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第2章 テラドラックの怒り
第44話 プロの仕事
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昇進式から早くも2ヶ月が経とうとしていた。
二等兵となった僕は、今日も海洋警備に没頭する。最近ではめっきり寒くなったこともあり、魔物の数も多くはない。だからと言って警備を疎かにすることはできない。その理由というのも――。
「また遠洋漁船が海賊に襲われたらしい」
「これで今月に入って3回目か……」
上層部を悩ませる種は海賊だ。奴らは海洋船や旅客船といった船舶を襲っては金品、あるいは魚を奪っているらしい。
「リラ中尉、バルト二等兵は団長室へ」
今日こそ海賊を検挙しようとやる気に満ち溢れていた時、僕とリラ中尉は団長に呼び出された。
他の隊員が面白おかしく「何をやらかしたんだ」と揶揄う中、僕らもまた「何かしちゃったっけ?」と緊張の面持ちで扉をノックした。
「「失礼します」」
「よく来たな2人とも。そう緊張せず楽にしてくれ」
団長は僕らを重厚なソファに腰をかけるよう促す。
ふかふかだ、僕のベッドよりも。
団長は反対側に腰を下ろすと、お茶菓子や紅茶を勧める。
「団長、本題を」
この違和感にすぐ気がついたリラ中尉が鋭い目つきのまま姿勢を正した。
「……そうか、実は君たち2人に内偵捜査をしてほしいのだ」
「お断りします」
「「えっ」」
もちろん驚いたのは僕だけではなく団長も。
聞けばリラ中尉は僕が入団する以前、内偵を専門とする特殊部隊、海影潜査隊、通称“影魚”に所属していたらしい。
「君があの一件で胸を痛めていることは知っている。だが、そろそろ乗り越える時ではないのか?」
「そのようにできたら遠の昔にやっていますよ」
あの一件というのが何かは分からなかったが、団長はため息をひとつ吐いてから意を決したように顔を上げた。
「3日間だけの特別任務だから勘弁してほしい。これはお願いではないのだからな」
「……わかりました」
明らかに不機嫌な中尉と共に待機室へと戻る。彼女はそのまま大尉に今回あった任務の内容を伝えると、僕を少し見てから「準備をしよう」と言った。
正直、警備隊――いや海洋騎士団でリラ中尉が1番怖い。普段は温厚で優しいのが逆にギャップとなるタイプの人だ。以前、漁師同士のいざこざがあった際も、これでもかというくらいにブチギレていた。
準備を進める中で彼女は言った。
「内偵捜査はあくまでも個人責任だ。他の者を決して信用してはならない。もちろん私も、な」
「はい……」
緊張感漂う彼女の言葉は、勝手が分からず戸惑う僕の心を更に乱した。
その後、影魚の作戦室と呼ばれる物置小屋で作戦説明が行われ、その全てが暗号で介された。僕にとっては何のこっちゃ分からなかったが、中尉がいたのでそこは安心だ。
作戦は今晩テラドラック海岸を出港する旅客船に潜り込む、というもの。この旅客船は金持ちの貴族などが多く利用しており、裏ルートから仕入れた情報によれば、今日その船を海賊が襲うということらしい。
「深呼吸して気楽に、何も起こらなければただ楽しめば良い。分かったわね?」
「はい」
作戦が始まってからはリラ中尉の表情は柔らかくなった。
これがプロか。
今回の作戦地となる大型旅客船ピクトグラム号。何でも世界最大規模の船らしく、海洋騎士団の戦艦と大きさはほぼ同格。内装の豪華さだったら圧倒的にこの船の方が優っている。
「いらっしゃいませ。どうぞお楽しみください」
船の入り口では髪をバッチリセットした男性スタッフがプロの笑顔を振りまいていた。
話に聞いた通り、客層は貴族の御婦人やら大きな商会の御曹司など金持ちばかり。そんな中でも見劣りしないように、と僕達もそれなりの服装で乗船する。だが、どうも着心地が悪い。
「いらっしゃいませ。シュネル・バイルド様、リンダ・フォン・アルネイド様」
それぞれ名前を変え、偽造の身分証を作って中に潜入する。
「うわあ……」
思わず声が漏れてしまった。
廊下の壁には名だたる名が飾られ、そこを抜けた大ホールには山のように大きなシャンデリアがぶら下がっている。
「楽しめそうか?」
「あ、えっと……」
「良いんだよ。今日の私たちは婚約者という設定なのだから」
そっと寄り添う彼女の甘い香りに、任務も理性すらも吹き飛びそうだった。
二等兵となった僕は、今日も海洋警備に没頭する。最近ではめっきり寒くなったこともあり、魔物の数も多くはない。だからと言って警備を疎かにすることはできない。その理由というのも――。
「また遠洋漁船が海賊に襲われたらしい」
「これで今月に入って3回目か……」
上層部を悩ませる種は海賊だ。奴らは海洋船や旅客船といった船舶を襲っては金品、あるいは魚を奪っているらしい。
「リラ中尉、バルト二等兵は団長室へ」
今日こそ海賊を検挙しようとやる気に満ち溢れていた時、僕とリラ中尉は団長に呼び出された。
他の隊員が面白おかしく「何をやらかしたんだ」と揶揄う中、僕らもまた「何かしちゃったっけ?」と緊張の面持ちで扉をノックした。
「「失礼します」」
「よく来たな2人とも。そう緊張せず楽にしてくれ」
団長は僕らを重厚なソファに腰をかけるよう促す。
ふかふかだ、僕のベッドよりも。
団長は反対側に腰を下ろすと、お茶菓子や紅茶を勧める。
「団長、本題を」
この違和感にすぐ気がついたリラ中尉が鋭い目つきのまま姿勢を正した。
「……そうか、実は君たち2人に内偵捜査をしてほしいのだ」
「お断りします」
「「えっ」」
もちろん驚いたのは僕だけではなく団長も。
聞けばリラ中尉は僕が入団する以前、内偵を専門とする特殊部隊、海影潜査隊、通称“影魚”に所属していたらしい。
「君があの一件で胸を痛めていることは知っている。だが、そろそろ乗り越える時ではないのか?」
「そのようにできたら遠の昔にやっていますよ」
あの一件というのが何かは分からなかったが、団長はため息をひとつ吐いてから意を決したように顔を上げた。
「3日間だけの特別任務だから勘弁してほしい。これはお願いではないのだからな」
「……わかりました」
明らかに不機嫌な中尉と共に待機室へと戻る。彼女はそのまま大尉に今回あった任務の内容を伝えると、僕を少し見てから「準備をしよう」と言った。
正直、警備隊――いや海洋騎士団でリラ中尉が1番怖い。普段は温厚で優しいのが逆にギャップとなるタイプの人だ。以前、漁師同士のいざこざがあった際も、これでもかというくらいにブチギレていた。
準備を進める中で彼女は言った。
「内偵捜査はあくまでも個人責任だ。他の者を決して信用してはならない。もちろん私も、な」
「はい……」
緊張感漂う彼女の言葉は、勝手が分からず戸惑う僕の心を更に乱した。
その後、影魚の作戦室と呼ばれる物置小屋で作戦説明が行われ、その全てが暗号で介された。僕にとっては何のこっちゃ分からなかったが、中尉がいたのでそこは安心だ。
作戦は今晩テラドラック海岸を出港する旅客船に潜り込む、というもの。この旅客船は金持ちの貴族などが多く利用しており、裏ルートから仕入れた情報によれば、今日その船を海賊が襲うということらしい。
「深呼吸して気楽に、何も起こらなければただ楽しめば良い。分かったわね?」
「はい」
作戦が始まってからはリラ中尉の表情は柔らかくなった。
これがプロか。
今回の作戦地となる大型旅客船ピクトグラム号。何でも世界最大規模の船らしく、海洋騎士団の戦艦と大きさはほぼ同格。内装の豪華さだったら圧倒的にこの船の方が優っている。
「いらっしゃいませ。どうぞお楽しみください」
船の入り口では髪をバッチリセットした男性スタッフがプロの笑顔を振りまいていた。
話に聞いた通り、客層は貴族の御婦人やら大きな商会の御曹司など金持ちばかり。そんな中でも見劣りしないように、と僕達もそれなりの服装で乗船する。だが、どうも着心地が悪い。
「いらっしゃいませ。シュネル・バイルド様、リンダ・フォン・アルネイド様」
それぞれ名前を変え、偽造の身分証を作って中に潜入する。
「うわあ……」
思わず声が漏れてしまった。
廊下の壁には名だたる名が飾られ、そこを抜けた大ホールには山のように大きなシャンデリアがぶら下がっている。
「楽しめそうか?」
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