夫のつとめ

藤谷 郁

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お見通し

3

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 彼の逞しい胸板、力強い腕を思い出し、希美はまんざらでもない顔をする。横向きになっているので、武子に表情は見えていない。

「女っ気なしの、地味な男性。南村さんという目立たぬお方は、無限の可能性を秘めていたのでございますねえ。童貞ならではの、とでも申しましょうか?」
「……」

 表情は見えていないが、彼女はすべてお見通しだ。希美はひと言もなく、話を変えることにする。

「それにしても、実家の借金のこととか知らなかったわ。壮二について少しは調べたほうがいいわよね」
「はあ」
「ノルテフーズに入社できたんだから、問題ないとは思うけど」
「ええ」
「近いうちに、ご両親にも挨拶しなくては」
「はあ」

 眠くなってきたのか、武子は気の抜けた返事をする。希美は、こうして付き合わせているのが悪い気がした。
 武子は、今夜は自宅で休むところを、わざわざ心配して北城家まできてくれたのだ。

「ねえ、武子さん。私はもう大丈夫だから部屋で休んでちょうだい。あと、あらためてお休みを取れるようお母様には言っておくから」
「いいえ、お嬢様とお話するのは、私の楽しみでもあります。本当は、お休みなどいただかなくとも構わないくらいなのです」
「だめよ。それじゃ、私の気が済まないって」

 希美は床に敷いたマットの上で、ゆっくりと起き上がった。微笑んでみせると、武子は安心した様子になり、顎を引いた。

「それでは、私はこれで失礼いたします。今夜は自宅に戻らず部屋におりますので、痛むようでしたらすぐにお呼びください」
「了解。頼りにしてるわ」

 武子は薬箱を持って立ち上がると、会釈をしてからドアに向かった。そしてノブに手をかけ、思い出したように振り返る。

「お嬢様」
「ん?」

 じっと見つめられ、希美は妙に照れてしまう。武子の眼差しはとても真面目で、穏やかで、愛情の深さが伝わってくる。それは、希美が幼かった頃となんら変わらない。

「私達は、南村壮二という男性に期待をかけております。お嬢様を幸せに導く、良き伴侶となられますように」

 再度会釈をすると、ドアを開けて出ていった。彼女も照れたのか、あっさりとした退場である。

「武子さん?」

 今、彼女は私達と言った。
 なんとなく希美は引っ掛かるが、考えようとするとあくびが出てきた。腰の痛みがやわらいだためか、急激な眠気に襲われる。

(ま、いっか。杉山さんとか、北城家に勤める私達って意味よね、きっと)

 マットに横たわり、目を閉じた。

(良き伴侶となられますように……か)

 明日、筋肉痛は治まるだろう。だけど、壮二を受け入れた身体の疼きは消えそうにない。
 希美はうつらうつらしながら、武子にも誰にも話せない、彼との初夜を反芻した。
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