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第5章 ようやく始まった恋なのに
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「俺、若かったから。そういう芸能人と付き合えたってだけで、浮かれてたんだよ。」
玲央さんは、グラスの中の氷をカランと鳴らして、アイスコーヒーを飲み干した。
その横顔はどこか懐かしさを滲ませていて、少し切なかった。
「でも、玉砕。ある日、結婚するからって言われて、それっきりだった。」
「そうだったんですか……」
私も、自分のグラスを持ち上げて口をつけた。
冷たい液体が喉をすべるのに、なぜか胸の奥が苦しくなる。
「若い時の恋愛って、突然なくなるものだよね。」
玲央さんが笑いながら言った言葉に、私は返す言葉がなかった。
だって、私の恋は玲央さんが“初めて”だから。
突然なくなるなんて、考えたこともなかった。
私の中の恋愛は、今、こうして目の前で微笑むこの人しか知らない。
「……私には、玲央さんしかいません。」
小さな声で、でも真っ直ぐにそう言った。
玲央さんは、少し驚いたように目を丸くしてから、ゆっくりと微笑んだ。
「ありがとう。その気持ち、大事にする。」
その笑顔を見て、私はそっと胸に手を当てた。
この恋が、どうか終わりませんように——。
私たちは美術館を出て、カフェでのひとときを終えた後、エントランスホールへと向かった。
その時だった。角を曲がった瞬間、小さな体とぶつかってしまった。
「わっ、ごめん、僕……!」
慌ててしゃがみ込むと、目の前の男の子が素直に頭を下げた。
「ぼくこそ、ごめんなさい。」
その瞳を見た瞬間、私はふと足を止めた。
どこかで見たような、澄んだ瞳。形の良い眉、すっと通った鼻筋。
「ひより?」
少し後ろから玲央さんがやってきた。
「子供にぶつかっちゃって……ごめんね、びっくりさせちゃったね。」
そう言うと玲央さんは優しくしゃがみ、男の子の頭をぽんと撫でた。
その瞬間、私は確信めいた感覚にとらわれた。
「……その子、玲央さんに似てる。」
ぽつりと漏れた言葉に、玲央さんは一瞬目を見開いた。
私は子供の顔と玲央さんの顔を交互に見つめる。親子と言われても、違和感がないくらいだった。偶然? それとも——。
玲央さんは、少し困ったように微笑んだ。
「似てるかな?」
そう呟きながら、玲央さんは子供を軽々と抱き上げた。
腕の中で無邪気に笑う男の子。
肩越しに見える横顔は、玲央さんの若い頃の写真と重なるようで、私はますます言葉を失った。
「やっぱり……似てます。」
その時だった。
「玲音!」
遠くから聞こえた女性の声に、男の子がぱっと顔を上げた。
「あっ、お母さん!」
玲央さんの腕からするりと抜けるように降りた男の子は、手を振りながら走って行った。
玲央さんは、グラスの中の氷をカランと鳴らして、アイスコーヒーを飲み干した。
その横顔はどこか懐かしさを滲ませていて、少し切なかった。
「でも、玉砕。ある日、結婚するからって言われて、それっきりだった。」
「そうだったんですか……」
私も、自分のグラスを持ち上げて口をつけた。
冷たい液体が喉をすべるのに、なぜか胸の奥が苦しくなる。
「若い時の恋愛って、突然なくなるものだよね。」
玲央さんが笑いながら言った言葉に、私は返す言葉がなかった。
だって、私の恋は玲央さんが“初めて”だから。
突然なくなるなんて、考えたこともなかった。
私の中の恋愛は、今、こうして目の前で微笑むこの人しか知らない。
「……私には、玲央さんしかいません。」
小さな声で、でも真っ直ぐにそう言った。
玲央さんは、少し驚いたように目を丸くしてから、ゆっくりと微笑んだ。
「ありがとう。その気持ち、大事にする。」
その笑顔を見て、私はそっと胸に手を当てた。
この恋が、どうか終わりませんように——。
私たちは美術館を出て、カフェでのひとときを終えた後、エントランスホールへと向かった。
その時だった。角を曲がった瞬間、小さな体とぶつかってしまった。
「わっ、ごめん、僕……!」
慌ててしゃがみ込むと、目の前の男の子が素直に頭を下げた。
「ぼくこそ、ごめんなさい。」
その瞳を見た瞬間、私はふと足を止めた。
どこかで見たような、澄んだ瞳。形の良い眉、すっと通った鼻筋。
「ひより?」
少し後ろから玲央さんがやってきた。
「子供にぶつかっちゃって……ごめんね、びっくりさせちゃったね。」
そう言うと玲央さんは優しくしゃがみ、男の子の頭をぽんと撫でた。
その瞬間、私は確信めいた感覚にとらわれた。
「……その子、玲央さんに似てる。」
ぽつりと漏れた言葉に、玲央さんは一瞬目を見開いた。
私は子供の顔と玲央さんの顔を交互に見つめる。親子と言われても、違和感がないくらいだった。偶然? それとも——。
玲央さんは、少し困ったように微笑んだ。
「似てるかな?」
そう呟きながら、玲央さんは子供を軽々と抱き上げた。
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「やっぱり……似てます。」
その時だった。
「玲音!」
遠くから聞こえた女性の声に、男の子がぱっと顔を上げた。
「あっ、お母さん!」
玲央さんの腕からするりと抜けるように降りた男の子は、手を振りながら走って行った。
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