15歳差の御曹司に甘やかされています〜助けたはずがなぜか溺愛対象に〜 【完結】

日下奈緒

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第5章 ようやく始まった恋なのに

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そして——。

「萌音!」

玲央さんが、その女性の名前を呼んだ瞬間、彼の声の響きが変わった。懐かしさ、驚き、戸惑い——さまざまな感情が一瞬で浮かぶ。

女性も驚いた表情のまま、少しずつ歩み寄る。

「……玲央。」

目の前で交わされる再会の視線。その温度に、私は何も言えなかった。

玲央さんの口元が、微かに笑みに変わる。

私はその瞬間、胸の奥がざわめいた。

「萌音さんって……誰?」──知らない名前に、心が揺れた。

「驚いたよ。そう言えば、結婚したんだもんな。」

玲央さんが穏やかにそう言うと、女性――萌音さんは微笑んだ。

目元にはうっすらと疲れがにじんでいるが、それでも彼女は美しかった。

すらりとした体に品のある仕草。

そして何より、玲央さんと並ぶ姿は、まるで雑誌から抜け出たカップルのようだった。

そんな中、萌音さんの視線が私に向けられた。

「……彼女?」

玲央さんは、少し照れたように頷いた。

「うん。結婚前提で付き合ってる。」

その言葉が、胸の奥にじんわりと響いた。誇らしくて、くすぐったくて、でもどこか不安も混じっていた。玲央さんが誰かの前でそう言ってくれるなんて、初めてだった。

「そう……」

萌音さんの声は、かすかに震えていた。

次の瞬間、ぽろりと涙が零れ落ちる。

「どうした?」

玲央さんが一歩踏み出す。

「ごめんなさい。あなたには、話さないでおきたかったんだけど……」

萌音さんの声は震えていた。そのまま彼女は、ためらうことなく玲央さんの胸に飛び込んだ。

「結婚なんてしてないの。」

「……え?」

玲央さんの声が低く揺れる。

「玲音は……」

その名前に、私は無意識に子供の方へ視線を向けた。

無邪気な笑顔で、母親の姿を見つめている。何も知らずに。

「……あなたの子供なの、玲央。」

私の背筋を冷たいものが這った。

時間が止まったようだった。

「……萌音……本当なのか?」

玲央さんは、萌音さんの肩に手を置き、ゆっくりと距離を取った。

その顔には、驚きと戸惑い、そして責任を感じ取ろうとするような深い影があった。

でも、否定の言葉は──どこにもなかった。

私の中にじわじわと広がっていく、何とも言えない感情。

それが嫉妬なのか、不安なのか、ただの驚愕なのか。

分からなかった。

ただひとつ、確かなのは……玲央さんの過去に、私の知らない“真実”があったということだった。

車に戻ってきた玲央さんの表情は、さっきまでの穏やかさとはまるで別人だった。

「玲央さん……」

私が声をかけると、彼は無言で運転席に腰を下ろし、俯いたまま動かない。やがて震える肩から、ぽろりと涙が落ちた。

「ごめん、ひよりさん……」

その声は、悲しみと後悔で掠れていた。
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