【完結】呪いのせいで無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになりました。

里海慧

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59話 ライオネル様がいつもと違いますわ!!①

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 収穫祭が終わって、王都は一段と寒くなり冬が間近に迫っていた。

 これからの季節は寒さを理由に寄り添うカップルが増える。なのに最近はライオネル様の様子がおかしかった。

「リア、おはよう。今日も美しく可憐だ」
「ライオネル様、おはようございます。相変わらず素敵すぎますわ」

 ここまではいつも通り。問題はこの後だ。

「では、リアはこちらに座ってくれ」

 そう言ってライオネル様はわたくしの向かい座席に腰を下ろす。

 これまでは散々馬車の中でもイチャイチャしていたのに、今は一定の距離を保っていた。これが普通の婚約者同士の距離なのでおかしいところはない。そう、だ。

 残念ながら、わたくしとライル様はラブラブバカップルなので、むしろこの状態が異常と言える。

「ライル様、あの……以前のようには、してくれませんの?」

 わたくしははしたないと思いながらも、ライル様に尋ねてしまった。自分からライル様の膝に座りたいと願うなんて、本当に恥ずかしい。

「っ! いや、あれはちょっとやり過ぎだったと反省したんだ。だが、リアが嫌でないなら僕の膝に座ってほしい」

 そう言って頬を染めたライル様はわたくしの隣に移動して、その膝の上に乗せてくれた。

「……はぁ」

 この温もりが心地いい。そのはずだったのに、耳に届いたのはライル様の小さなため息だった。

 え……? 今ため息をついたわ。そんなに、これが嫌だったのかしら……?
 いったいどうして? ライル様になにかあった? いえ……もしかしたら、わたくしがなにかしてしまったの?

 嫌な汗が背中を伝って落ちていく。

「ラ、ライル様、わたくしはライル様が大好きですわ」
「うん、僕もリアを愛してる」
「わたくしはライル様になにか嫌な思いをさせていませんか?」
「いや、そんなことはないけど、どうかした?」
「いえ……それならいいのです」

 それ以上なにも言えなくなってしまった。

 それからわたくしは、ライル様の様子をいつも以上に注意深く観察した。
 わたくしの言動でなにかわずらわせていないか、不快にしていないか、ほんのわずかな感情の機微も見逃さないようにした。

 するとひとつ気がついたことがある。
 ライル様は結構な頻度で、わたくしになにか伝えたいようなのだ。

 それも一日だけではない。毎日ふとしたタイミングで、ジッとわたくしの顔を見つめている。

 さらにソワソワと落ち着かない様子で、チラチラとわたくしを見てくる時もあった。

 どうしましょう……! わたくし、もしかして気付かないうちに粗相をしていた!?
 というか、他の方に心を移して婚約解消したくなった? それなら納得ですわ!

 もともとかわいげのない婚約者だったし、大切な人のためとはいえ苛烈になりすぎるところがあるのだ。こんな面倒な女から気持ちが離れてしまっても理解はできる。

 でも……! このまま大人しく引き下がるなんてできませんわ! ライル様の次のお相手がしっかりした方なのか見極めませんと、ライル様をお願いできませんもの!!

 わたくしは意を決して、放課後話があるとライル様に時間をもらった。



 生徒会室はマリアン様がシュラバンに嫁がれてから、めっきり使用頻度が低くなったので鍵をかけて話をしていても問題ない。
 一応わたくしも生徒会のメンバーなので、使用できる権限はあるのだ。

 誰もいない生徒会室に内側から鍵をかければ、準備万端だ。

「リア、話とはなんだ? ここで話すようなことが、なにかあったのか?」
「長くなるかもしれませんから、こちらにお掛けいただけますか?」

 本当はわたくしが立ったまま話せるか自信がなかったから、ソファーをすすめただけなのだ。そうと知らないライル様は素直に腰を下ろしてくれた。

 このソファーはマリアン様が持ち込んだものだけど、物に罪はないのでそのまま使わせてもらっている。わたくしも隣に座り、ライル様に身体を向けた。

「リア、なにがあった?」

 本当にこんな時にまでライル様は優しい。いつまでもその優しさがわたくしだけのものだなんて、勘違いもいいところだ。

「ライル様にお聞きします。他にお慕いする方ができたのではありませんか?」
「……いったいなんの話だ?」

 一気に機嫌が急降下してしまった。それもしかたない。きっとそのお相手様に被害が及ばないようにしたいのだろう。

「安心してください。わたくしはライル様が他の方にお心をうつされても、邪魔などいたしません。ただ……わたくしが勘違いしていると不都合があるかと思いましたので、先に確認したかったのです」
「リア、だからなんの話をしているんだ?」

 これでもライル様は打ち明けてくれない。そんなに大切に思われているということだ。

 グッと奥歯を噛みしめてわたくしは込み上げてくるものを堪えた。


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