15歳差の御曹司に甘やかされています〜助けたはずがなぜか溺愛対象に〜 【完結】

日下奈緒

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第6章 あなたが甘くなったのは、私のせい?

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「えいっ」と小さく声を出して、私はその扉を押した。

中に入ると、静かな音楽と落ち着いた照明。

グレーのスーツを着た店員さんが、すぐにやってきてにこやかに会釈をした。

「ご覧になりますか?」

「はい、あの……男性へのプレゼントを探していて……」

ふと手に取ったネクタイの値札を見る。

「……っ」

値札に書かれた数字に、思わず声が詰まる。

2万1千円。ネクタイ1本で、私の今月の食費が吹き飛ぶ額だった。

「……ブランド物って、やっぱり高いんですね……」

そっとネクタイを戻しかけたとき、店員さんが優しく声をかけてくれた。

「もし小物がよければ、ネクタイピンなどはいかがでしょうか?」

「ネクタイピン……!」

思いつかなかったその提案に、私はぱっと顔を上げた。

玲央さんはいつも、ネクタイをきちんと締めている。

彼の胸元に、私から贈った小さな輝きがついていたら――

それだけで嬉しくなる。

ガラスケースの中に、いくつか並んだネクタイピン。

その中に、猫のシルエットがさりげなく刻まれた、シルバーのデザインを見つけた。

「これ、かわいい……!」

「こちら、さりげない遊び心のある限定デザインでして。シンプルなので、ビジネスの場でも違和感なくご使用いただけます。」

「これにします!」

お財布を確かめると、ちょうど予算内。

私は胸を張って頷いた。

箱に収められた小さなネクタイピン。

それを手のひらに抱きしめるようにして持ちながら、私はそっとつぶやいた。

「喜んでくれるかな……」

これから会う彼の顔を思い浮かべるだけで、胸がふわりと熱くなる。

夜が、楽しみだった。

そして18時ちょうど。

花壇の前に、玲央さんが現れた。

「今日はワンピースなんだね。」

優しい声に、私ははにかみながら頷いた。

紺色のワンピースに、白い小さなレースのついたカーディガン。

「行こうか。」

「はい。」

手をつなぎながら歩いた先は、私がこっそり予約していたレストラン。

街の喧騒から少し離れた場所にある、小さなイタリアン。

「なんか、かわいいレストランだね。」

玲央さんがドアの前でそう言ってくれた。

窓辺には小さなランプが灯り、アンティーク調のドアノブがやさしくきらめく。

個人経営の、温もりのある店。

私が選んだのには理由があった。

背伸びしすぎない。けれど、特別感はしっかりある。

なにより、私でも――彼にご馳走できる、そんな場所だったから。

「今日は、好きなモノ頼んでください。」

そう言った私の言葉に、玲央さんは驚いたように目を見開いて、それからふっと微笑んだ。

「……夢、叶った?」

「うん。ずっと言ってみたかったの。」

その一瞬、玲央さんの瞳が、いつもよりも優しく揺れた気がした。

店員さんが席へ案内してくれる。

窓際の小さなテーブルには、キャンドルが一つ。

きっとこの夜は、ずっと忘れられない。
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