家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました

日下奈緒

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第5部 恋のまねごとと、伯爵の怒り

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「ルシア。探したよ。」

その一言に、ルシアの肩がピクリと震えた。まるで寒気でも感じたかのように、彼女はゆっくりと振り返る。

「……私がどこにいるのか、探したのですか?」

声は冷たく、笑みすらない。

だがアルバート王子は気にも留めず、朗らかに頷いた。

「当たり前だろ。君は僕の婚約者だぞ。」

もし彼が誰もが見惚れるような王子であれば、絵になる言葉だったかもしれない。

だが、不釣り合いなその言葉が、どこか空虚に響く。

ルシアは視線をそらし、小さくため息をついた。

「まだ、婚約を受け入れるとはお返事していません。」

その返答にも、アルバートは気にする様子もない。

むしろ当然のように言い放った。

「でも、もう決まったも同然だ。父上と公爵閣下の間で話はついている。」

ルシアの顔がみるみる青ざめていくのが、遠目にもはっきりと分かった。

これが――彼女が望んだ結婚の相手なのか。

かつて私を嘲り笑っていたあの妹でも、これはさすがに気の毒だと、心のどこかで思ってしまう。

「ルシア、僕は君に夢中だ。」

そう言ってアルバート王子は、誰もが見ている前でルシアの肩を引き寄せ、抱きしめた。

「きゃ……!」

ルシアの顔から血の気が引く。

体をこわばらせ、まるで毒蛇にでも巻きつかれたかのような表情だった。

周囲もその様子にざわめき、誰もが視線を交わし合っていた。

「私は……少し、失礼します。」

ルシアはかろうじて微笑みを浮かべながら、アルバート王子の腕をそっと振りほどいた。

その仕草は丁寧でありながら、明らかに拒絶の意志を込めたものだった。

「ルシアは、恥ずかしがりやだな。」

アルバート王子は、先ほどルシアに丁寧に拒絶されたことなど意にも介さぬ様子で、にやりと笑いながらつぶやいた。

その表情はまるで、恋に夢中な少年のよう――だが、王族でありながら空気を読まないその態度に、私は思わず口を開いたまま呆然としてしまう。

必要のない、いやむしろ厄介な前向きさ。

(この人……すごい意味で手強いわ)

そう思った次の瞬間、彼の視線がふとこちらへ向いた。

「……ん?」

私と目が合ったのだ。にこりと笑うアルバート王子。その笑顔に、なぜか全身がぞくっとした。

「そちらの方は?」

王子が私に向かって歩いてくる。

(うそ、こっち来るの……!?)

周囲の視線が再び集中する中、私は何とか微笑みを作りながら、背筋を伸ばして迎えるしかなかった。
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