俺だけ“使えないスキル”を大量に入手できる世界

小林一咲

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第7話 安全確認係、固定化される

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 ギルドの掲示板は、もう俺の動線を覚えている気がした。

 入口から三歩。右端。低い位置。危険度なし。注意書き多め。今日もそこに、俺向けの紙が集まっている。

「……配置換え、誰の判断だよ」

 小さく呟いて、視線を落とす。

【旧工房の通路確認】
【危険度:なし】
【備考:立ち入らず判断可】

 可、って何だ。任意みたいに書いてあるが、最初から入らせる気がない。

 受付へ持っていくと、昨日と同じ受付嬢がいた。目が合った瞬間、すっと背筋が伸びる。

「晴日さん、こちらですね」

「指名ですか」

「はい。最近、この形式が増えてまして」

 形式。役割。肩書き。嫌な単語が頭をよぎる。

 現場は街の外れ、放置された工房だった。屋根は一部崩れ、扉は外れている。中は暗く、風が通るたびに、どこかで木が鳴った。

「入らない方がいいな」

 理由はない。ただ、入らない方がいい。

 その瞬間、ウィンドウが開いた。

 ピコーン。

【新しいスキルを取得できます】

「……来ると思った」

 逃げ場はない。俺はガチャを回した。

 ピコピコピコ……ピコーン。

【スキル獲得】
【不安な場所に近づくと、まばたきが増える】

「……まばたき?」

 一見使えねぇ。体調の話かと思った。

「……待てよ?」

 視界が落ち着かない場所、集中できない場所。つまり、長居すべきじゃない場所の目安にはなる、かもしれない。

「いや、地味すぎる」

 俺は工房の周囲を回った。壁のひび、傾いた梁、崩れかけた床。まばたきが、確かに増える。

「今日は、ここまで」

 依頼内容は確認だ。入る必要はない。

 戻って報告すると、依頼主は露骨に安心した顔をした。

「入らなかったんですね」

「はい。入らない判断です」

 それだけで、深く頭を下げられる。

「助かりました。実は昨日、中で音がしていて……」

 聞きたくなかったが、聞いてしまった。

「夜中に、梁が落ちたそうです」

「……そうですか」

 運が良かっただけだ。

 ギルドに戻ると、掲示板の前に人だかりができていた。俺の横を、誰かが囁く。

「安全確認係だ」

 係、って。

 ピコーン。

【称号を獲得しました】
【非戦闘専門】

「分類するな」

 俺は木札を握り、視線を逸らす。

 受付嬢が、申し訳なさそうに言った。

「明日から、同系統の依頼がまとめて来ると思います」

「断れますか」

「……危険度なしです」

 言質を取られた気がした。

 ギルドを出ると、夕方の風が涼しい。俺は深く息を吸って、吐いた。

「まぁいっか」

 期待されない立場が、好きだったはずだ。でも、今は違う。期待されていない“安全”が、俺の居場所になりつつある。

 それでいい。戦わない。目立たない。入らない。

 その結果、世界が勝手に納得するなら、それでいい。

 背後で、掲示板に新しい紙が貼られる音がした。

【依頼:事前判断(複数件)】
【危険度:なし】

 俺は振り返らず、歩き出した。

 逃げているだけなのに、どうして役目が増えるんだろうな。
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