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第3章 凡人は牙を研ぐ
第101話 無垢なる器
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青白い炎が震え、魔族の影が神殿の壁を破壊した。石片が雨のように降り注ぐ。
「バルト、走れッ!!」
ダリウスの怒号に背中を押され、僕は祭壇裏へ駆け出した。足元がふらつくが、止まれば死ぬ。後方では、ダリウスが斬撃と魔術を交えた激しい応戦を続けている。
背後から、獣じみた爪音と咆哮が追ってくる。
『ダンナ! 右ですぜ、右!!』
『主人様、直進は罠です……!』
二匹の声を頼りに、廊下の曲がり角を滑るように避ける。走るたび、胸の奥の不安が波のように膨らむ。
すると突然、ダリウスが横の壁を蹴破って飛び出してきた。
「こっちだッ!」
カッと目を見張る。手際が異様に早い。
「……君、本当に味方なのか?」
「そこから!? あとで説明するから、今は黙って走れ!」
二人で通路を駆けながら、魔族の追手が後方から押し寄せる気配がした。息を切らせながら尋ねる。
「どうして……僕を帝国にも、インヒター王国にも渡さなかったんだ? 外交的にはその方が……」
「理由は二つ。大事だからよく聞いて」
ダリウスは走りながらも、声だけは落ち着いていた。
「一つ目。
――王国には魔族の内通者がいる。君を渡した瞬間、確実に魔族の手に落ちる。もし帝国が表立って保護すれば、王国から横槍が入り、外交問題に発展する。結果、君は争奪戦の道具になる」
「それで、僕をこっそり……?」
「そう。帝国と王国は“利用”したい。魔族は君を“奪いたい”。三つ巴の渦に放り込まれたら、君は生きて帰れない」
心臓が冷たくなる。そんな状況だったのか。
「じゃあ……二つ目は?」
ダリウスは目だけで僕を見る。
その瞳は、これまで見たどんな彼よりも真剣だった。
「――君は女神の加護を受けていない“無垢な器”。だからこそ、魔族にとって価値がある。だが同時に……人間側が唯一“魔族を終わらせる手札”にもなる。」
息が止まった。
「どうして僕が……?」
「女神に“見放された”わけじゃない。むしろ逆だ。干渉できないほどの特異性を持って生まれているんだよ、君は。そんな存在を魔族に渡したら世界が終わる」
ダリウスは強く言い切った。
「だから、ボクは君を連れて来た。帝国上層部とボクだけが、君を本気で守る意思がある。王国にも魔族にも渡さない。それが任務であり……個人的な願いでもある」
後半の言葉は、わずかに震えていた。
その瞬間、通路の先が開け、外の景色が見えた。灰色の空と、深い谷が広がっている。
「この先に隠しルートが――」
ダリウスが言いかけたとき。
――ズンッ!!
地響きとともに、前方の岩壁が吹き飛んだ。
飛散した岩塊の中から、黒炎をまとった巨体が姿を現す。
全長三メートル超。
牛と人間が融合したような、歪な魔族。
角からは紫電が走り、口元からは黒い霧が漏れている。
『あれは……!』
『主……主人様、危険です……近寄ってはいけませ……!』
ダリウスが僕の前に立ち、短剣を構える。
「最悪のタイミングだな……“破壊公《デストロイ・ロード》”……魔王直属の特級魔族だ」
「と、特級……?」
巨体の魔族は、僕たちを見下ろし、嗤った。
「――ソノ器、渡セ。抵抗ハ……無意味ダ」
言葉を発するたびに空気が震える。
ダリウスが僕の肩を押しやる。
「バルト、絶対に後ろに下がれ。こいつは……ボクが足止めする!」
「ま、待って! 君一人じゃ――!」
しかし彼は、振り返らずに短剣を構え直した。
「憲兵団を辞めてから、魔族の中で耐えてきたんだ。スパイなんてやってきたんだ。――このくらい、乗り越えられなきゃ意味がない」
その背中は、疑いようのない“人間側の英雄”のそれだった。
破壊公の巨腕が振り下ろされる。
ダリウスが迎え撃つ。
そして、谷に轟音が響き――戦いの幕が、上がった。
「バルト、走れッ!!」
ダリウスの怒号に背中を押され、僕は祭壇裏へ駆け出した。足元がふらつくが、止まれば死ぬ。後方では、ダリウスが斬撃と魔術を交えた激しい応戦を続けている。
背後から、獣じみた爪音と咆哮が追ってくる。
『ダンナ! 右ですぜ、右!!』
『主人様、直進は罠です……!』
二匹の声を頼りに、廊下の曲がり角を滑るように避ける。走るたび、胸の奥の不安が波のように膨らむ。
すると突然、ダリウスが横の壁を蹴破って飛び出してきた。
「こっちだッ!」
カッと目を見張る。手際が異様に早い。
「……君、本当に味方なのか?」
「そこから!? あとで説明するから、今は黙って走れ!」
二人で通路を駆けながら、魔族の追手が後方から押し寄せる気配がした。息を切らせながら尋ねる。
「どうして……僕を帝国にも、インヒター王国にも渡さなかったんだ? 外交的にはその方が……」
「理由は二つ。大事だからよく聞いて」
ダリウスは走りながらも、声だけは落ち着いていた。
「一つ目。
――王国には魔族の内通者がいる。君を渡した瞬間、確実に魔族の手に落ちる。もし帝国が表立って保護すれば、王国から横槍が入り、外交問題に発展する。結果、君は争奪戦の道具になる」
「それで、僕をこっそり……?」
「そう。帝国と王国は“利用”したい。魔族は君を“奪いたい”。三つ巴の渦に放り込まれたら、君は生きて帰れない」
心臓が冷たくなる。そんな状況だったのか。
「じゃあ……二つ目は?」
ダリウスは目だけで僕を見る。
その瞳は、これまで見たどんな彼よりも真剣だった。
「――君は女神の加護を受けていない“無垢な器”。だからこそ、魔族にとって価値がある。だが同時に……人間側が唯一“魔族を終わらせる手札”にもなる。」
息が止まった。
「どうして僕が……?」
「女神に“見放された”わけじゃない。むしろ逆だ。干渉できないほどの特異性を持って生まれているんだよ、君は。そんな存在を魔族に渡したら世界が終わる」
ダリウスは強く言い切った。
「だから、ボクは君を連れて来た。帝国上層部とボクだけが、君を本気で守る意思がある。王国にも魔族にも渡さない。それが任務であり……個人的な願いでもある」
後半の言葉は、わずかに震えていた。
その瞬間、通路の先が開け、外の景色が見えた。灰色の空と、深い谷が広がっている。
「この先に隠しルートが――」
ダリウスが言いかけたとき。
――ズンッ!!
地響きとともに、前方の岩壁が吹き飛んだ。
飛散した岩塊の中から、黒炎をまとった巨体が姿を現す。
全長三メートル超。
牛と人間が融合したような、歪な魔族。
角からは紫電が走り、口元からは黒い霧が漏れている。
『あれは……!』
『主……主人様、危険です……近寄ってはいけませ……!』
ダリウスが僕の前に立ち、短剣を構える。
「最悪のタイミングだな……“破壊公《デストロイ・ロード》”……魔王直属の特級魔族だ」
「と、特級……?」
巨体の魔族は、僕たちを見下ろし、嗤った。
「――ソノ器、渡セ。抵抗ハ……無意味ダ」
言葉を発するたびに空気が震える。
ダリウスが僕の肩を押しやる。
「バルト、絶対に後ろに下がれ。こいつは……ボクが足止めする!」
「ま、待って! 君一人じゃ――!」
しかし彼は、振り返らずに短剣を構え直した。
「憲兵団を辞めてから、魔族の中で耐えてきたんだ。スパイなんてやってきたんだ。――このくらい、乗り越えられなきゃ意味がない」
その背中は、疑いようのない“人間側の英雄”のそれだった。
破壊公の巨腕が振り下ろされる。
ダリウスが迎え撃つ。
そして、谷に轟音が響き――戦いの幕が、上がった。
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