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第8章 二人きりの時間が、なによりも幸せで
⑥
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玲央さんがそう言って、頬をかきながら照れ笑いする。
普段はクールなのに、こういうときだけ子どもみたいに無邪気になるのが、すごく可愛いと思った。
「……結婚したくなったな。」
不意に言われたその言葉に、思わず息が止まりそうになった。
次の瞬間、玲央さんがそっと私の額にキスを落とす。
あたたかくて、柔らかいキス。
胸の奥がじんわり熱くなって、私は小さく「うん」と頷いた。
未来が、少しだけ鮮やかに思い描けた気がした。
週が明けて、私は大学の講義を終えてから、約束通り18時に玲央さんのオフィスビルへと向かった。
駅からの帰り道、そのままだからジーパンにスニーカー。
「……やっぱりラフすぎたかな」
少し不安になりながらも足は止められなかった。
そして、オフィスビルの前に着いた時だった。
高級そうな黒の外車が静かに滑り込むように停まり、その助手席のドアが開いた。
最初に降りてきたのは、見覚えのある顔。玲央さんの弟――海(かい)さん。
その隣のドアが開いた瞬間、胸がドキリと鳴った。
上品なスーツに身を包んだ、年配の女性。
どこか玲央さんと似た目元に、気品ある所作――そう、きっとあの人が、玲央さんのお母さん。
「え……嘘、なんで……」
動揺して、その場から思わず一歩後ずさった。
無意識に、背を向けてしまう。
まだ……まだ心の準備ができてない。
玲央さんのお母さんに会うなんて、こんなジーパン姿で、しかも突然なんて――!
喉の奥がぎゅっと締めつけられるような感覚のまま、私は小さく息を呑んだ。
しかも運が悪いことに、海さんに見つかってしまった。
「――あっ、ひよりさん。」
明るく手を振るその笑顔に、私はぎくっと肩をすくめた。
お願いだから、今は気づかないで――と念じていたのに。
よりによって、こういう時に限って気さくな性格が発揮される。
「兄さんとデート? いいなあ。」
「……はい。」
声を潜めるように返事をすると、海さんがじーっとこちらを見つめてきた。
「えっと……なにか?」
「いや、なんかその格好見て、やっぱり大学生なんだなって思っただけ。」
ああ、やっぱりカジュアルすぎたんだ……と、うつむきかけたそのとき。
「海。」
ピリッとした声が、空気を切り裂くように響いた。
――玲央さんのお母さん。
案の定、気づかれてしまった。
私の視線を正面から捉えるように、その女性は一歩前に出てきた。
背筋がすっと伸びていて、ただ立っているだけなのに威圧感がある。
そして、その目が明らかに「誰?」と問いかけてきていた。
私は小さく一礼をしたものの、心臓がドクドクとうるさく跳ねる。
どうしよう。こんな出会い、想像してなかったのに。
「お知り合いの方?」
けれどその口調は、意外なほど穏やかで、柔らかさすら感じられた。
普段はクールなのに、こういうときだけ子どもみたいに無邪気になるのが、すごく可愛いと思った。
「……結婚したくなったな。」
不意に言われたその言葉に、思わず息が止まりそうになった。
次の瞬間、玲央さんがそっと私の額にキスを落とす。
あたたかくて、柔らかいキス。
胸の奥がじんわり熱くなって、私は小さく「うん」と頷いた。
未来が、少しだけ鮮やかに思い描けた気がした。
週が明けて、私は大学の講義を終えてから、約束通り18時に玲央さんのオフィスビルへと向かった。
駅からの帰り道、そのままだからジーパンにスニーカー。
「……やっぱりラフすぎたかな」
少し不安になりながらも足は止められなかった。
そして、オフィスビルの前に着いた時だった。
高級そうな黒の外車が静かに滑り込むように停まり、その助手席のドアが開いた。
最初に降りてきたのは、見覚えのある顔。玲央さんの弟――海(かい)さん。
その隣のドアが開いた瞬間、胸がドキリと鳴った。
上品なスーツに身を包んだ、年配の女性。
どこか玲央さんと似た目元に、気品ある所作――そう、きっとあの人が、玲央さんのお母さん。
「え……嘘、なんで……」
動揺して、その場から思わず一歩後ずさった。
無意識に、背を向けてしまう。
まだ……まだ心の準備ができてない。
玲央さんのお母さんに会うなんて、こんなジーパン姿で、しかも突然なんて――!
喉の奥がぎゅっと締めつけられるような感覚のまま、私は小さく息を呑んだ。
しかも運が悪いことに、海さんに見つかってしまった。
「――あっ、ひよりさん。」
明るく手を振るその笑顔に、私はぎくっと肩をすくめた。
お願いだから、今は気づかないで――と念じていたのに。
よりによって、こういう時に限って気さくな性格が発揮される。
「兄さんとデート? いいなあ。」
「……はい。」
声を潜めるように返事をすると、海さんがじーっとこちらを見つめてきた。
「えっと……なにか?」
「いや、なんかその格好見て、やっぱり大学生なんだなって思っただけ。」
ああ、やっぱりカジュアルすぎたんだ……と、うつむきかけたそのとき。
「海。」
ピリッとした声が、空気を切り裂くように響いた。
――玲央さんのお母さん。
案の定、気づかれてしまった。
私の視線を正面から捉えるように、その女性は一歩前に出てきた。
背筋がすっと伸びていて、ただ立っているだけなのに威圧感がある。
そして、その目が明らかに「誰?」と問いかけてきていた。
私は小さく一礼をしたものの、心臓がドクドクとうるさく跳ねる。
どうしよう。こんな出会い、想像してなかったのに。
「お知り合いの方?」
けれどその口調は、意外なほど穏やかで、柔らかさすら感じられた。
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