凡夫転生〜異世界行ったらあまりにも普通すぎた件〜

小林一咲

文字の大きさ
53 / 108
第2章 テラドラックの怒り

第53話 災いの輪

しおりを挟む
「「すまなかった」」

 申し合わせたかのように揃った2人の声が団長室に響き渡る。
 彼らが何故、このような行動に出たのか、わけが分からず呆然となっている僕に対し、海将は今までピンと立てていた背筋を緩めた。

「あの、これは一体どういう……」
「部屋の外に大聖堂のヤツが彷徨いていたからな。不用意に本音で話すのは得策では無いと思ったのだ」

 解消はしきりに深いため息を吐きつつ、「あの2人にも悪い事をした」と嘆くように葉巻を口に咥えた。海将のこの態度やキャプテンの表情から、なんとなく状況が飲み込めてきた僕は、あれが彼らの本音ではないということが分かり安堵する。

「さて、ジョグマン殿。先の返事は取り消し、海洋騎士団は全面的に貴方に協力、支援させていただきたい」
「そのお言葉が聞けて何よりです。
 ですが――」

 彼は身につけた正装の襟を正し、少々苦笑いを浮かべながら海将に向く。

「確かに私は“ジョグマン”であることに変わりはありませんが、これからはユークリッドとお呼びください。家名はあまり好きではありませんので」
「ああ、これは失礼……」

 ユークリッド氏の目の奥に潜んだ“何か”に流石の海将も気味である。

 それから先に出て行った2人を呼び戻し、海将から弁明と謝罪が行われた。
 最初は納得できないといった雰囲気だった彼らも、冷や汗をかきながらペコペコと頭を下げる我が団の長の姿に「可哀想だから」という理由で許した。威厳も何も無いが、このまま海洋騎士団の最大戦力を手放すよりはマシと考えたのだろう。組織のトップも決して楽ではない――いや、海洋騎士団《うち》だからか。

 その後は淡々と聴取が始まった。
 内偵調査を共にした僕、リラさんを逮捕したダリウス少尉。それぞれ一から十まで何も隠すことなく洗いざらいを話した。

「ふむ……どういった方向で押し進めるか」

 この2時間余りですっかり団長室に馴染んでいるが、彼はリラさんの代弁者ということを忘れてはならない。ユークリッド氏の脳内では既に裁判のビジョンが浮かんでいることだろう。しかし、彼女の無罪を主張したからにはそれに相当する確たる証拠が無ければこの裁判には勝てない。首を斜めに持ち上げ、宙を睨む彼は今まさにこの世界の歴史を塗り替えんとする人物だ。

「今回はご協力ありがとうございました」
「いえ、また何かありましたら」

 正直、不利な状況はほとんど変わっていない。ただ、今は彼の手腕に賭けるしか道はないのだ。

◇◇◇◇◇

 場所はインヒター王国オーム領から遥か東方の孤島。男は膝を着き、一振りの剣を抱いていた。
 ザラザラとした感触の砂浜に漂着したロングソードは、かつて同僚《とも》が肌身離さず持っていたもの。既にブレイド部分は錆び付き、鞘から抜くのも一苦労なほど。

「ウィリアム……生きてる、よな……?」

 もうじき雨がくる。
 孤島に吹き荒ぶ冷やりとした風に、男は静かに肩を震わせるのだった。

◇◇◇◇◇

「バルト! バルト起きろ!!」

 早朝、ダリウス少尉が僕の部屋に飛び込んできた。彼にしては珍しいことだが、どうやらそんな呑気なことを考えている場合ではないらしい。

「何かあったのですか?」
「ああ、緊急招集だ。とにかく急いで制服を着て団長室に来い!」

 窓際に掛けた制服を素早く着て、僕も少尉の後を追った。
 僕が到着した頃、団長室には既に海洋騎士団幹部がずらり。その端にダリウス少尉の姿を見つけ、横に立つ。

「揃ったな」

 海将は周りを見渡した後、鋭い眼光を飛ばした。

「先程オーム領、テラドラック海岸沖約20キロ付近で魔物が大量発生した」

「そんな、まさか……どうして……?」

 目の前の景色が歪んで見える。
 
 代わりに見えたのはかつてのフラッシュバック――あの“オームの大災害”の光景であった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。 そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。 しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの? 優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、 冒険者家業で地力を付けながら、 訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。 勇者ではありません。 召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。 でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

スライムに転生した俺はユニークスキル【強奪】で全てを奪う

シャルねる
ファンタジー
主人公は気がつくと、目も鼻も口も、体までもが無くなっていた。 当然そのことに気がついた主人公に言葉には言い表せない恐怖と絶望が襲うが、涙すら出ることは無かった。 そうして恐怖と絶望に頭がおかしくなりそうだったが、主人公は感覚的に自分の体に何かが当たったことに気がついた。 その瞬間、謎の声が頭の中に鳴り響いた。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...