一億円の花嫁

藤谷 郁

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強引なお誘い

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 一体、どういうことだろう。

 露天風呂に浸かりながら、私は繰り返し考えた。由比さんからの突然の提案。その意味について。

「いや、うん。やっぱり深い意味なんてないよね。由比さんの言葉以上の意味は……」

 食事のあと、部屋に戻ろうとする私を引き留めて彼が言った。ボディガードをさせてください、と。

 つまり彼は、観光地に出かける私についてくると言うのだ。また変な男に絡まれないようにとの提案だった。
 
 ――――――
 ――――――

『そ、そんな、大丈夫です。だって、変質者は警察に捕まったんですよね。あんな人、そうそういませんから』
『ええ、まあ……でも、危なっかしいので、あなたに付いていきたいのです』

 由比さんは真剣だった。

『危なっかしいって、私が、ですか?』
『はい』

 強い意思がひしひしと伝わってくる。彼が守りたいのは『ホテルの客』だと分かっているのに、勘違いしそうになるほど。

『はあ、でも……』
『ご迷惑ですか?』
『い、いえ、そんなこと』

 あるはずがない。
 それどころか、こんなに嬉しい展開があるだろうか。
 夢の続きを見られるのだ。

『決してじゃまはいたしません。ただそばにいて、あなたを見守らせてほしい。このとおりです!』
『ちょ、やめてください』

 深々と頭を下げられ、どうすれば良いのか考える間もなく受け入れてしまった。ほとんど反射的に。
 すると由比さんはパッと顔を上げて、

『では、明日の朝9時にロビーでお待ちしています』
『わ、分かりました』
『良かった。ありがとうございます』

 嬉しそうに笑う。あまりにも嬉しそうで、まぶしくて、私は目を細めるばかり。
 
 そして、ぼんやりしたまま部屋に戻り、とりあえず温泉にでも入ってゆっくり考えようと思い、今に至るのだった――


「深い意味は、ないよね?」

 何度考えても答えは同じ。
 だけど、この胸のときめきはただごとではない。

 ちょっぴり勘違いしている自覚があった。

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