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第2章 テラドラックの怒り
第46話 任務
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「海賊だあああ!!」
1番最初に気がついたのは乗客のひとりだった。彼の雄叫びはすぐに伝染し、船内は大混乱に陥る。
海賊船は既にこの船のすぐ背後に迫り、それも一隻だけではなく、目視だけで三隻は見受けられた。
「クソッ……! 隠蔽魔法の類か?!」
リラ中尉は素早く船内に引き返すと、客船の職員らと共に乗客の避難誘導を行い始めた。
「海賊はそのままでいいのですか!?」
「すぐに応援が来るだろうし、私たちの役目は1人の犠牲者も出さないことなのよ」
冷静な彼女の行動は、僕にとって消極的に映ってしまう。リラ中尉の実力なら海賊船のひとつやふたつ、あっという間に撃破できるだろう。そう思ったからだ。
海賊らはこちらに体当たりをし、船尾に近づくと牽引ロープのようなもので船同士を固定させた。今すぐにでも乗り込んできそうな雰囲気だが、この客船にも腕のたつ傭兵や冒険者などが乗っていたらしく、後方では凄まじい攻防が繰り広げられている。
「騎士団が到着するまで、何とか持ち堪えるんだ!」
だが、それも長くは続かなかった。
海賊はなりふり構わない数の暴力で傭兵らを圧倒し、とうとう甲板へと乗り込んで来たのだ。
「事が起きるまではこの広間で乗客に紛れて待機よ。奴らが誰かに危害を及ぼそうとしたら私が先に出るから」
「……了解しました」
尋常ではない緊張感が全身を襲う。これが戦場であり、人と戦うという事なのだと実感する。
海賊らの怒号が聞こえる度、僕は始めての殺し合いに恐怖を感じていた。
「大丈夫、相手は賊。魔物と何ら変わらないわ」
彼女はしきりに僕を鼓舞しようとしてくれているが、この手の震えはすぐに治ることはない。
「おやあ? ここは手薄なようだな」
入ってきたのは頬から首筋にかけて大きな切り傷のある男。奴は乗客たちを舐め回すように見ながら不敵な笑みを浮かべている。
「な、何なんだお前たちは!」
「はあん……?」
無謀――いや、勇敢な客船職員のひとりが喰ってかかると、男は先の曲がった大きなナイフを取り出しながら彼の方へと歩み寄った。きっと彼は生き急いだことを深く後悔しただろう。
男がそのナイフを振りかざすと、職員は恐怖のあまり失禁してしまった。
「ハハハハハハッ! コイツ漏らしやがったぞ!」
大きく持ち上がった口角からドスの効いた嘲笑いがこだますると、他の乗客らは恐怖で身動きひとつ、悲鳴すらも出なくなった。“諦め”にも似たその感情はこちらにも伝わり、自分が置かれたこの危機的状況と、悪漢から乗客を守らねばならないという重大な責任感に押しつぶされそうになる。
「いい御身分ですなあ、貴族様は」
盗賊の男は嫌悪と憎悪の感情を剥き出しにしながら、まるで乗客らを品定めするように物色し始めた。
「ほお、いい女がいるじゃねえか」
ひと通り見た後、男は僕とリラ中尉の前で立ち止まって言った。
「歳はいくつだ?」
「……25です」
「いいなあ。ちょうど油の乗った時期だ」
彼女が予想よりも歳上だったことにも驚きだが、今はそんなことを言っている場合ではない。奴はきっとリラ中尉を連れ去ろうと考えているに違いない。またその先で奴隷商に売るとか、王国に対して身代金を要求したりとか。それは何としてでも阻止しなくては!
「お前、本当にただの貴族か?」
「っ!?」
思わず動揺を顔に出してしまった彼女に対して、男は更に追い討ちをかける。
「その冷静さと言葉遣い。それに……」
この場合、“ゾッとする”という表現が最適だろうか。悪寒にも似た緊張感が全身を駆け巡った。
1番最初に気がついたのは乗客のひとりだった。彼の雄叫びはすぐに伝染し、船内は大混乱に陥る。
海賊船は既にこの船のすぐ背後に迫り、それも一隻だけではなく、目視だけで三隻は見受けられた。
「クソッ……! 隠蔽魔法の類か?!」
リラ中尉は素早く船内に引き返すと、客船の職員らと共に乗客の避難誘導を行い始めた。
「海賊はそのままでいいのですか!?」
「すぐに応援が来るだろうし、私たちの役目は1人の犠牲者も出さないことなのよ」
冷静な彼女の行動は、僕にとって消極的に映ってしまう。リラ中尉の実力なら海賊船のひとつやふたつ、あっという間に撃破できるだろう。そう思ったからだ。
海賊らはこちらに体当たりをし、船尾に近づくと牽引ロープのようなもので船同士を固定させた。今すぐにでも乗り込んできそうな雰囲気だが、この客船にも腕のたつ傭兵や冒険者などが乗っていたらしく、後方では凄まじい攻防が繰り広げられている。
「騎士団が到着するまで、何とか持ち堪えるんだ!」
だが、それも長くは続かなかった。
海賊はなりふり構わない数の暴力で傭兵らを圧倒し、とうとう甲板へと乗り込んで来たのだ。
「事が起きるまではこの広間で乗客に紛れて待機よ。奴らが誰かに危害を及ぼそうとしたら私が先に出るから」
「……了解しました」
尋常ではない緊張感が全身を襲う。これが戦場であり、人と戦うという事なのだと実感する。
海賊らの怒号が聞こえる度、僕は始めての殺し合いに恐怖を感じていた。
「大丈夫、相手は賊。魔物と何ら変わらないわ」
彼女はしきりに僕を鼓舞しようとしてくれているが、この手の震えはすぐに治ることはない。
「おやあ? ここは手薄なようだな」
入ってきたのは頬から首筋にかけて大きな切り傷のある男。奴は乗客たちを舐め回すように見ながら不敵な笑みを浮かべている。
「な、何なんだお前たちは!」
「はあん……?」
無謀――いや、勇敢な客船職員のひとりが喰ってかかると、男は先の曲がった大きなナイフを取り出しながら彼の方へと歩み寄った。きっと彼は生き急いだことを深く後悔しただろう。
男がそのナイフを振りかざすと、職員は恐怖のあまり失禁してしまった。
「ハハハハハハッ! コイツ漏らしやがったぞ!」
大きく持ち上がった口角からドスの効いた嘲笑いがこだますると、他の乗客らは恐怖で身動きひとつ、悲鳴すらも出なくなった。“諦め”にも似たその感情はこちらにも伝わり、自分が置かれたこの危機的状況と、悪漢から乗客を守らねばならないという重大な責任感に押しつぶされそうになる。
「いい御身分ですなあ、貴族様は」
盗賊の男は嫌悪と憎悪の感情を剥き出しにしながら、まるで乗客らを品定めするように物色し始めた。
「ほお、いい女がいるじゃねえか」
ひと通り見た後、男は僕とリラ中尉の前で立ち止まって言った。
「歳はいくつだ?」
「……25です」
「いいなあ。ちょうど油の乗った時期だ」
彼女が予想よりも歳上だったことにも驚きだが、今はそんなことを言っている場合ではない。奴はきっとリラ中尉を連れ去ろうと考えているに違いない。またその先で奴隷商に売るとか、王国に対して身代金を要求したりとか。それは何としてでも阻止しなくては!
「お前、本当にただの貴族か?」
「っ!?」
思わず動揺を顔に出してしまった彼女に対して、男は更に追い討ちをかける。
「その冷静さと言葉遣い。それに……」
この場合、“ゾッとする”という表現が最適だろうか。悪寒にも似た緊張感が全身を駆け巡った。
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