婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました

日下奈緒

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6.財政悪化

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弱弱しくうなだれるクリフを前に、私はかつての優しい彼を思い出していた。

「どうしたの? 何かあったの?」

気づけば私はそっと彼に近づき、声をかけていた。

するとクリフは、迷いながらも私に手を伸ばした。

その震える指先を、私は思わず握っていた。


「私は……王妃選びを間違えたらしい。」

ぽつりとこぼれた言葉に、私は目を瞬いた。

宝石に身を包み、民の苦しみには目もくれないセシリーの姿が脳裏に浮かぶ。


「それは……贅沢思考のセシリーが嫌になったってこと?」

問いかけると、クリフはふいに私の腕を引き寄せ、胸元に顔をうずめてきた。

「それだけじゃない。セシリーは……私のことを、愛していないんだ。」

私は息を呑んだ。

あれほど愛し合っていたように見えた二人の間に、そんな溝があるなんて。

私には、思いもよらない事実だった。

「セシリーが私に想いを寄せていたかのように見せていたのは、王妃になり贅沢な暮らしをしたいが為だった。決して私を愛してなどいなかった。」

クリフの言葉には、深い痛みが滲んでいた。

私は何も言えず、ただその苦しみを受け止めた。

「一目惚れなど信じた私が馬鹿だった。立場を失ってもなお、国を守ろうとするアーリンこそ、王妃に相応しい。」

その言葉が胸の奥に届いて、じんわりと熱を帯びる。

私は王妃になりたくて国を救おうとしているのではない。

けれど、そう言われることが、こんなにも嬉しく、そして切なかった。

誰だって、一瞬で恋に落ちれば、それを“運命”だと信じたくなる。

クリフもきっと、セシリーとの出会いを、運命だと信じて疑わなかったのだろう。

だからこそ、その幻想が崩れた今、彼の心には深い虚しさだけが残っていた。

「国王。王妃に相応しいと仰っていただいて、誠に感謝しています。」

私はそっとクリフを抱きしめた。

かつて愛した人。その温もりは懐かしく、けれど今は違う意味を持っていた。

「ですが、あなたが選んだセシリーを信じて下さい。」

そう言って身を離そうとした瞬間——


「そうだ、アーリンを王妃にすればいいんだ。」

驚いて振り返ると、クリフの目はまっすぐに私だけを見つめていた。

「何を馬鹿な……国王の配偶者から王妃の立場を奪うことはできません。」

私が否定すると、クリフはふっと笑いながら言い放った。

「セシリーとは離婚する!」

その瞳には狂気にも似た執着が宿っていた。私は思わず息を呑む。

「なあ、アーリン。また私たちは愛し合おう。」

――違う。私はもう、あの頃の私じゃない。

私の心は、グレイブにある。

けれど、今のクリフはそれを理解しようとしていない。

ただ私だけを、必死に求めているのだ。
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