるような気がした。
「もう、会えないかもしれないけど……あの人が、どこかであのカップを使ってくれてたら。それで、十分なんだ。」
私はそう言いながら、オレンジジュースのグラスを見つめた。
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