【完結】呪いのせいで無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになりました。

里海慧

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61話 あなたのそばにいる未来①

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 季節は巡り、色とりどりの花が咲き乱れて、穏やかな風が頬を撫でていく。

 寒い冬を乗り越え新芽を出して、これから成長しようと力強く伸びる草花は、学年が変わり新たな一歩を踏み出すわたくしたちを応援しているみたいだ。

 ひとつ上の学年になりクラス替えがあり、わたくしとライル様、それからシルビア様も同じクラスになった。

 嬉しすぎて満面の笑みを浮かべたら、ライル様に抱きしめられて「そんな顔を他の男子生徒に見せたら危険すぎる!」と言われてしまった。

 そんなにおかしい顔をしてしまったのかしら。心から笑ってはいけないなんて、難しいわ。
 だって今とても幸せなんだもの。

 新入生は初々しくて、昨年の自分たちの姿が重なる。
 あの時はまだライル様はそっけなかったけど、今ではラブラブバカップルの名にふさわしく、わたくしを甘やかし溺愛してくれている。

「リア、また一年間ずっと一緒にいられるね」
「はい! とても嬉しいですわ。それにシルビア様も同じクラスですもの、わたくし本当に幸せ者ですわ」
「ふふっ、私たちが同じクラスでは殿下が拗ねてしまいそうですわね。あの方は意外と寂しがり屋ですから」

 シルビア様は王太子殿下が最終学年に上がり、内々に婚約の打診がきたのでそれを受けたそうだ。

 昨年の収穫祭で王太子殿下とふたりで過ごした時に、その慧眼と穏やかな人柄、シルビア様への秘めた想いに気付いて即決したと言っていた。

 その後もふたりで視察に出かけては、民の暮らしを安定させるための議論を交わしたり、騎士団の業務について改善案を出したりしていると聞く。この国の将来は明るいと今から期待している。

 ちなみにふたりきりの時は、お互いに愛称で呼んでいるらしい。恥ずかしがって教えてくれなかったけど、今度じっくり聞き出したいと思っている。

「今年は生徒会の役員はどうするのでしょうね」
「ああ、王女がシュラバンに嫁いで学園を辞めたから、再度選び直すと言っていた」
「そのことなんですけれど……実は昨日、私が副会長に任命されましたの」
「えっ! シルビア様が? すごいですわ! 王族以外でこの学年から選出されるなんて」

 この学院の生徒会長と副会長は、王族以外で選ばれる場合は成績や家柄、それに授業態度や人柄まで細かく調査される。合格ラインに達していなければ、任命を受けられないのだ。

 推薦したのは間違いなく王太子殿下だろうけれど、学院での素行はシルビア様自身が見られる。さすがわたくしの親友だ。

「それでね、放課後になったらふたりも生徒会室に一緒に来てほしいの。殿下がお話があるそうよ」
「……わかった」
「王太子殿下が? かしこまりましたわ」

 ニコニコと微笑んでいるシルビア様を見る限り悪い話ではなさそうなので、問題ないと思っていた。



 放課後になり、シルビア様とともに生徒会室へやってきた。

 王太子殿下は生徒会のお仕事を王族の専用貴賓室でこなしていたが、今はこちらでほとんどの処理をしているらしい。

 生徒会室には王太子殿下とそれから側近のソリアーノ宰相の令息アベル様と、ローザ様とテオフィル様も同席されていた。

「殿下、ライオネル様とハーミリアさんをお連れしましたわ」
「シルビア、ありがとう」

 ふたりの絡まる視線がほんの少しだけ甘さを含んでいて、ドキッとしてしまう。殿下の婚約発表は一年後の卒業式なのでそれまで公言できない。

「ジュリアス様、僕たちをここへ呼び出して、どのようなご用件ですか?」
「難しい話じゃない。まあ、まずは座ってくれ」

 王太子殿下に促されてソファーに腰を下ろしたけど、一瞬であの時の暴走したライル様が脳裏を掠ってひとりソワソワしてしまう。

「……どうした? ふたりとも顔が赤いぞ。暑いか?」
「い、いえ、なんでもありません。リアも大丈夫か?」
「はい……なんでもありませんわ」

 ソワソワしてたのは、わたくしだけではなかったようだ。

「そうか、では本題に入る。ライオネルは生徒会の会計、ハーミリア嬢には昨年に引き続き書記をお願いしたい」
「また面倒なお願いですね」
「そう言うな、ライオネルもハーミリア嬢も信頼できるから頼みたいのだ」

 ライル様はわたくしに「どうする?」というように視線を向けた。昨年と同じなら特に問題ないだろう。わたくしは返事の代わりににこりと微笑む。

 王太子殿下の側近では、生徒会の役員をこなすのが物理的に難しいので頼めない。それゆえわたくしたちに白羽の矢が立ったのだ。

「謹んでお受けいたしますわ」
「わかりました、僕も受けます」
「ありがとう、私にとっては学院最後の一年だ、よろしく頼む」

 王太子殿下の言葉に少しだけしんみりしたけど、気持ちを切り替えて二年目の学院生活をスタートさせた。


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