凡夫転生〜異世界行ったらあまりにも普通すぎた件〜

小林一咲

文字の大きさ
44 / 108
第2章 テラドラックの怒り

第44話 プロの仕事

しおりを挟む
 昇進式から早くも2ヶ月が経とうとしていた。
 二等兵となった僕は、今日も海洋警備に没頭する。最近ではめっきり寒くなったこともあり、魔物の数も多くはない。だからと言って警備を疎かにすることはできない。その理由というのも――。

「また遠洋漁船が海賊に襲われたらしい」
「これで今月に入って3回目か……」

 上層部を悩ませる種は海賊だ。奴らは海洋船や旅客船といった船舶を襲っては金品、あるいは魚を奪っているらしい。
 
「リラ中尉、バルト二等兵は団長室へ」

 今日こそ海賊を検挙しようとやる気に満ち溢れていた時、僕とリラ中尉は団長に呼び出された。
 他の隊員が面白おかしく「何をやらかしたんだ」と揶揄う中、僕らもまた「何かしちゃったっけ?」と緊張の面持ちで扉をノックした。

「「失礼します」」
「よく来たな2人とも。そう緊張せず楽にしてくれ」

 団長は僕らを重厚なソファに腰をかけるよう促す。
 ふかふかだ、僕のベッドよりも。

 団長は反対側に腰を下ろすと、お茶菓子や紅茶を勧める。

「団長、本題を」

 この違和感にすぐ気がついたリラ中尉が鋭い目つきのまま姿勢を正した。

「……そうか、実は君たち2人に内偵捜査をしてほしいのだ」
「お断りします」
「「えっ」」

 もちろん驚いたのは僕だけではなく団長も。
 聞けばリラ中尉は僕が入団する以前、内偵を専門とする特殊部隊、海影潜査隊、通称“影魚”に所属していたらしい。

「君があの一件で胸を痛めていることは知っている。だが、そろそろ乗り越える時ではないのか?」
「そのようにできたら遠の昔にやっていますよ」

 あの一件というのが何かは分からなかったが、団長はため息をひとつ吐いてから意を決したように顔を上げた。

「3日間だけの特別任務だから勘弁してほしい。これはお願いではないのだからな」
「……わかりました」

 明らかに不機嫌な中尉と共に待機室へと戻る。彼女はそのまま大尉に今回あった任務の内容を伝えると、僕を少し見てから「準備をしよう」と言った。

 正直、警備隊――いや海洋騎士団でリラ中尉が1番怖い。普段は温厚で優しいのが逆にギャップとなるタイプの人だ。以前、漁師同士のいざこざがあった際も、これでもかというくらいにブチギレていた。

 準備を進める中で彼女は言った。

「内偵捜査はあくまでも個人責任だ。他の者を決して信用してはならない。もちろん私も、な」
「はい……」

 緊張感漂う彼女の言葉は、勝手が分からず戸惑う僕の心を更に乱した。
 その後、影魚の作戦室と呼ばれる物置小屋で作戦説明が行われ、その全てが暗号で介された。僕にとっては何のこっちゃ分からなかったが、中尉がいたのでそこは安心だ。

 作戦は今晩テラドラック海岸を出港する旅客船に潜り込む、というもの。この旅客船は金持ちの貴族などが多く利用しており、裏ルートから仕入れた情報によれば、今日その船を海賊が襲うということらしい。

「深呼吸して気楽に、何も起こらなければただ楽しめば良い。分かったわね?」
「はい」

 作戦が始まってからはリラ中尉の表情は柔らかくなった。
 これがプロか。

 今回の作戦地となる大型旅客船ピクトグラム号。何でも世界最大規模の船らしく、海洋騎士団の戦艦と大きさはほぼ同格。内装の豪華さだったら圧倒的にこの船の方が優っている。

「いらっしゃいませ。どうぞお楽しみください」

 船の入り口では髪をバッチリセットした男性スタッフがプロの笑顔を振りまいていた。
 話に聞いた通り、客層は貴族の御婦人やら大きな商会の御曹司など金持ちばかり。そんな中でも見劣りしないように、と僕達もそれなりの服装で乗船する。だが、どうも着心地が悪い。

「いらっしゃいませ。シュネル・バイルド様、リンダ・フォン・アルネイド様」

 それぞれ名前を変え、偽造の身分証を作って中に潜入する。

「うわあ……」

 思わず声が漏れてしまった。
 廊下の壁には名だたる名が飾られ、そこを抜けた大ホールには山のように大きなシャンデリアがぶら下がっている。

「楽しめそうか?」
「あ、えっと……」
「良いんだよ。今日の私たちは婚約者という設定なのだから」

 そっと寄り添う彼女の甘い香りに、任務も理性すらも吹き飛びそうだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『三度目の滅びを阻止せよ ―サラリーマン係長の異世界再建記―』

KAORUwithAI
ファンタジー
45歳、胃薬が手放せない大手総合商社営業部係長・佐藤悠真。 ある日、横断歩道で子供を助け、トラックに轢かれて死んでしまう。 目を覚ますと、目の前に現れたのは“おじさんっぽい神”。 「この世界を何とかしてほしい」と頼まれるが、悠真は「ただのサラリーマンに何ができる」と拒否。 しかし神は、「ならこの世界は三度目の滅びで終わりだな」と冷徹に突き放す。 結局、悠真は渋々承諾。 与えられたのは“現実知識”と“ワールドサーチ”――地球の知識すら検索できる探索魔法。 さらに肉体は20歳に若返り、滅びかけの異世界に送り込まれた。 衛生観念もなく、食糧も乏しく、二度の滅びで人々は絶望の淵にある。 だが、係長として培った経験と知識を武器に、悠真は人々をまとめ、再び世界を立て直そうと奮闘する。 ――これは、“三度目の滅び”を阻止するために挑む、ひとりの中年係長の異世界再建記である。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。 流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。 しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。 同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。 ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。 新たな生活は異世界を満喫したい。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

スライムに転生した俺はユニークスキル【強奪】で全てを奪う

シャルねる
ファンタジー
主人公は気がつくと、目も鼻も口も、体までもが無くなっていた。 当然そのことに気がついた主人公に言葉には言い表せない恐怖と絶望が襲うが、涙すら出ることは無かった。 そうして恐怖と絶望に頭がおかしくなりそうだったが、主人公は感覚的に自分の体に何かが当たったことに気がついた。 その瞬間、謎の声が頭の中に鳴り響いた。

狼になっちゃった!

家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで? 色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!? ……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう? これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

処理中です...