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第3章 凡人は牙を研ぐ
第106話 燃え上がる決意
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訓練場に向かう僕の足は自然と速まった。前の自分なら、戦場を想像するだけで足がすくんでいたはずだ。だが今は違う。あの谷間でダリウスが示してくれた勇気と、オルディナスでの訓練の成果が、僕の背中を押してくれる。
今日の課題は、均衡力の応用訓練――空間内で複数の浮遊物体を同時に操作し、敵役の訓練生を制圧することだ。簡単そうに見えるが、微妙な重力の変化、風の流れ、物体同士の干渉を全て把握しながら制御するのは、想像以上に難しい。
「集中しろ、バルト」
心の中で自分に言い聞かせ、呼吸を整える。意識を指先に集め、周囲の空間を感じる。浮遊する石の塊が微かに光り、僕の意志に反応し始めた。
最初の数分は安定していた。石は僕の思い通りに動き、敵の進行を遮り、攻撃を逸らす。しかし、油断は禁物だった。突然、相手の訓練生が魔法陣を展開し、石塊の重力を反転させる。バランスが崩れ、石が宙を舞って僕の足元に落ちる。
「まずい!」
僕はすぐに反応する。均衡力を全身に巡らせ、石の落下速度と方向を補正する。石はかろうじて僕を避け、相手の背後へと飛ぶ。心臓が跳ねる。初めて、制御が完全ではない力が危険を生む瞬間を体感した。
「よし……落ち着け」
僕は深く息を吸い、全身の感覚を研ぎ澄ませる。風の微細な揺れ、床の振動、空気の密度の変化――それらを均衡力で拾い上げる。すると、浮遊物体がまるで自ら意思を持つかのように、滑らかに動き出した。敵の攻撃は自然と逸れ、反撃のチャンスが生まれる。
カイが隣で声をあげる。
「バルト! 今だ、攻撃!」
僕は手を前に突き出す。石塊が弧を描き、敵の防御を崩す。相手は慌てて回避するが、次の瞬間、僕の制御で石が連携して周囲を封鎖した。模擬戦ではあるが、僕は初めて、自分の力を完全に戦術として機能させたことを実感した。
訓練が終わると、リアンナが近づいてきた。
「素晴らしい進歩だ。だが、君の力はまだ片手で掬う水のように不安定だ。本当の戦いでは、もっと正確な制御が求められる」
その言葉に、僕は頷いた。確かにまだ完璧ではない。だが、半年前の自分ならここまで操作できなかったことは間違いない。
午後には、別の課題として精神的な試練があった。均衡力を維持しながら、仮想空間内で複数の異常現象を同時に制御する。虚空に浮かぶ炎や落下する瓦礫、そして光と闇が入り混じる渦。集中を一瞬でも欠けば、全てが暴走する危険がある。
「落ち着け、呼吸を……一つずつ」
目の前の炎を抑え、瓦礫を受け流し、闇の渦のバランスを保つ。汗が額を伝い、手のひらが震える。だが、均衡力を体全体に回し続けると、次第に世界の微細な揺らぎが手に取るように感じられるようになった。
「できる……!」
渦は収束し、炎も瓦礫も静かに元の位置に戻る。訓練空間が穏やかになった瞬間、胸の奥に達成感が広がった。リアンナと幹部の眼鏡の男が、微かに頷いているのが見える。
その日、僕は他の訓練生とも戦術や均衡力の使い方を議論した。小さな失敗もあったが、仲間の声が励みになり、僕の理解は確実に深まっていった。
◇◇◇
そして、季節が巡り、気づけば半年が経過していた。全ての訓練を終えた僕は、オルディナスの拠点の外に立つ。空は澄み渡り、光が石の通路を照らしている。谷間や戦場の記憶が胸をよぎるが、今の僕はもうあの時の少年ではない。
「バルト・クラスト、君の訓練は終了だ」
リアンナの声が響く。僕は深く息を吸い、拳を握る。半年間の訓練で培った均衡力、戦術、判断力――すべてが僕の中にある。
「……行こう」
初めて外の世界に一歩を踏み出す。谷間の風が顔を撫で、光が僕の足元を照らす。胸の奥で、静かに決意が燃え上がる。
――僕は世界を守る。
背後にはオルディナスの拠点が揺らめき、僕を見守る黒衣の影たちがいる。前には未知の戦場、そして僕を待つ運命。だが、もう恐れはない。半年間の訓練が、僕を世界の均衡を担う存在へと変えたのだから。
僕は踏み出した。均衡を守るための、最初の一歩を。
今日の課題は、均衡力の応用訓練――空間内で複数の浮遊物体を同時に操作し、敵役の訓練生を制圧することだ。簡単そうに見えるが、微妙な重力の変化、風の流れ、物体同士の干渉を全て把握しながら制御するのは、想像以上に難しい。
「集中しろ、バルト」
心の中で自分に言い聞かせ、呼吸を整える。意識を指先に集め、周囲の空間を感じる。浮遊する石の塊が微かに光り、僕の意志に反応し始めた。
最初の数分は安定していた。石は僕の思い通りに動き、敵の進行を遮り、攻撃を逸らす。しかし、油断は禁物だった。突然、相手の訓練生が魔法陣を展開し、石塊の重力を反転させる。バランスが崩れ、石が宙を舞って僕の足元に落ちる。
「まずい!」
僕はすぐに反応する。均衡力を全身に巡らせ、石の落下速度と方向を補正する。石はかろうじて僕を避け、相手の背後へと飛ぶ。心臓が跳ねる。初めて、制御が完全ではない力が危険を生む瞬間を体感した。
「よし……落ち着け」
僕は深く息を吸い、全身の感覚を研ぎ澄ませる。風の微細な揺れ、床の振動、空気の密度の変化――それらを均衡力で拾い上げる。すると、浮遊物体がまるで自ら意思を持つかのように、滑らかに動き出した。敵の攻撃は自然と逸れ、反撃のチャンスが生まれる。
カイが隣で声をあげる。
「バルト! 今だ、攻撃!」
僕は手を前に突き出す。石塊が弧を描き、敵の防御を崩す。相手は慌てて回避するが、次の瞬間、僕の制御で石が連携して周囲を封鎖した。模擬戦ではあるが、僕は初めて、自分の力を完全に戦術として機能させたことを実感した。
訓練が終わると、リアンナが近づいてきた。
「素晴らしい進歩だ。だが、君の力はまだ片手で掬う水のように不安定だ。本当の戦いでは、もっと正確な制御が求められる」
その言葉に、僕は頷いた。確かにまだ完璧ではない。だが、半年前の自分ならここまで操作できなかったことは間違いない。
午後には、別の課題として精神的な試練があった。均衡力を維持しながら、仮想空間内で複数の異常現象を同時に制御する。虚空に浮かぶ炎や落下する瓦礫、そして光と闇が入り混じる渦。集中を一瞬でも欠けば、全てが暴走する危険がある。
「落ち着け、呼吸を……一つずつ」
目の前の炎を抑え、瓦礫を受け流し、闇の渦のバランスを保つ。汗が額を伝い、手のひらが震える。だが、均衡力を体全体に回し続けると、次第に世界の微細な揺らぎが手に取るように感じられるようになった。
「できる……!」
渦は収束し、炎も瓦礫も静かに元の位置に戻る。訓練空間が穏やかになった瞬間、胸の奥に達成感が広がった。リアンナと幹部の眼鏡の男が、微かに頷いているのが見える。
その日、僕は他の訓練生とも戦術や均衡力の使い方を議論した。小さな失敗もあったが、仲間の声が励みになり、僕の理解は確実に深まっていった。
◇◇◇
そして、季節が巡り、気づけば半年が経過していた。全ての訓練を終えた僕は、オルディナスの拠点の外に立つ。空は澄み渡り、光が石の通路を照らしている。谷間や戦場の記憶が胸をよぎるが、今の僕はもうあの時の少年ではない。
「バルト・クラスト、君の訓練は終了だ」
リアンナの声が響く。僕は深く息を吸い、拳を握る。半年間の訓練で培った均衡力、戦術、判断力――すべてが僕の中にある。
「……行こう」
初めて外の世界に一歩を踏み出す。谷間の風が顔を撫で、光が僕の足元を照らす。胸の奥で、静かに決意が燃え上がる。
――僕は世界を守る。
背後にはオルディナスの拠点が揺らめき、僕を見守る黒衣の影たちがいる。前には未知の戦場、そして僕を待つ運命。だが、もう恐れはない。半年間の訓練が、僕を世界の均衡を担う存在へと変えたのだから。
僕は踏み出した。均衡を守るための、最初の一歩を。
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