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第2章 テラドラックの怒り
第66話 お上品にもほどがある
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「よくもあんなに出鱈目《デタラメ》な台本を作ったものだ」
裁判が閉廷し、身柄が解放されたリラさんの元に集まっていた僕らは、最高尋問官と鉢合わせた。熊男のようなその背格好は、スタイル抜群のユークリッド氏とは似ても似つかない。
「最高尋問官殿、今の発言は撤回していただきたい」
そこに親子としての姿は影すら見えず、ユークリッド氏は鋭い眼光を実の父に向けている。
まるで、親の仇を睨むように。
「今は最高尋問官としてではなく、ひとりの――」
「それでは。話すことは何もありませんな」
突き放された親父の背中は、どこかもの悲しそうに見えた。
◇◇◇◇◇
リラさんの今後については、自身と家族で話し合うようだ。海洋騎士団の触れ込みのおかげで地元に居づらいということは無さそうだが。まぁ、これについては当人らが決めることだし、首を突っ込んで良いことでもないだろう。
僕は裁判終わり、久しぶりにあの方に呼び出された。
場所は王宮内――仄かなジャスミンの香りが鼻先に触れると、何処からともなく懐かしい声が聞こえてくる。
「バルトさーーん!」
「うわっ、ちょっ……えぇ?!」
これは抱きつかれたのではなく、タックルされたのだ。
この勢いの良さと、知る人ぞ知る公務とのギャップの激しさはインヒター王国第一王女シュリア・リッチ・インヒターに間違いなかった。
「ちょ、シュリア王女、誰かに見られたら……」
「あら。見られたら何だと言うのです?」
その言い方は、お上品にも程がある。
「嫌味ですの?」
そういえば、この人は心が読めるんだった。笑顔が怖すぎる。
「それで、今日はどうして僕を?」
「お父様……じゃなかった。国王陛下が非公式の謁見を所望されています」
国王が、僕を。
なぜ?
「王都で起きた魔人騒ぎの件です。貴方の力を借りたいと」
「いや、僕にはそんな力なんて――」
言いかけた時、彼女は僕の肩を両手でがっしりと掴んだ。
「バルトさん、良いですか?」
「は、はい」
「戦いはまだ終わっていないのです」
◇◇◇◇◇
非公式とはいえ、偉い人に会うのはとても緊張する。僕にできることなんて限られているだろうけれど、魔人がまだこの王都のどこかに潜んでいるのだとしたら、いつ何が起きてもおかしくはない。
謙遜も、出し惜しみもする余裕なんてどこにもないのだ。
「これは謁見ではないから、そう固くなるなバルトよ」
「はい」
ゆっくりと顔を上げると、椅子に深く腰掛けた国王の隣にシュリア王女が立っている。国王は笑顔を向けているが、どこからか疲れが見え、若干やつれたような気もする。
「久しぶりだな、バルト。先の裁判はご苦労であった。色々と大変なところを呼び出してすまないが、急務であってな」
「魔人、ですね」
「そうだ。あの騒ぎ以降、魔人は姿を現していない。しかし、この王都周辺に潜んでいるのもまた事実であろう。だから、力を貸してほしいのだ。聞けば、お前はオーム寮で特異な魔物と戦い、勝ったと」
あちゃーそんな風に捉えられているのか。これはなんとしても誤解を解かなければならない。
「一点、よろしいでしょうか?」
「うむ」
「『特異な魔物と出会った』というのは事実です。実際にクラーケン、シレーヌ、そしてリヴァイアサンと言葉を交わしました」
「なんと! 言葉を話す魔物とは……上位種であることの証か」
「はい。しかし、私が彼らと『戦い、勝った』というのは誤った情報です」
「では、どうやって奴らを追いやったのだ?」
「説得しました」
間違ったことは言っていない。確かに僕は会話の中で説得をした。それに応じてくれた彼らをネタに国王の気を引くつもりは全く無い。逆にあまり気に留めないでほしいくらいだ。
「なんというか、凄いな……お前は」
あれ?
もしかして国王、引いてる?
裁判が閉廷し、身柄が解放されたリラさんの元に集まっていた僕らは、最高尋問官と鉢合わせた。熊男のようなその背格好は、スタイル抜群のユークリッド氏とは似ても似つかない。
「最高尋問官殿、今の発言は撤回していただきたい」
そこに親子としての姿は影すら見えず、ユークリッド氏は鋭い眼光を実の父に向けている。
まるで、親の仇を睨むように。
「今は最高尋問官としてではなく、ひとりの――」
「それでは。話すことは何もありませんな」
突き放された親父の背中は、どこかもの悲しそうに見えた。
◇◇◇◇◇
リラさんの今後については、自身と家族で話し合うようだ。海洋騎士団の触れ込みのおかげで地元に居づらいということは無さそうだが。まぁ、これについては当人らが決めることだし、首を突っ込んで良いことでもないだろう。
僕は裁判終わり、久しぶりにあの方に呼び出された。
場所は王宮内――仄かなジャスミンの香りが鼻先に触れると、何処からともなく懐かしい声が聞こえてくる。
「バルトさーーん!」
「うわっ、ちょっ……えぇ?!」
これは抱きつかれたのではなく、タックルされたのだ。
この勢いの良さと、知る人ぞ知る公務とのギャップの激しさはインヒター王国第一王女シュリア・リッチ・インヒターに間違いなかった。
「ちょ、シュリア王女、誰かに見られたら……」
「あら。見られたら何だと言うのです?」
その言い方は、お上品にも程がある。
「嫌味ですの?」
そういえば、この人は心が読めるんだった。笑顔が怖すぎる。
「それで、今日はどうして僕を?」
「お父様……じゃなかった。国王陛下が非公式の謁見を所望されています」
国王が、僕を。
なぜ?
「王都で起きた魔人騒ぎの件です。貴方の力を借りたいと」
「いや、僕にはそんな力なんて――」
言いかけた時、彼女は僕の肩を両手でがっしりと掴んだ。
「バルトさん、良いですか?」
「は、はい」
「戦いはまだ終わっていないのです」
◇◇◇◇◇
非公式とはいえ、偉い人に会うのはとても緊張する。僕にできることなんて限られているだろうけれど、魔人がまだこの王都のどこかに潜んでいるのだとしたら、いつ何が起きてもおかしくはない。
謙遜も、出し惜しみもする余裕なんてどこにもないのだ。
「これは謁見ではないから、そう固くなるなバルトよ」
「はい」
ゆっくりと顔を上げると、椅子に深く腰掛けた国王の隣にシュリア王女が立っている。国王は笑顔を向けているが、どこからか疲れが見え、若干やつれたような気もする。
「久しぶりだな、バルト。先の裁判はご苦労であった。色々と大変なところを呼び出してすまないが、急務であってな」
「魔人、ですね」
「そうだ。あの騒ぎ以降、魔人は姿を現していない。しかし、この王都周辺に潜んでいるのもまた事実であろう。だから、力を貸してほしいのだ。聞けば、お前はオーム寮で特異な魔物と戦い、勝ったと」
あちゃーそんな風に捉えられているのか。これはなんとしても誤解を解かなければならない。
「一点、よろしいでしょうか?」
「うむ」
「『特異な魔物と出会った』というのは事実です。実際にクラーケン、シレーヌ、そしてリヴァイアサンと言葉を交わしました」
「なんと! 言葉を話す魔物とは……上位種であることの証か」
「はい。しかし、私が彼らと『戦い、勝った』というのは誤った情報です」
「では、どうやって奴らを追いやったのだ?」
「説得しました」
間違ったことは言っていない。確かに僕は会話の中で説得をした。それに応じてくれた彼らをネタに国王の気を引くつもりは全く無い。逆にあまり気に留めないでほしいくらいだ。
「なんというか、凄いな……お前は」
あれ?
もしかして国王、引いてる?
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