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第2章 テラドラックの怒り
第52話 失意の中で
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「今、なんと……?」
法廷にいた――いや、国内中の誰もが自身の耳を疑った。
尋問官に有利であるこの法廷は、代弁官が意義を唱えるのは一年に一度、下手をしたら三年に一度あるかないかくらいの事であるのだ。言うなれば被告人は騎士団の駒でしかない者で、意義を唱え、減刑がなされたとしても代弁官にとってはほとんど利益が無い。
「再度申し上げます。代弁官は被告人の無罪を求めます」
想定外の発言に焦る尋問官に対し、不敵な笑みを浮かべる代弁官。
「ちょっと待てよ、あの顔どこかで……」
隣に座っていた記者が手帳を捲り始め、あるページで手を止め、目を見開いた。
「あの、何かあったのですか?」
「あ、ああ……君は海洋騎士団の者だね」
何故僕のことまで知っているのか、についての疑問はさておき、記者は手帳に貼られた紙切れを僕に見せてくれた。
「今回の代弁官の名は〈ユークリッド・フォン・ジョグマン〉だ。つまり、あそこに座るフルベルト最高尋問官の息子なのさ」
「そんなこと……」
僕は睨み合う2人の顔を見比べた。
ああ、確かに顔立ちから目つきまで瓜二つだ。
「ユークリッド代弁官は元尋問官で、将来の最高尋問官と呼ばれていたほど。彼を親の七光だと言う者も少なくないが、アレは完全に実力だ。あの親子は昔から仲が悪かったらしいからな」
法廷は一時の静寂の後、傍聴席からは悲鳴にも似た歓声が鳴り響いた。彼らはこの裁判を見せ物として楽しんでいる者たち。だとすれば、この大波乱に盛り上がるのも当然だろう。
「喜べ少年……この裁判、覆る可能性があるぞ」
◇◇◇◇◇
リラさんの裁判は代弁官が無罪を主張したことにより、日程が大きく変更された。尋問官、代弁官による弁論が執り行われるからだ。王都だけでなく国内外から記者が押し寄せ、既に傍聴席は民衆が入れる隙など無くなってしまった。
僕にとってはその方が良いけど。
「改めまして、リラ中尉の代弁官を務めます。ユークリッド・フォン・ジョグマンと申します」
次回の裁判は2週間後ということで、この日は代弁官であるユークリッドが海洋騎士団へ聴取に来ていた。
身なりから何まで無駄がなく、頭と育ちの良さが伺える。
「まさか、あの最高尋問官殿のご子息とは……」
「ええ、ただの七光ですがね」
微笑んでいるものの、目が笑っていない。“親の”と言わないあたりも父への嫌悪が感じ取れる。
「さて、本題には入りましょうか」
「非常に残念ではありますが――」
彼の発言に被せるようにイザベラ海将が大きく声を上げた。
「私ども、海洋騎士団は貴方に協力することはできません」
「「何故ですか、海将!!?」」
関係者として集められた僕らは声を荒げた。しかし、海将はこちらを向くでもなく、真っ直ぐに代弁官の彼を見つめている。
「ま、まさか海将殿はこの機会を逃すというのですか?!」
「おい、エリク。貴様までこの者に期待しているというのか。機会……? そんなものはハナから無いも同然なのだ」
海将の鋭い眼光はエリク大尉とぶつかり、今にも“何か”が起きてしまいそうなほどだった。
エリク大尉は瞼を閉じ、深く深呼吸すると「私は貴女を心の底から尊敬していました」と言い残し、団長室に背を向けて去って行った。それに続き、ダリウス少尉も海将を一瞥してから部屋を出る。
悲しみと悔しさに背中を押されるように、続いて出て行こうとした僕の前にキャプテンが立ち塞がった。彼女はいつもと同じ、かったるそうな目線を僕に向け、団長室に押し込んでから扉を閉めた。
「やったか?」
「ええ」
海将とキャプテンは謎の短い会話を終わらせると、僕に大きく頭を下げた。
法廷にいた――いや、国内中の誰もが自身の耳を疑った。
尋問官に有利であるこの法廷は、代弁官が意義を唱えるのは一年に一度、下手をしたら三年に一度あるかないかくらいの事であるのだ。言うなれば被告人は騎士団の駒でしかない者で、意義を唱え、減刑がなされたとしても代弁官にとってはほとんど利益が無い。
「再度申し上げます。代弁官は被告人の無罪を求めます」
想定外の発言に焦る尋問官に対し、不敵な笑みを浮かべる代弁官。
「ちょっと待てよ、あの顔どこかで……」
隣に座っていた記者が手帳を捲り始め、あるページで手を止め、目を見開いた。
「あの、何かあったのですか?」
「あ、ああ……君は海洋騎士団の者だね」
何故僕のことまで知っているのか、についての疑問はさておき、記者は手帳に貼られた紙切れを僕に見せてくれた。
「今回の代弁官の名は〈ユークリッド・フォン・ジョグマン〉だ。つまり、あそこに座るフルベルト最高尋問官の息子なのさ」
「そんなこと……」
僕は睨み合う2人の顔を見比べた。
ああ、確かに顔立ちから目つきまで瓜二つだ。
「ユークリッド代弁官は元尋問官で、将来の最高尋問官と呼ばれていたほど。彼を親の七光だと言う者も少なくないが、アレは完全に実力だ。あの親子は昔から仲が悪かったらしいからな」
法廷は一時の静寂の後、傍聴席からは悲鳴にも似た歓声が鳴り響いた。彼らはこの裁判を見せ物として楽しんでいる者たち。だとすれば、この大波乱に盛り上がるのも当然だろう。
「喜べ少年……この裁判、覆る可能性があるぞ」
◇◇◇◇◇
リラさんの裁判は代弁官が無罪を主張したことにより、日程が大きく変更された。尋問官、代弁官による弁論が執り行われるからだ。王都だけでなく国内外から記者が押し寄せ、既に傍聴席は民衆が入れる隙など無くなってしまった。
僕にとってはその方が良いけど。
「改めまして、リラ中尉の代弁官を務めます。ユークリッド・フォン・ジョグマンと申します」
次回の裁判は2週間後ということで、この日は代弁官であるユークリッドが海洋騎士団へ聴取に来ていた。
身なりから何まで無駄がなく、頭と育ちの良さが伺える。
「まさか、あの最高尋問官殿のご子息とは……」
「ええ、ただの七光ですがね」
微笑んでいるものの、目が笑っていない。“親の”と言わないあたりも父への嫌悪が感じ取れる。
「さて、本題には入りましょうか」
「非常に残念ではありますが――」
彼の発言に被せるようにイザベラ海将が大きく声を上げた。
「私ども、海洋騎士団は貴方に協力することはできません」
「「何故ですか、海将!!?」」
関係者として集められた僕らは声を荒げた。しかし、海将はこちらを向くでもなく、真っ直ぐに代弁官の彼を見つめている。
「ま、まさか海将殿はこの機会を逃すというのですか?!」
「おい、エリク。貴様までこの者に期待しているというのか。機会……? そんなものはハナから無いも同然なのだ」
海将の鋭い眼光はエリク大尉とぶつかり、今にも“何か”が起きてしまいそうなほどだった。
エリク大尉は瞼を閉じ、深く深呼吸すると「私は貴女を心の底から尊敬していました」と言い残し、団長室に背を向けて去って行った。それに続き、ダリウス少尉も海将を一瞥してから部屋を出る。
悲しみと悔しさに背中を押されるように、続いて出て行こうとした僕の前にキャプテンが立ち塞がった。彼女はいつもと同じ、かったるそうな目線を僕に向け、団長室に押し込んでから扉を閉めた。
「やったか?」
「ええ」
海将とキャプテンは謎の短い会話を終わらせると、僕に大きく頭を下げた。
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