92 / 99
第10章 15歳差の恋、いま永遠になる
②
しおりを挟む
私が小声で聞くと、母はちらりと私を見て、苦笑まじりに言った。
「お父さんがね、見栄張ったのよ。」
「え……お父さんが?」
「『娘が年上の立派な人を連れてくるんだろう?なら、こちらも失礼のないように』って。あの人なりの緊張よ。」
私は思わず吹き出しそうになった。
普段は無頓着なくせに、こういうときだけ妙に張り切る父の姿が目に浮かぶ。
でも、それはつまり──
この出会いを、本気で受け止めてくれているということ。
応接間に戻ると、玲央さんは掛け軸の方に目をやりながら、どこか居心地悪そうに座っていた。
私は隣にそっと腰を下ろして、彼の手にそっと触れる。
「大丈夫。……緊張してるの、うちの家族も一緒だから。」
玲央さんは、ふっと息をつきながら、小さく笑った。
「お父さん、この度はお時間を取って頂き……」
「ゴホンっ!」
玲央さんの丁寧な挨拶が始まるや否や、父がわざとらしく咳ばらいをした。
まるで“まだその話は早い”とでも言いたげなタイミング。
「まずは、お茶でも。」
「はい、頂きます。」
玲央さんが差し出された湯飲みにそっと手を添える。
けれど、その指先がわずかに震えているのを、私は見逃さなかった。
……そして、玲央さんだけじゃない。
父の湯飲みを持つ手も、ほんの少し震えていた。
「お父さん、本日はお話があって……」
「ゴホンっ、ゴホンっ。」
再び咳払い。今度はダブルで。
そのままスッと立ち上がると、応接間の床の間に飾られた花瓶を指差した。
「……この花は、山茶花です。冬に咲くけれど、非常に長く持つんですよ。」
ん? 話の流れどこ行った?
父の“もったいぶり”が空回りしていて、私は思わず笑いそうになる。
そして次の瞬間、父はわざとらしく真面目な表情を作りながら言った。
「聞くところによりますと……社長ご一家とのことで。」
あれ? 敬語?
父の声が、微妙にかしこまりすぎている。
「はい。一ノ瀬グループの一社に勤めております。私はその副社長をしております。」
玲央さんは、真剣にうなずきながら応える。
その姿はやっぱり“大人の男”で、私はちょっと誇らしくなった。
父の口元がピクッと動いた。
「副社長、とは……すごいですね。」
と言いつつ、声が少し上ずっている。
たぶん、父なりに“相手の器を見極めてやろう”と思っていたのに、思ったより大物が来てしまって焦っているのだ。
そのやりとりを黙って見ていた母が、クスッと笑いながらお茶を足してくれた。
「あら、あなた、肩の力入りすぎじゃない?」
「う、うるさいな……!」
私と玲央さんは、思わず顔を見合わせて小さく笑った。
まだ始まったばかり。
だけどこの空気なら、ちゃんと伝えられる気がする。
“大切にします”という言葉だけじゃない、
本当に信じてもらえるような想いを、きっと──
「お父さんがね、見栄張ったのよ。」
「え……お父さんが?」
「『娘が年上の立派な人を連れてくるんだろう?なら、こちらも失礼のないように』って。あの人なりの緊張よ。」
私は思わず吹き出しそうになった。
普段は無頓着なくせに、こういうときだけ妙に張り切る父の姿が目に浮かぶ。
でも、それはつまり──
この出会いを、本気で受け止めてくれているということ。
応接間に戻ると、玲央さんは掛け軸の方に目をやりながら、どこか居心地悪そうに座っていた。
私は隣にそっと腰を下ろして、彼の手にそっと触れる。
「大丈夫。……緊張してるの、うちの家族も一緒だから。」
玲央さんは、ふっと息をつきながら、小さく笑った。
「お父さん、この度はお時間を取って頂き……」
「ゴホンっ!」
玲央さんの丁寧な挨拶が始まるや否や、父がわざとらしく咳ばらいをした。
まるで“まだその話は早い”とでも言いたげなタイミング。
「まずは、お茶でも。」
「はい、頂きます。」
玲央さんが差し出された湯飲みにそっと手を添える。
けれど、その指先がわずかに震えているのを、私は見逃さなかった。
……そして、玲央さんだけじゃない。
父の湯飲みを持つ手も、ほんの少し震えていた。
「お父さん、本日はお話があって……」
「ゴホンっ、ゴホンっ。」
再び咳払い。今度はダブルで。
そのままスッと立ち上がると、応接間の床の間に飾られた花瓶を指差した。
「……この花は、山茶花です。冬に咲くけれど、非常に長く持つんですよ。」
ん? 話の流れどこ行った?
父の“もったいぶり”が空回りしていて、私は思わず笑いそうになる。
そして次の瞬間、父はわざとらしく真面目な表情を作りながら言った。
「聞くところによりますと……社長ご一家とのことで。」
あれ? 敬語?
父の声が、微妙にかしこまりすぎている。
「はい。一ノ瀬グループの一社に勤めております。私はその副社長をしております。」
玲央さんは、真剣にうなずきながら応える。
その姿はやっぱり“大人の男”で、私はちょっと誇らしくなった。
父の口元がピクッと動いた。
「副社長、とは……すごいですね。」
と言いつつ、声が少し上ずっている。
たぶん、父なりに“相手の器を見極めてやろう”と思っていたのに、思ったより大物が来てしまって焦っているのだ。
そのやりとりを黙って見ていた母が、クスッと笑いながらお茶を足してくれた。
「あら、あなた、肩の力入りすぎじゃない?」
「う、うるさいな……!」
私と玲央さんは、思わず顔を見合わせて小さく笑った。
まだ始まったばかり。
だけどこの空気なら、ちゃんと伝えられる気がする。
“大切にします”という言葉だけじゃない、
本当に信じてもらえるような想いを、きっと──
11
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
【完結】エリート産業医はウブな彼女を溺愛する。
花澤凛
恋愛
第17回 恋愛小説大賞 奨励賞受賞
皆さまのおかげで賞をいただくことになりました。
ありがとうございます。
今好きな人がいます。
相手は殿上人の千秋柾哉先生。
仕事上の関係で気まずくなるぐらいなら眺めているままでよかった。
それなのに千秋先生からまさかの告白…?!
「俺と付き合ってくれませんか」
どうしよう。うそ。え?本当に?
「結構はじめから可愛いなあって思ってた」
「なんとか自分のものにできないかなって」
「果穂。名前で呼んで」
「今日から俺のもの、ね?」
福原果穂26歳:OL:人事労務部
×
千秋柾哉33歳:産業医(名門外科医家系御曹司出身)
クールなイケメン御曹司が私だけに優しい理由~隣人は「溺愛」という「愛」を教えてくれる~
けいこ
恋愛
マンションの隣の部屋に引越してきたのは、
超絶イケメンのとても優しい男性だった。
誰かを「愛」することを諦めていた詩穂は、
そんな彼に密かに恋心を芽生えさせる。
驚くことに、その彼は大型テーマパークなどを経営する
「桐生グループ」の御曹司で、
なんと詩穂のオフィスに課長として現れた。
でも、隣人としての彼とは全く違って、
会社ではまるで別人のようにクールで近寄り難い。
いったいどっちが本当の彼なの?
そして、会社以外で私にとても優しくするのはなぜ?
「桐生グループ」御曹司
桐生 拓弥(きりゅう たくみ) 30歳
×
テーマパーク企画部門
姫川 詩穂(ひめかわ しほ) 25歳
不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。
俺様外科医の溺愛、俺の独占欲に火がついた、お前は俺が守る
ラヴ KAZU
恋愛
ある日、まゆは父親からお見合いを進められる。
義兄を慕ってきたまゆはお見合いを阻止すべく、車に引かれそうになったところを助けてくれた、祐志に恋人の振りを頼む。
そこではじめてを経験する。
まゆは三十六年間、男性経験がなかった。
実は祐志は父親から許嫁の存在を伝えられていた。
深海まゆ、一夜を共にした女性だった。
それからまゆの身が危険にさらされる。
「まゆ、お前は俺が守る」
偽りの恋人のはずが、まゆは祐志に惹かれていく。
祐志はまゆを守り切れるのか。
そして、まゆの目の前に現れた工藤飛鳥。
借金の取り立てをする工藤組若頭。
「俺の女になれ」
工藤の言葉に首を縦に振るも、過去のトラウマから身体を重ねることが出来ない。
そんなまゆに一目惚れをした工藤飛鳥。
そして、まゆも徐々に工藤の優しさに惹かれ始める。
果たして、この恋のトライアングルはどうなるのか。
エリート御曹司に甘く介抱され、独占欲全開で迫られています
小達出みかん
恋愛
旧題:残業シンデレラに、王子様の溺愛を
「自分は世界一、醜い女なんだーー」過去の辛い失恋から、男性にトラウマがあるさやかは、恋愛を遠ざけ、仕事に精を出して生きていた。一生誰とも付き合わないし、結婚しない。そう決めて、社内でも一番の地味女として「論外」扱いされていたはずなのに、なぜか営業部の王子様•小鳥遊が、やたらとちょっかいをかけてくる。相手にしたくないさやかだったが、ある日エレベーターで過呼吸を起こしてしまったところを助けられてしまいーー。
「お礼に、俺とキスフレンドになってくれない?」
さやかの鉄壁の防御を溶かしていく小鳥遊。けれど彼には、元婚約者がいてーー?
地味女だけど次期社長と同棲してます。―昔こっぴどく振った男の子が、実は御曹子でした―
千堂みくま
恋愛
「まりか…さん」なんで初対面から名前呼び? 普通は名字じゃないの?? 北条建設に勤める地味なOL恩田真梨花は、経済的な理由から知り合ったばかりの次期社長・北条綾太と同棲することになってしまう。彼は家事の代償として同棲を持ちかけ、真梨花は戸惑いながらも了承し彼のマンションで家事代行を始める。綾太は初対面から真梨花に対して不思議な言動を繰り返していたが、とうとうある夜にその理由が明かされた。「やっと気が付いたの? まりかちゃん」彼はそう囁いて、真梨花をソファに押し倒し――。○強がりなくせに鈍いところのある真梨花が、御曹子の綾太と結ばれるシンデレラ・ストーリー。○第15回恋愛小説大賞に参加しています。もしよろしければ応援お願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる