家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました

日下奈緒

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第2部 初夜の誤解と、優しい眼差し

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それとも……何か、言えない理由でもあるの?

セドリックの横顔を盗み見ると、彼は穏やかな笑みを浮かべていたが、何かを隠しているようにも見えた。

私の胸の奥に、言いようのないざわめきが広がっていくのを感じた。

その時、セドリックは別の同級生に声をかけられ、軽く私たちに会釈をして席を外した。

「行ってしまったわね。」

私がぽつりと言うと、彼女も小さく頷いた。

「ええ。」

彼女はそのまま立ち去ろうとしたが、なぜか私はその背に声をかけていた。

――理性よりも先に、心が動いた。

「あなた……結婚は?」

彼女は少しだけ振り返った。

「していません。」

「そう。見たところ、育ちの良さそうなご令嬢に見えるけれど……」

それは率直な印象だった。

着こなしも所作も洗練されていて、明らかに平民とは違う。

彼女は一瞬驚いたように私を見つめ、そしてそのまま、まっすぐ私をじっと見据えた。

「セドリックから……何も聞いていないの?」

その問いに、私は目を瞬いた。

――何もって、どういうこと?

言葉の奥に含まれた何かを察しつつ、答えを返せずに立ち尽くしていた。

「私は……貴族の家庭育ちではないわ。」

彼女は静かに言葉を紡いだ。

「でも、セドリックの幼馴染みで、その……」

「その?」と促すと、彼女は一瞬ためらい、そしてはっきりと続けた。

「彼と結婚する予定だったの。」

その瞬間、胸の奥が冷たくなったような気がした。息が止まり、鼓動が不自然な音を立てる。

「どうして? ダメになったの?」

彼女は少しだけ目を伏せ、唇を噛んでから答えた。

「……あなたとの結婚が持ち上がったから。」

その言葉は、私の心を鋭く刺した。

――どうして?

彼女と結婚するはずだったのに、なぜ私との政略結婚を選んだの?

私には、そばかすしかない。

政略といえど、彼には既に心を交わしていた相手がいたのに。

セドリックは、彼女の想いをどう受け止め、どうして私の元に来たのか――

その理由を、私はまだ知らない。

けれど、彼女の悲しげな眼差しは、すべてを物語っていた。

「私には、彼の出世を手助けする地位も名誉もなかったの。」

彼女は苦しそうに微笑みながら、そう呟いた。

――それはつまり、セドリックにとって、私との結婚は“貴族としての未来”を確かなものにするため。

「……私も、貴族に生まれたかったわ。」
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