夫のつとめ

藤谷 郁

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桜色の回想

1

 こちらが引けば引くほど壮二はファイトを燃やした。
 初めて結ばれた後も、その余韻に浸るでもなく、二回戦、三回戦、四回戦と立て続けである。希美の言い分などきかず、一方的に襲ってくるのだから堪らない。

『イヤ』『ダメ』の意味は、『もっと』――

 どうしてあんなことを言ってしまったんだろうと希美は後悔したが、時すでに遅し。壮二は女王の従順な下僕となり、一心不乱に頑張った。
 命令どおり、最後までやり抜くことしか頭になかったのだろう。

 もちろん希美はがっつりが好きだ。かつての恋人たちとも熱い夜を過ごしたもの。だけど、壮二ほどエネルギッシュで、粘り強くて、タフな相手はいなかった。
 それから、これほど学習能力に優れた男も。

「悔しい……」

 希美は呟くが、やはりまんざらでもなかった。
 壮二は知識や技巧を持たない。どうすれば分からず、手探りの状態だったはず。だからこそ、ちょっとした反応も見逃さないよう注意を払っていたのだ。
 そして、希美の要求をいくつも学習した。

(この私が陥落するなんて。よりによって、あんな地味系ヘタレ童貞男に……)

 武子には落ちていないと強がったが、認めざるを得ない。
 壮二の自信なさげな態度も発言も、実はフェイクだったのではと思える。
 ていうより、そもそも童貞だったの?
 疑ってしまうが、壮二にとって希美が初めての女だと、それだけは確信できる。彼の一途な眼差しに感じていた。

 営業二課の幻影。地味で目立たぬ、どこにでもいる普通の男……と思いきや、脱いだら意外のビックリ箱で、ただのどんぐりではなかった。

 頬杖をつくと、ひやっとした。指が冷たいせいだとすぐに気が付く。

「?」

 月明かりに青白い指先を透かす。
 ホテルの部屋でもそうだった。
 これは、かなり緊張している証拠。
 南村壮二に対して?
 さすがに動揺するが、希美はやがて事実として受け止める。

 「私のほうが、オレ色に染め上げられてしまったってわけね」
  
 とにかく壮二は、夫としての条件を揃えている。愛し合うのも夫のつとめだと思えば、あれくらい激しくド真っ直ぐであるのが望ましい。
 壮二との新婚生活を想像し、希美はなんだかドキドキしてきた。

「でも、満足したのは身体だけよ。他の主導権は渡さないんだから」

 しかしカラダは正直なもの。
 負けず嫌いを発揮しても、全身が熱くなるのをどうしようもなかった。

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