45 / 108
第2章 テラドラックの怒り
第45話 告白
しおりを挟む
「シャンパンはいかがですか?」
船内は至って賑やか。そして平和な時間が流れていた。
長めのスカートを引き摺った御婦人たちは、イケメンピアニストの演奏に夢中で、一方男性たちは短めのスカートの給仕に釘付けである。これも紳士の嗜みといったところか。
「ほら、見てあそこ」
リラ中尉も警戒している素振りを見せることなく楽しんでいた。
すると突然、船内放送が鳴り響いたかと思うと、魔導放送でアナウンスが行われた。
『この度は、我がピクトグラムにご乗船いただき誠にありがとうございます。皆様、どうぞ最後までごゆるりとお過ごしください。業務連絡、業務連絡、専従乗務員は船外西側エントランスまで集合願います』
このアナウンスが何を意味したのか、リラ中尉の目つきが一瞬だけ仕事モードになったのを見逃さなかった。
「来たわよ」
「……はい」
何が来たのか、言わずもがな僕にだって分かる。
船内放送は西側エントランスと言っていた。これはあらかじめ伝えられた暗号で、「海賊船が付近まで近づいている」というもの。
これがもし「東側厨房への応援要請」だった場合、海賊と騎士団が戦闘中である証拠。同じように「後方客室でお客さまがお困りです」という放送の場合は、海賊船が予想より多く襲来しているということ。またいくつか暗号があるが、あまりにも細かいのでリラ中尉からは知らされていない。
「まだ私たちには何もすることがないから楽にしていて良いわよ」
そんなことを言われたって、初めての内偵が始まってすぐに本当に海賊が現れるとは――心の準備は乗船前に済ませていたはずだが、それとこれとはまた違う話だ。
僕の鼓動は首の裏筋まで聞こえて始めていた。
「対人は初めてだったわね。それほど緊張することもないわ。いつも通りやればいい」
「ひとつ聞いても良いですか?」
「なに?」
少々躊躇しながら僕が入団する前のことを聞いた。
「何があったんですか? あっ、言いたくなかったら全然……」
「そうね、君には話す必要があるわね」
彼女はゆっくりと立ち上がり、僕の手を掴むと外へ出た。
少し肌寒い夜風が心地よく右から左へと流れ、靡いたリラ中尉の茶色の髪が月灯りに照らされている。
「あれは今日と同じように内偵に出ていた時のこと――」
ある海賊のアジトを把握するため、リラ中尉と他3名の隊員は海賊になりすましてその船に潜入していた。そのアジトがあるとされていた場所、それはオーム領からほど近い洞窟であった。
その日は魔物が多く、海賊らもその処理で大忙しだったため、正体がバレることはなく内偵は順調に進んでいた。しかし、悲劇は突如として起きる。
「君も覚えているだろう、オームの大災害と呼ばれた最悪の日のことを」
「はい、忘れるはずがありません」
その時は船に向かって押し寄せる魔物の群れを対処することで精一杯で、陸に向かう魔物には気を配ることができなかったという。
何とか危機を脱したと思われた時、荒れ放題になった港から流れてくる人々とその血液に紛れ、制服を着た者たちの亡骸を何体も見送った。その中に、まだ息のある者がいた。それはオーム領警備隊の制服を着た男で、意識のない同僚を片手に引き上げながら必死に木材の破片にしがみついていたのだ。「助けてくれ、助けて……」と何度も懇願するようにこちらを見上げていたが、海賊たちはその制服を見ると無視を決め込んだ。
「私は騎士として重大な罪を犯したのよ。任務中だから、という理由だけで同胞の助けを拒んでしまった」
「そんな……」
「それが警備隊の隊長と副隊長だったと知ったのは帰還し、報告を終えた後だった」
僕の頬には既に枯れたはずの涙が伝い、悲しみが肩に乗ったような感覚になる。
「君が来た時、私は団長から警備隊の隊長の弟子であると聞いたわ。私は君にとって敵《かたき》も同然なのよ」
溢れたのは悲しみか怒りか、あまりの告白に僕は声を失った。
船内は至って賑やか。そして平和な時間が流れていた。
長めのスカートを引き摺った御婦人たちは、イケメンピアニストの演奏に夢中で、一方男性たちは短めのスカートの給仕に釘付けである。これも紳士の嗜みといったところか。
「ほら、見てあそこ」
リラ中尉も警戒している素振りを見せることなく楽しんでいた。
すると突然、船内放送が鳴り響いたかと思うと、魔導放送でアナウンスが行われた。
『この度は、我がピクトグラムにご乗船いただき誠にありがとうございます。皆様、どうぞ最後までごゆるりとお過ごしください。業務連絡、業務連絡、専従乗務員は船外西側エントランスまで集合願います』
このアナウンスが何を意味したのか、リラ中尉の目つきが一瞬だけ仕事モードになったのを見逃さなかった。
「来たわよ」
「……はい」
何が来たのか、言わずもがな僕にだって分かる。
船内放送は西側エントランスと言っていた。これはあらかじめ伝えられた暗号で、「海賊船が付近まで近づいている」というもの。
これがもし「東側厨房への応援要請」だった場合、海賊と騎士団が戦闘中である証拠。同じように「後方客室でお客さまがお困りです」という放送の場合は、海賊船が予想より多く襲来しているということ。またいくつか暗号があるが、あまりにも細かいのでリラ中尉からは知らされていない。
「まだ私たちには何もすることがないから楽にしていて良いわよ」
そんなことを言われたって、初めての内偵が始まってすぐに本当に海賊が現れるとは――心の準備は乗船前に済ませていたはずだが、それとこれとはまた違う話だ。
僕の鼓動は首の裏筋まで聞こえて始めていた。
「対人は初めてだったわね。それほど緊張することもないわ。いつも通りやればいい」
「ひとつ聞いても良いですか?」
「なに?」
少々躊躇しながら僕が入団する前のことを聞いた。
「何があったんですか? あっ、言いたくなかったら全然……」
「そうね、君には話す必要があるわね」
彼女はゆっくりと立ち上がり、僕の手を掴むと外へ出た。
少し肌寒い夜風が心地よく右から左へと流れ、靡いたリラ中尉の茶色の髪が月灯りに照らされている。
「あれは今日と同じように内偵に出ていた時のこと――」
ある海賊のアジトを把握するため、リラ中尉と他3名の隊員は海賊になりすましてその船に潜入していた。そのアジトがあるとされていた場所、それはオーム領からほど近い洞窟であった。
その日は魔物が多く、海賊らもその処理で大忙しだったため、正体がバレることはなく内偵は順調に進んでいた。しかし、悲劇は突如として起きる。
「君も覚えているだろう、オームの大災害と呼ばれた最悪の日のことを」
「はい、忘れるはずがありません」
その時は船に向かって押し寄せる魔物の群れを対処することで精一杯で、陸に向かう魔物には気を配ることができなかったという。
何とか危機を脱したと思われた時、荒れ放題になった港から流れてくる人々とその血液に紛れ、制服を着た者たちの亡骸を何体も見送った。その中に、まだ息のある者がいた。それはオーム領警備隊の制服を着た男で、意識のない同僚を片手に引き上げながら必死に木材の破片にしがみついていたのだ。「助けてくれ、助けて……」と何度も懇願するようにこちらを見上げていたが、海賊たちはその制服を見ると無視を決め込んだ。
「私は騎士として重大な罪を犯したのよ。任務中だから、という理由だけで同胞の助けを拒んでしまった」
「そんな……」
「それが警備隊の隊長と副隊長だったと知ったのは帰還し、報告を終えた後だった」
僕の頬には既に枯れたはずの涙が伝い、悲しみが肩に乗ったような感覚になる。
「君が来た時、私は団長から警備隊の隊長の弟子であると聞いたわ。私は君にとって敵《かたき》も同然なのよ」
溢れたのは悲しみか怒りか、あまりの告白に僕は声を失った。
40
あなたにおすすめの小説
異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』
見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装…
俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。
突然の事で戸惑うクラスメート達…
だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。
「またか…」
王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。
そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。
そして俺はというと…?
『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』
「それよりも不知火君は何を得たんだ?」
イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。
俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。
その場にいた者達は、俺の加護を見ると…
「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。
『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』
王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。
まぁ、その方が気楽で良い。
そして正義は、リーダーとして皆に言った。
「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」
正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。
「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」
「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」
「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」
「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」
「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」
「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」
「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」
俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。
「その…鎧と剣は?」
「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」
「今迄って…今回が2回目では無いのか?」
「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」
俺はうんざりしながら答えた。
そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。
いずれの世界も救って来た。
そして今度の世界は…?
6月22日
HOTランキングで6位になりました!
6月23日
HOTランキングで4位になりました!
昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°.
6月24日
HOTランキングで2位になりました!
皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m
異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。
桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。
だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。
そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。
異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。
チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!?
“真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!
スキル買います
モモん
ファンタジー
「お前との婚約を破棄する!」
ローズ聖国の国立学園第139期卒業記念パーティーの日、第3王子シュナル=ローズレアは婚約者であるレイミ・ベルナール子爵家息女に宣言した。
見習い聖女であるレイミは、実は対価と引き換えにスキルを買い取ることのできる特殊な能力を有していた。
婚約破棄を受け入れる事を対価に、王子と聖女から特殊なスキルを受け取ったレイミは、そのまま姿を消した。
レイミと王妃の一族には、数年前から続く確執があり、いずれ王子と聖女のスキル消失が判明すれば、原因がレイミとの婚約破棄にあると疑われるのは明白だ。
そして、レイミを鑑定すれば消えたスキルをレイミがもっている事は明確になってしまうからだ。
かくして、子爵令嬢の逃走劇が幕を開ける。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる