婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました

日下奈緒

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2.新しい恋

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あの日のことが、まだ胸に重くのしかかっている。

クリフがセシリーと結婚し、私の未来はすっかり変わってしまった。

周囲の誰もが同情の目を向けてくれるが、正直なところ、慰めの言葉もどこか空虚に感じていた。

そんな私をいつもからかう幼馴染、グレイブ・ワイズ騎士団長は、今日も相変わらずだった。

「おい、アーリン。そんなに下を向いていると、君らしくないぞ」

彼の声が、どこか軽やかに響いた。

グレイブはいつも私をからかいながらも、その目には優しさが隠れている。


「ワイズ家の姉妹が皇太子妃と……それは誇るべきことだ。姉も妹も一緒に喜べばいい」

周囲は皆そう言うけれど、私には複雑な思いが消えなかった。

「だけどな、アーリン。元気出せよ。お前の笑顔を見ないと、騎士団長としても困るんだ」

グレイブはそう言って、にやりと笑った。

まるで、私たちが長年連れ添った友人同士のようだった。

「君が辛いのは分かる。けれど、これで終わりじゃない。新しい道がきっとある」

その言葉は、ただの慰めではなく、私への真剣な励ましだった。


私は少しだけ、心の奥で何かが動くのを感じた。

グレイブの明るさと強さが、まるで私の暗闇に差し込む光のようだった。

「ありがとう、グレイブ」

そう呟くと、彼は得意げに胸を張り、

「よし、それでこそ俺の幼馴染だ。これからも一緒に戦っていこうな。」

その言葉に、私は自然と笑顔を返した。

クリフへの想いは消え去ったわけではないけれど、少なくとも今は、グレイブの存在が私の支えになっていた。


グレイブは相変わらずだった。婚約破棄の報せが広まってからというもの、毎晩のように私の部屋の窓の外に現れる。

「おい、アーリン。いっそ俺にしとけ」

低い声でささやくグレイブの姿は、まるで影の守護者のようだった。

最初はただの幼馴染のからかいだと思っていた。

けれど、彼の言葉にはどこか真剣さが混じっている。

「俺ならおまえを心から大事にするって、忘れてないだろ?」

私の心は揺れた。幼い頃からずっとそばにいてくれた彼が、こんな言葉を口にするなんて――。

でも、正直なところ、まだその気にはなれなかった。

「いつかあなたがもっとかっこよくなったらね」

私は嫌味を込めて返す。それは彼に対する遠慮ではなく、私自身を守るための壁だった。

グレイブは肩をすくめて笑った。

「その日を楽しみに待ってるよ」

その何気ない一言が、妙に励みになる。

彼の存在が、私にとっての癒しの時間になっていた。


夜の静けさの中で、窓越しに交わす言葉。

幼馴染以上の何かを感じながらも、まだ踏み出せずにいる私。

けれど、グレイブがいてくれることで、少しずつ前を向ける気がした。

彼の温かさに触れながら、私は新しい自分を見つけ始めているのかもしれない。
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