俺だけ“使えないスキル”を大量に入手できる世界

小林一咲

文字の大きさ
8 / 9

第8話 安全の基準がズレていく

しおりを挟む
 最近、ギルドに行く時間が少し早くなった。

 理由は簡単だ。人が増える前に用事を済ませたい。視線を浴びるのが、どうにも落ち着かない。

 それでも、扉を開けた瞬間に分かった。

「あ、これもう無理だな」

 掲示板の前に、すでに人がいる。しかも、俺が近づくと、自然と道が空いた。

 悪意はない。むしろ配慮だ。だから余計に、居心地が悪い。

 掲示板を見る。

【事前安全確認】
【経路確認(非侵入)】
【危険度:なし】

 紙の枚数が、明らかに増えている。しかも、まとめて貼られている。昨日まで三枚だったはずが、今日は七枚。

「増やすな」

 誰に向けたわけでもなく、呟いた。

 受付に行くと、昨日とは別の職員が対応した。だが、話は早い。

「今日はこちらから三件ほど、お願いできればと」

「選択肢は」

「危険度なしです」

 選択肢になっていない。

 最初の現場は、街の裏通りだった。使われなくなった倉庫と住宅の間にある、細い通路。通り抜け禁止の札が、斜めにぶら下がっている。

「ここを?」

「はい。入らなくて大丈夫です」

 その言い方が、もうおかしい。

 俺は通路の前に立ち、奥を眺めた。光が届かない。風が通らない。音が、変だ。

 ピコーン。

【新しいスキルを取得できます】

「……はいはい」

 最近、この流れにも慣れてきたのが嫌だ。

 ピコピコピコ……ピコーン。

【スキル獲得】
【空気が淀んでいる場所で、肩が少し重くなる】

「肩こり?」

 一見使えねぇ。体調の話ばかりだ。

「……待てよ?」

 換気が悪い。埃やガスが溜まりやすい。つまり、長居すると危ない可能性がある。

「まぁ、気のせいでも困らないか」

 俺は一歩も踏み込まず、通路を避けるように立ち位置を変えた。肩の重さが、少し和らぐ。

「ここ、通らない方がいいです」

 案内役が、素早くメモを取る。

「理由は?」

「なんとなく」

 それで通じるのが、もうおかしい。

 次の現場は、古い橋だった。街の外れにかかる小さな石橋で、今はほとんど使われていない。

 遠目で見ただけで、嫌な感じがした。表面は無事そうに見えるが、水面に落ちている影が歪んでいる。

「近づかなくていいですか」

「近づきません」

 俺は橋の手前で止まった。

 ピコーン。

【スキルが自動発動しました】
【不安な場所に近づくと、まばたきが増える】

 視界が落ち着かない。橋を直視したくない。

「……今日は、渡らない方がいい」

 それだけ告げて、引き返した。

 最後は、依頼主の家だった。正確には、家の裏にある物置。

「中を見なくていいんです。扉の前で」

 そう言われた時点で、嫌な予感しかしない。

 案の定、扉の前に立っただけで、喉が渇いた。

 ピコーン。

【古い建物に入る前、なんとなく喉が渇く】

「……揃い踏みか」

 俺は扉に触れず、距離を取った。

「ここも、今日はやめた方がいいです」

 依頼主は一瞬驚いたが、すぐに頷いた。

「分かりました。専門の者を呼びます」

 その日の夕方、橋は補修対象になり、通路は封鎖され、物置からは有害なカビが見つかったらしい。

 全部、後から聞いた話だ。

 ギルドに戻ると、空気が変わっていた。

「三件、全部か」

「やっぱりな」

「判断が早すぎる」

 俺は何も言わず、報告を済ませた。

 ピコーン。

【称号を獲得しました】
【安全基準の物差し】

「物差しって何だよ」

 自分が基準になるのは、困る。

 受付嬢が、少し困った顔で言った。

「最近ですね……“晴日さんが危ないと思わないなら大丈夫”って言われるようになってまして」

「それ、逆じゃないですか」

「……そうですね」

 誰も否定しなかった。

 ギルドを出て、夕暮れの街を歩く。

 俺は、危険を見抜いているわけじゃない。ただ、近づかないだけだ。

 なのに、その“近づかない”が、基準になり始めている。

「まぁいっか」

 そう言いながらも、胸の奥に小さな引っかかりが残った。

 逃げ続けた先に、立ち止まる場所ができてしまった気がして。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺のスキル、説明すると大体笑われるが、そんな他人からの評価なんてどうでもいいわ

ささみやき
ファンタジー
平凡に生きてたはずの俺は、ある日なぜか死んだ。 気づけば真っ白な空間で、美人のお姉さんとご対面。 「転生します? 特典はAかBね」 A:チート付き、記憶なし B:スキルはガチャ、記憶あり そんな博打みたいな転生があるかよ……と思いつつ、 記憶を失うのは嫌なのでBを選択。 どうやら行き先の《生界世界》と《冥界世界》は、 魂の循環でつながってるらしいが、 そのバランスが魔王たちのせいでグチャグチャに。 で、なぜか俺がその修復に駆り出されることに。 転生先では仲間ができて、 なんやかんやで魔王の幹部と戦う日々。 でも旅を続けるうちに、 「この世界、なんか裏があるぞ……?」 と気づき始める。 謎の転生、調停者のお姉さんの妙な微笑み、 そして思わせぶりな“世界の秘密”。 死んでからの人生(?)、 どうしてこうなった。 ガチャスキル、変な魔王、怪しい美人。 そんな異世界で右往左往しつつも、 世界の謎に迫っていく、ゆるコメディ転生ファンタジー!

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...