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第5部 恋のまねごとと、伯爵の怒り
①
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舞踏会のざわめきの中、ひときわ高貴な装いの紳士がルシアに近づいた。
「これは……エルバリー公爵令嬢では?」
彼の声に周囲がざわめく。
ルシアは涼しい顔で一礼した。
「はい。エルバリー家のルシアです。」
まるで事務的に処理するような素っ気ない態度だったが、相手はそれに構わず、さらに踏み込んだ。
「そう言えば、公爵令嬢は婚約がお決まりだとか。」
一瞬、空気が凍った。
ルシアはピクリとも動かず、何も言わない。
「婚約?」
私は思わず声を上げた。
頭の中で言葉がこだまする。
「知らないのですか?」
声をかけてきた紳士は、やや驚いたように眉をあげた。
「エルバリー公爵令嬢は、アルバート・フェルゼン王子との婚約が発表されたばかりですよ。」
「えっ……?」
信じられなかった。私の妹が、王子と――?
ルシアの方を向くと、彼女はわざとらしく小さく首をかしげた。
「そうだったかしら?あまり記憶にないわ。」
そのしらじらしい態度に、胸がざわついた。
「ルシア、本当なの?」
私が問いただすように言うと、彼女はゆっくりと微笑んだ。
「そうみたいね。」ルシアは淡々と答えた。
「そうみたいって……自分のことじゃないの?」
私は驚きと困惑を隠せず、問い返した。
「お父様が勝手に決めたことよ。」
そう言って、ルシアはつまらなさそうに肩をすくめた。
私は思わず言葉を詰まらせた。
エルバリー公爵――あの父が、ルシアにも政略結婚を強いていたということ。
自分だけが特別扱いされていたわけじゃなかった。
でも、相手は王子。
王族との婚約なら、ルシアにとってはむしろ誇らしいことのはず。
それなのに、なぜ彼女は知らない振りをし、まるで興味もないような態度をとるの?
その時、会場がざわついた。人々が次々に動きを止め、恭しく頭を下げていく。
私もセドリックと目を合わせ、つられるように頭を下げた。
「アルバート・フェルゼン王子のおなりです。」
声高に告げられた名に、空気が張りつめる。カッ、カッと硬い靴音が床に響いた。王族の登場らしく、威厳のある足音だった。
だが私はそっと顔を上げ、その姿を目にした瞬間、思わず目を見開いた。
(この方が……ルシアの婚約者?)
王族といえば、端正な顔立ちに気品を備えた美男子の印象がある。
それなのに、そこに現れたアルバート王子は、どこかぼんやりとした顔つきで、背も高くなく、しかも太めの体型。
顔の造りも整っているとは言いがたく、社交界で噂されていた“不細工な王子”という言葉を、思わず信じてしまうほどだった。
それでも、王子の背筋は伸びており、歩みに迷いはなかった。
ゆっくりと、確実にルシアのもとへ向かっている――まるで彼女しか見えていないように。
私はその視線の熱に、なぜかぞっとした。
「これは……エルバリー公爵令嬢では?」
彼の声に周囲がざわめく。
ルシアは涼しい顔で一礼した。
「はい。エルバリー家のルシアです。」
まるで事務的に処理するような素っ気ない態度だったが、相手はそれに構わず、さらに踏み込んだ。
「そう言えば、公爵令嬢は婚約がお決まりだとか。」
一瞬、空気が凍った。
ルシアはピクリとも動かず、何も言わない。
「婚約?」
私は思わず声を上げた。
頭の中で言葉がこだまする。
「知らないのですか?」
声をかけてきた紳士は、やや驚いたように眉をあげた。
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「えっ……?」
信じられなかった。私の妹が、王子と――?
ルシアの方を向くと、彼女はわざとらしく小さく首をかしげた。
「そうだったかしら?あまり記憶にないわ。」
そのしらじらしい態度に、胸がざわついた。
「ルシア、本当なの?」
私が問いただすように言うと、彼女はゆっくりと微笑んだ。
「そうみたいね。」ルシアは淡々と答えた。
「そうみたいって……自分のことじゃないの?」
私は驚きと困惑を隠せず、問い返した。
「お父様が勝手に決めたことよ。」
そう言って、ルシアはつまらなさそうに肩をすくめた。
私は思わず言葉を詰まらせた。
エルバリー公爵――あの父が、ルシアにも政略結婚を強いていたということ。
自分だけが特別扱いされていたわけじゃなかった。
でも、相手は王子。
王族との婚約なら、ルシアにとってはむしろ誇らしいことのはず。
それなのに、なぜ彼女は知らない振りをし、まるで興味もないような態度をとるの?
その時、会場がざわついた。人々が次々に動きを止め、恭しく頭を下げていく。
私もセドリックと目を合わせ、つられるように頭を下げた。
「アルバート・フェルゼン王子のおなりです。」
声高に告げられた名に、空気が張りつめる。カッ、カッと硬い靴音が床に響いた。王族の登場らしく、威厳のある足音だった。
だが私はそっと顔を上げ、その姿を目にした瞬間、思わず目を見開いた。
(この方が……ルシアの婚約者?)
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それなのに、そこに現れたアルバート王子は、どこかぼんやりとした顔つきで、背も高くなく、しかも太めの体型。
顔の造りも整っているとは言いがたく、社交界で噂されていた“不細工な王子”という言葉を、思わず信じてしまうほどだった。
それでも、王子の背筋は伸びており、歩みに迷いはなかった。
ゆっくりと、確実にルシアのもとへ向かっている――まるで彼女しか見えていないように。
私はその視線の熱に、なぜかぞっとした。
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