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私以外、みんな幸せ
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(関根さん……)
由比さんの身勝手な行為が、彼女を疲弊させている。
化け猿の見張り役という仕事がどれだけ大変なのか、今の私には容易に想像がつくし、その苛立ちや無力感を誰よりも理解できる。
彼女のためにも、私がしっかりしなければ。それこそ腹を括って。
「本当に、由比さんのような方と結婚できるなんて夢のようです」
関根さんが、えっ? という顔になる。
私は笑みを作ると、背筋を伸ばして由比さんと向き合った。
「初めは驚きのあまり動揺してしまいましたが、こんなにも素晴らしいご縁は他にありません。未熟者の私ですが、織人さんの妻として精一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願い申し上げます」
「奈々子さん……」
由比さんが満足げにうなずく。それでいいという合図だ。
関根さんも分かってくれただろう。彼との結婚は私自身が決めたことであり、もう迷いはないのだと。
「いやあ、実にめでたい。由比さんのおかげで大月家は永遠に安泰。まさに救世主ですよ!」
父が豪快に笑い、母も姉もにこやか。朗らかな空気が客間を満たした。
「さあさあ、お掛けになってください。お茶でも飲みながら、楽しくお喋りしましょう。関根さんも、立ちっぱなしでは疲れてしまいますので、こちらの椅子にどうぞ」
「ありがとうございます。では、遠慮なく」
良くも悪くも活発な父につられたのか、関根さんも明るい表情になる。
私は内心、ホッとした。
これでいい。大丈夫、大丈夫。私が心を決めたのは、みんなの幸せのためだから。人身御供になろうとも、後悔なんてしない。
「腹を括ったな。さすが奈々子」
「……!」
耳もとで囁かれ、ビクッとする。
見上げると、由比さんが嬉しそうに目尻を下げていた。
「きゅ、急に近づかないでください!」
「照れなくてもいいだろ。明日には俺の妻になるんだから」
「…………えっ?」
今、なんて?
目で問うけれど彼は答えず、私の手を取りソファに座らせた。そして隣に腰掛けると、テーブル越しに並んだ家族に対し、悠々と向き合う。
まるで、既に私と夫婦であるかのように、ぴたりと寄り添い……
「それでは、お父さん。さっそくですが、話を詰めていきましょう」
「は……お、お父さん?」
お父さんと呼ばれて、父があからさまに喜んだ。さっきからテンションが高いが、ここへきてさらに興奮している。
「ああ、すみません。馴れ馴れしかったでしょうか」
「いやいや、とんでもない! 確かに、奈々子があなたと結婚すれば、私は義理の父。光栄ですが、ちょっと緊張しますな。わははは……」
よほど嬉しいのか、声がうわずっている。
だが、父が喜んだのは『お父さん』と呼ばれたことではなく、彼と親子になる=ビジネスチャンスだから。
その意味で由比さんは、大月家の救世主なのだ。
「こほん……それで、話を詰めるというのは、例の業務提携についてですね?」
笑いを収め、ギラリと目を光らせる。欲を隠そうともしない父に、私は恥ずかしさを覚えた。娘を差し出した見返りを、臆面もなく要求している。
父を『裏表のない人物』と評する由比さんは好感を持つかもしれないが、いたたまれない。
「いえ、お父さん。その前にこちらを」
由比さんがスーツの内ポケットから、書類らしきものを取り出す。テーブルに置かれたのは、綺麗に折り畳まれた一枚の用紙。そしてペンをカチカチと鳴らして私に持たせた。
「え……あの?」
「サインをいただきます。まずは、奈々子さんから」
「!?」
まさかと思い、用紙を確認する。
広げてみるとそれは、彼のサインが記入済みの婚姻届だった。
由比さんの身勝手な行為が、彼女を疲弊させている。
化け猿の見張り役という仕事がどれだけ大変なのか、今の私には容易に想像がつくし、その苛立ちや無力感を誰よりも理解できる。
彼女のためにも、私がしっかりしなければ。それこそ腹を括って。
「本当に、由比さんのような方と結婚できるなんて夢のようです」
関根さんが、えっ? という顔になる。
私は笑みを作ると、背筋を伸ばして由比さんと向き合った。
「初めは驚きのあまり動揺してしまいましたが、こんなにも素晴らしいご縁は他にありません。未熟者の私ですが、織人さんの妻として精一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願い申し上げます」
「奈々子さん……」
由比さんが満足げにうなずく。それでいいという合図だ。
関根さんも分かってくれただろう。彼との結婚は私自身が決めたことであり、もう迷いはないのだと。
「いやあ、実にめでたい。由比さんのおかげで大月家は永遠に安泰。まさに救世主ですよ!」
父が豪快に笑い、母も姉もにこやか。朗らかな空気が客間を満たした。
「さあさあ、お掛けになってください。お茶でも飲みながら、楽しくお喋りしましょう。関根さんも、立ちっぱなしでは疲れてしまいますので、こちらの椅子にどうぞ」
「ありがとうございます。では、遠慮なく」
良くも悪くも活発な父につられたのか、関根さんも明るい表情になる。
私は内心、ホッとした。
これでいい。大丈夫、大丈夫。私が心を決めたのは、みんなの幸せのためだから。人身御供になろうとも、後悔なんてしない。
「腹を括ったな。さすが奈々子」
「……!」
耳もとで囁かれ、ビクッとする。
見上げると、由比さんが嬉しそうに目尻を下げていた。
「きゅ、急に近づかないでください!」
「照れなくてもいいだろ。明日には俺の妻になるんだから」
「…………えっ?」
今、なんて?
目で問うけれど彼は答えず、私の手を取りソファに座らせた。そして隣に腰掛けると、テーブル越しに並んだ家族に対し、悠々と向き合う。
まるで、既に私と夫婦であるかのように、ぴたりと寄り添い……
「それでは、お父さん。さっそくですが、話を詰めていきましょう」
「は……お、お父さん?」
お父さんと呼ばれて、父があからさまに喜んだ。さっきからテンションが高いが、ここへきてさらに興奮している。
「ああ、すみません。馴れ馴れしかったでしょうか」
「いやいや、とんでもない! 確かに、奈々子があなたと結婚すれば、私は義理の父。光栄ですが、ちょっと緊張しますな。わははは……」
よほど嬉しいのか、声がうわずっている。
だが、父が喜んだのは『お父さん』と呼ばれたことではなく、彼と親子になる=ビジネスチャンスだから。
その意味で由比さんは、大月家の救世主なのだ。
「こほん……それで、話を詰めるというのは、例の業務提携についてですね?」
笑いを収め、ギラリと目を光らせる。欲を隠そうともしない父に、私は恥ずかしさを覚えた。娘を差し出した見返りを、臆面もなく要求している。
父を『裏表のない人物』と評する由比さんは好感を持つかもしれないが、いたたまれない。
「いえ、お父さん。その前にこちらを」
由比さんがスーツの内ポケットから、書類らしきものを取り出す。テーブルに置かれたのは、綺麗に折り畳まれた一枚の用紙。そしてペンをカチカチと鳴らして私に持たせた。
「え……あの?」
「サインをいただきます。まずは、奈々子さんから」
「!?」
まさかと思い、用紙を確認する。
広げてみるとそれは、彼のサインが記入済みの婚姻届だった。
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