家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました

日下奈緒

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第4部 舞踏会の招待

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屋敷に戻ると、食堂の扉が開いていた。

中へ入ると、そこにはテーブルに肘をついて待つセドリックの姿があった。

「どうして待っていたの? 先に食べていてよかったのに。」

私が席に着くと、彼はナイフとフォークを静かに手に取りながら、私の顔をじっと見つめた。

「君を待っていたんだよ。せっかくの舞踏会の夜だから、二人で食べたいと思って。」

そんなふうに言われて、胸が温かくなった。

けれど、彼は私の笑顔の裏にある不安を見抜いていたらしい。

「舞踏会、どうだった?」

「ええ、楽しかったわ。」

それは本当。

エミリアやリリアンと久しぶりに再会し、笑い合えたのは素直に嬉しかった。

けれど、その裏でルシアの言葉や態度が、ずっと胸に刺さっていた。

「元気がないね。」

セドリックは穏やかにそう言った。

その優しさが、胸に沁みる。彼には、私の小さな変化すら分かるのだ。

「セドリックは舞踏会へ行ったことがある?」

夕食の席で、ふと思い出して尋ねた。彼は少し考えてから答えた。

「数回ね。若い頃に何度か。」

「ダンスの相手って、どうやって決めるの?」

私の問いに、セドリックは一瞬黙り、じっと私の目を見つめた。

「もしかして……誰も君と踊ってくれなかったのか?」

「そんなことないわ。あなたのご友人の、バルモント伯爵が踊ってくれたわ。でも、その人だけ。」

思い出すと、胸の奥が少しだけ痛んだ。セドリックは黙って俯いた。

「確か、君の友人は……公爵夫人だったね?」

「ええ。エミリアも、リリアンも。」

「……そうか。」

セドリックは苦笑して、そっと手を私の手に重ねた。

「気にするな。公爵どもは、目が悪いんだよ。」

その言葉に、思わず私は吹き出した。そして少しだけ、心が軽くなった気がした。

「ええ?目が悪い?」

私は思わず問い返した。

「君の美しさに気づかないなんて、不幸な野郎どもだ。」

セドリックの言葉に、思わず笑ってしまった。けれどその優しさが、胸に沁みる。

「舞踏会には、そのドレスで行ったの?」

「そうなの。やっぱり地味だったかしら?」

少しだけ不安になって聞くと、セドリックは首を振った。

「いや、君らしかった。でもね……何かが足りないと思った。」

「何が足りないの?」

私は彼の顔に近づき、声を潜めて聞いた。

「飾りと宝石だよ。」

その答えに、私はくすっと笑った。

「伯爵夫人が、飾りや宝石がたくさんついた格好で舞踏会に行くものかしら?」

「行ってもいいんじゃないか?君が輝くためなら。」

セドリックは真剣な顔でそう言った。その瞳に映る私は、確かに少しだけ誇らしくなっていた。
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