15歳差の御曹司に甘やかされています〜助けたはずがなぜか溺愛対象に〜 【完結】

日下奈緒

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第8章 二人きりの時間が、なによりも幸せで

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「ああ、うん。まあ、俺っていうよりも――兄さんの方だけど。」

そう言って海さんが軽く笑うと、お母さんの表情がわずかに変わった。

「玲央の?」

その名を聞いた瞬間、ピンと張り詰めるような空気が走る。

そして、お母さんの視線がまっすぐに私へと向けられた。

穏やかだけど、逃げ場のないまなざし。

もう――覚悟を決めよう。

「初めまして。玲央さんには、いつもお世話になっております。」

そう言って、私は小さく頭を下げた。

一礼する手のひらに、じわりと汗がにじむ。

「お世話になっている、というのは……」

お母さんの声が静かに響いた。

「――まさか、特別な関係、なんでしょうか?」

優しい口調なのに、その言葉には確かな圧があった。

私はぎゅっと唇を引き結び、震えそうな声で答える準備をした。

……今、この瞬間からが、本当の意味での試練なのかもしれない。

「ええっと……」言葉を探す私に、さらに追い打ちをかけるようにお母さんが問いかけてくる。

「言えない関係にでも、あるんですか?」

その瞬間、私は自分の中の迷いを振り払った。

――もう、逃げない。

「交際させて頂いています。」

はっきりと、まっすぐに伝えた。

緊張で手のひらが汗ばむ。視線もそらさずに、お母さんの目を見る。

「そう。」

お母さんはじろりと私を見た後、ふっと微笑んだ。

その笑顔は、意外なほど明るくて――逆に、胸が締めつけられるほど安心した。

「玲央も、いい加減女性の一人ぐらい見つけないとね。」

「えっ? 母、そういう感じ?」

思わず素の声が漏れる。

「当たり前でしょ。三十六にもなって、まだ結婚していないのよ?」

あっけらかんとした口調に、思わず吹き出しそうになる。

緊張していた肩の力が、すとんと抜けた。

――よかった。

玲央さんのお母さん、優しい人かもしれない。

……もしかしたら、ちゃんと認めてもらえるかもしれない。

そう思えた瞬間、私は小さく息を吐いた。

「それで?」

お母さんは急に私に興味を持ったのか、目を細めて微笑みながら、矢継ぎ早に質問してきた。

「まだお若いように見えるけれど、おいくつなの? お仕事は? 役職は持っていらっしゃる? 結婚歴は? お子さんはいるの?」

――えっ、なにその質問ラッシュ。

私は思わず固まった。

なんだろう、履歴書でも書かされる気分。

でも、もっと気になったのは――

私って、そんなに年上に見える……?

頭の上に、見えない何かがドサッと落ちてくる感覚。

あれ、もしかして今、ものすごくショック受けてる……私。

すると隣にいた海さんが、くすくす笑いながら言った。

「母、ひよりさんがそんな“大人”に見える?」

お母さんも、あっと気づいたように軽く口元を押さえて笑う。
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