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3話 ライオネル様は素晴らしすぎるのですわ①
しおりを挟む「あら、黒板が汚れているわね」
ライオネル様に学院まで送ってもらった後は、クラスが違うので別行動になる。次にライオネル様に会うのは、ランチの時間だ。
それまではどんな会話をしようか、ウキウキしながら考えているのだけど学院生活のことは内容を厳選して話している。
「うーん、こんなこと聞いてもライオネル様はつまらないわよね」
目の前の黒板に書かれているのは。
【ハーミリア・マルグレンはライオネル様に愛されていない!! さっさと婚約破棄されろ!! 強欲女!!】
確かに強欲女ではある。
自分に気のない婚約者をいつまでも追いかけ回し、どんなに冷たくされてもアピールし続けて自分のものにしようとしているのだから。
これを書いた人物はなかなか観察眼のある人物のようだ。もし誰なのか判明して、有能な人物ならライオネル様にとってプラスになるかもしれない。その時はわたくしがさりげなく紹介しましょう。
「あの、これを書かれたのはどなたですの? ライオネル様にご紹介したいのですけれど」
「はあ!? あなたライオネル様に告げ口するつもり!? こんな悪口書かれてますって泣きついたところで相手にもされないでしょう!!」
そう言ってきたのは、同じクラスのシルビア公爵令嬢だ。水色の髪を美しく巻いて、気品あふれる顔立ちをされている。腰に手を当てたポーズも様になっている。
「シルビア様、よくおわかりですのね。もしやシルビア様が書かれたのですか?」
「違うわっ! わたくしがこの様に低脳な嫌がらせをすると思って!?」
「失礼いたしました。シルビア様でしたらわたくしの実家ごと捻り潰すのもたやすいですものね」
「そうよ……ではなくて、この様なことでライオネル様のお気持ちを煩わせるのだけはやめておきなさい! と言いたかったのよ」
シルビア様はライオネル様の熱狂的なファンだ。ファンクラブでも一桁代の会員番号だと噂されている。だからこそわたくしが婚約者で気に入らないのだろうけど、高潔な方だから面と向かって進言してくれる。
「ええ、もちろんその様なことはいたしませんわ。わたくし、この手の嫌がらせはまったく響きませんもの」
「そ、そう。ならいいのだけど。先生が来る前にご自身で綺麗にしておくのよ」
「はい、そのつもりですわ」
それだけ言ってシルビア様は席についた。
どうやらこの観察眼の持ち主は名乗り出てくれないようだ。もったいないけれど、黒板を綺麗にしていく。
相手の急所や真実を突く様な嫌がらせをする人物は、内面をチェックした上でライオネル様と接点が持てるように調整していた。
それだけライオネル様を慕ってくださる方だし、いざという時はライオネル様のために動いてくださる。
なによりライオネル様の公明正大な人柄に触れて、みな真っ当になり意地悪したことを悔いるのだ。
わたくしのライオネル様が本当に素晴らしすぎる。
黒板を綺麗にして振り返ると、ひとりの女生徒と視線が合う。
ピンク色のふわふわした髪がわたあめみたいでかわいらしい、男爵令嬢のドリカさんだ。クリッとした青い瞳を歪ませてわたくしを睨んでいるように見えた。なるほど、彼女が犯人らしい。可憐すぎてまったく怖くないけれど。
わたくしはライオネル様のことしか考えていないので、この様な嫌がらせはまったく気にならない。
大体は事実であったし、こんなことで落ち込んで泣くくらいなら、ライオネル様のためになることをしたかった。なので犯人の方には申し訳ないが労力の無駄なのだ。
ドリカさんがわたくしに声をかけてきてくれれば、ライオネル様をご紹介しようと思っていたがついぞ接触してくることはなかった。
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