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1、夜会
⑤
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晩餐会の華やかな余韻がまだ残る宮殿の一室で、国王と王妃は私に向かって穏やかな声で言った。
「クリフの気持ちは、放っておけばいずれ収まるだろう。心配しすぎることはないよ、アーリン」
私はただ黙って頷いた。
国王と王妃の言葉に、どこか安心したかったのかもしれない。
けれど、その安心はまもなく崩れ去った。
それから数日後のこと。私はふとした瞬間、カーテンの陰から彼らの姿を目にしてしまった。
クリフがセシリーの自室の前で待ち伏せるように立っている。
彼の目にはためらいはなく、確かな決意が宿っていた。
セシリーが現れると、クリフは迷いなく彼女の手を取り、静かに引き寄せた。
そして、二人は唇を重ねた。
あの優しかったクリフの姿はそこにはなく、ただ情熱的に、セシリーに向ける視線が私を貫いた。
その瞬間、胸の奥から何かが音を立てて崩れ落ちた。
もう私には、彼への想いはないのだと痛感した。
涙は出なかった。
ただ、深い喪失感が静かに心を包み込んだ。
彼がもう私のものではない。
彼の心は、遠く、セシリーのもとへと向かっている。
それを目の当たりにした私は、静かにその場を離れた。
暗闇の中で、自分の感情と向き合いながら、私は新たな決意を胸に抱いたのだった。
あの日、宮殿の大広間は静寂に包まれていた。
クリフが家臣たちの前で宣言をするという知らせに、誰もが息を呑んだ。
私は、心のどこかでこの日が来ることを覚悟していた。
けれど、いざその場に立ち会うと、胸の奥が締めつけられて言葉を失った。
クリフは凛とした表情で、はっきりと宣言した。
「私はアーリンとの婚約を破棄する。これ以上、彼女を欺くわけにはいかない。私はセシリーと結婚する。」
その声は揺らぐことなく、誰にも否定の余地を与えなかった。
国王も王妃も、静かに彼の言葉を聞いていた。
反論はなかった。何も言わなかった。
その沈黙が、私にとって何よりも痛かった。
一週間後、セシリーは正式に皇太子妃となった。
お妃教育も受けずに――まるで急いで仕立て上げられたかのように、彼女は新しい冠を頭に戴いていた。
私はただ、遠くからそれを見つめることしかできなかった。
あのクリフの笑顔は、もう私のためのものではなかった。
私の未来は、知らない誰かに奪われてしまった。
だが、心の奥底で一つだけ、確かなことがあった。
私は、これからの道を自分の足で歩かなければならないのだと。
「クリフの気持ちは、放っておけばいずれ収まるだろう。心配しすぎることはないよ、アーリン」
私はただ黙って頷いた。
国王と王妃の言葉に、どこか安心したかったのかもしれない。
けれど、その安心はまもなく崩れ去った。
それから数日後のこと。私はふとした瞬間、カーテンの陰から彼らの姿を目にしてしまった。
クリフがセシリーの自室の前で待ち伏せるように立っている。
彼の目にはためらいはなく、確かな決意が宿っていた。
セシリーが現れると、クリフは迷いなく彼女の手を取り、静かに引き寄せた。
そして、二人は唇を重ねた。
あの優しかったクリフの姿はそこにはなく、ただ情熱的に、セシリーに向ける視線が私を貫いた。
その瞬間、胸の奥から何かが音を立てて崩れ落ちた。
もう私には、彼への想いはないのだと痛感した。
涙は出なかった。
ただ、深い喪失感が静かに心を包み込んだ。
彼がもう私のものではない。
彼の心は、遠く、セシリーのもとへと向かっている。
それを目の当たりにした私は、静かにその場を離れた。
暗闇の中で、自分の感情と向き合いながら、私は新たな決意を胸に抱いたのだった。
あの日、宮殿の大広間は静寂に包まれていた。
クリフが家臣たちの前で宣言をするという知らせに、誰もが息を呑んだ。
私は、心のどこかでこの日が来ることを覚悟していた。
けれど、いざその場に立ち会うと、胸の奥が締めつけられて言葉を失った。
クリフは凛とした表情で、はっきりと宣言した。
「私はアーリンとの婚約を破棄する。これ以上、彼女を欺くわけにはいかない。私はセシリーと結婚する。」
その声は揺らぐことなく、誰にも否定の余地を与えなかった。
国王も王妃も、静かに彼の言葉を聞いていた。
反論はなかった。何も言わなかった。
その沈黙が、私にとって何よりも痛かった。
一週間後、セシリーは正式に皇太子妃となった。
お妃教育も受けずに――まるで急いで仕立て上げられたかのように、彼女は新しい冠を頭に戴いていた。
私はただ、遠くからそれを見つめることしかできなかった。
あのクリフの笑顔は、もう私のためのものではなかった。
私の未来は、知らない誰かに奪われてしまった。
だが、心の奥底で一つだけ、確かなことがあった。
私は、これからの道を自分の足で歩かなければならないのだと。
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