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コンフォート(最終章)
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◇◇◇
「お帰りなさいませ織人様。どこまでお散歩に行かれたのかと、心配しておりましたよ。奈々子様、ご無事で何より!」
「ちょっと遅くなっただけだろ。大げさだなあ」
ホテルに着くと、大野さんが出迎えてくれた。彼は織人さんが子供の頃からの守り役で、今も昔もずっと心配している。
あの事件を知った時は寿命が縮まったと、織人さんに訴えていた。
「もうすぐディナーのお時間ですよ。さあさあ、奈々子様も早くこちらに」
エレベーターへと急かされ、織人さんが肩をすくめる。
「30分後にお料理をお運びいたします。今夜もごゆるりとお過ごしください」
私たちがエレベーターに乗り込むと、大野さんが恭しく頭を下げて見送った。
扉が閉まり、籠が上昇する。
「さあて、今夜はフレンチの新メニューだぞ。しっかり食べろよ、奈々子」
「はい、楽しみです」
エレベーターの窓から、湖が見渡せる。私はなんだか堪らない気持ちになり、織人さんに寄り添った。
「おいおい。どうしたんだ、急に」
驚きつつ、すぐに抱きしめてくる。嬉しそうな笑顔がまぶしい。
「織人さん。本当に、ありがとう」
「奈々子……」
見つめ合い、唇を寄せ合う。
もう少しで触れそうな時、電話が鳴った。
「だーっ、なんだよもう……って、あれ? 翼からだ」
「翼さん?」
エレベーターが5階に着いた。とりあえず降りてから、彼が電話に出た。
ホールの奥に、特別室Sの玄関が見える。
「なんだよ、いいところなのに……あん? まあいいよ、こっちの話だ。用があるなら手短にな……えっ、なんだって?」
相変わらずぶっきらぼうだが、どこか楽しそう。なんのかんの言っても仲の良い幼なじみである。
(それに、花ちゃんも)
私たちはたびたび4人で食事する。
事件後の私のメンタルを気遣い、二人が誘ってくれるのだ。
彼らの存在に、心から感謝している。
「ええーッ!? マジかよ!!」
大きな声に驚き、織人さんを見上げた。
「わ、わかった。いや、ちょっと考えさせてくれ……わかったから心配するな。ああ、じゃあまた」
「ど、どうしたんですか?」
スマホを握りしめる彼に、電話の内容を訊ねた。
「奈々子、驚くなよ。ハリウッドからオファーが来た」
「……はい?」
言葉の意味が理解できず、頬を紅潮させる彼をひたすら見つめた。
「例の動画を見たハリウッドのプロデューサーが九郎さんに問い合わせたそうだ。ミスター由比を紹介してくれないか、映画出演を依頼したいと」
「ハリウッド……?」
まだ理解できない。
織人さんが焦ったそうに続ける。
「映画だよ、奈々子。九郎さんはロスに不動産を持ってて、セレブと親交があるんだ。その中に有名なプロデューサーがいて、その人が九郎さんを介して、アクション映画に出てほしいと俺に伝えてきたってこと!」
「……え、えええ!?」
思わず叫んだ。
織人さんが腕を広げて、私を抱きしめる。
「信じられねー、こんなことがあるんだ。君のおかげだよ奈々子!」
「す、すごいです、織人さん、すごい!」
二人して、子どものようにはしゃいだ。キングの……織人さんの夢が叶えられるかもしれない。
だけど……
「まあしかし、そう簡単ではないな。俺には仕事があるし」
ひとしきり喜んだあと、ちょっと冷静な口ぶりになる。
「親父と、役員にも相談しないと。映画となると、スケジュールがどうなるか」
大人の顔で、思案する。
だけどやっばり嬉しいのだと、私は感じ取ることができた。
「大丈夫、あなたなら。今は目いっぱい喜びましょう!」
「奈々子」
みるみる笑顔になった。
太陽みたいにまぶしい、私の大好きな人がここにいる。
ドキドキ、ハラハラ、ワクワク。未知の世界は何が起こるかわからない。だけど二人なら大丈夫。自由の翼を広げ、どこまでも飛んで行ける。
「今夜はお祝いだ。乾杯しようぜ!」
「はいっ、織人さん」
手を取り合い、前に進む。
思い出の場所。
二人で過ごす大切な時。
優しさに包まれながら、幸せを噛みしめた。
(完)
「お帰りなさいませ織人様。どこまでお散歩に行かれたのかと、心配しておりましたよ。奈々子様、ご無事で何より!」
「ちょっと遅くなっただけだろ。大げさだなあ」
ホテルに着くと、大野さんが出迎えてくれた。彼は織人さんが子供の頃からの守り役で、今も昔もずっと心配している。
あの事件を知った時は寿命が縮まったと、織人さんに訴えていた。
「もうすぐディナーのお時間ですよ。さあさあ、奈々子様も早くこちらに」
エレベーターへと急かされ、織人さんが肩をすくめる。
「30分後にお料理をお運びいたします。今夜もごゆるりとお過ごしください」
私たちがエレベーターに乗り込むと、大野さんが恭しく頭を下げて見送った。
扉が閉まり、籠が上昇する。
「さあて、今夜はフレンチの新メニューだぞ。しっかり食べろよ、奈々子」
「はい、楽しみです」
エレベーターの窓から、湖が見渡せる。私はなんだか堪らない気持ちになり、織人さんに寄り添った。
「おいおい。どうしたんだ、急に」
驚きつつ、すぐに抱きしめてくる。嬉しそうな笑顔がまぶしい。
「織人さん。本当に、ありがとう」
「奈々子……」
見つめ合い、唇を寄せ合う。
もう少しで触れそうな時、電話が鳴った。
「だーっ、なんだよもう……って、あれ? 翼からだ」
「翼さん?」
エレベーターが5階に着いた。とりあえず降りてから、彼が電話に出た。
ホールの奥に、特別室Sの玄関が見える。
「なんだよ、いいところなのに……あん? まあいいよ、こっちの話だ。用があるなら手短にな……えっ、なんだって?」
相変わらずぶっきらぼうだが、どこか楽しそう。なんのかんの言っても仲の良い幼なじみである。
(それに、花ちゃんも)
私たちはたびたび4人で食事する。
事件後の私のメンタルを気遣い、二人が誘ってくれるのだ。
彼らの存在に、心から感謝している。
「ええーッ!? マジかよ!!」
大きな声に驚き、織人さんを見上げた。
「わ、わかった。いや、ちょっと考えさせてくれ……わかったから心配するな。ああ、じゃあまた」
「ど、どうしたんですか?」
スマホを握りしめる彼に、電話の内容を訊ねた。
「奈々子、驚くなよ。ハリウッドからオファーが来た」
「……はい?」
言葉の意味が理解できず、頬を紅潮させる彼をひたすら見つめた。
「例の動画を見たハリウッドのプロデューサーが九郎さんに問い合わせたそうだ。ミスター由比を紹介してくれないか、映画出演を依頼したいと」
「ハリウッド……?」
まだ理解できない。
織人さんが焦ったそうに続ける。
「映画だよ、奈々子。九郎さんはロスに不動産を持ってて、セレブと親交があるんだ。その中に有名なプロデューサーがいて、その人が九郎さんを介して、アクション映画に出てほしいと俺に伝えてきたってこと!」
「……え、えええ!?」
思わず叫んだ。
織人さんが腕を広げて、私を抱きしめる。
「信じられねー、こんなことがあるんだ。君のおかげだよ奈々子!」
「す、すごいです、織人さん、すごい!」
二人して、子どものようにはしゃいだ。キングの……織人さんの夢が叶えられるかもしれない。
だけど……
「まあしかし、そう簡単ではないな。俺には仕事があるし」
ひとしきり喜んだあと、ちょっと冷静な口ぶりになる。
「親父と、役員にも相談しないと。映画となると、スケジュールがどうなるか」
大人の顔で、思案する。
だけどやっばり嬉しいのだと、私は感じ取ることができた。
「大丈夫、あなたなら。今は目いっぱい喜びましょう!」
「奈々子」
みるみる笑顔になった。
太陽みたいにまぶしい、私の大好きな人がここにいる。
ドキドキ、ハラハラ、ワクワク。未知の世界は何が起こるかわからない。だけど二人なら大丈夫。自由の翼を広げ、どこまでも飛んで行ける。
「今夜はお祝いだ。乾杯しようぜ!」
「はいっ、織人さん」
手を取り合い、前に進む。
思い出の場所。
二人で過ごす大切な時。
優しさに包まれながら、幸せを噛みしめた。
(完)
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