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「ありがとうございます。嬉しい!」
「そっか。良かったぜ」
由比さんが照れたように笑う。
私も微笑み、寄り添ってくる彼を素直に受け入れた。
我ながら単純だと思う。
だけど、指輪はそれほどまでに強力に私を魅了した。
「大切な君への、約束の証だ」
大切な君――
なぜだか、とても胸に響いた。
「奈々子は俺の花嫁であり、俺の大切な妻になるんだからな」
大切。大切。
由比さんを見上げ、あらためて問い詰めたくなる。どうして私なんかを?
――もしくだらん理由で君を傷つけるやつがいたら、誰であろうと俺は絶対に許さないし、完膚なきまでにボコボコにしてやる!
(綾華のことを話した時、由比さんは本気で殴りに行きそうだった。もちろん暴力はダメだけど……守ってくれようとする、その気持ちは喜んでいいのかもしれない)
中学時代のトラウマが原因で、人と関わるのを恐れ、生きてきた。人になにかを頼まれた時、拒否できない。少女のままの、孤独で臆病な心。
そんな私がNOと言えたのは、由比さんが初めてだった。でも彼は私を嫌ったりせず、それどころかまっすぐに向き合ってくれたのだ。
「よし、そろそろ行こうか。雪に埋もれないうちに」
フロントガラスの向こうをヘッドライトが照らす。初めて出会った日も、こんな風に雪が降りしきっていた。
(もしもあの日、由比さんと出会わなかったら……)
ふと、想像してみる。
独身最後のひとり旅。
彼と出会わなかったら私は、一人で夕食を取り、一人で観光して、それから東京に戻り、予定どおり『意に染まぬ相手』と結婚したのだろう。
そして、今隣にいるのは由比さんではなかった。
(嫌だ……)
全身が震えた。
そんなの、絶対に考えられない。
「どうした、奈々子。寒いのか」
「えっ?」
心配そうに見てくる彼に、慌てて首を振った。
「いいえ、その……さっき外にいたから少し冷えたみたいで。でも大丈夫です。今は暖かいから」
「ならいいけど、もし寒かったら遠慮せず言えよ?」
「はい。ありがとうございます」
走り出す車の中で、私は大人しくした。体の内側からじわじわと湧いてくる感情に身をゆだねて。
(由比さんは王子様ではなく、化け猿のキングだった。最初は怖くて、絶対に無理って思ったけれど、今はなんていうか……)
そばにいるのが自然で、なぜかとても安心する。
夢に描いた王子様とは違う。だけど大丈夫、この先何があろうと、彼とならきっと乗り越えられる。
どうしてか、そんな気がするのだ。
本当に本当に、不思議な人。
私の心も……
(この感情って、まさか……)
街の光が薬指に反射する。ドキドキしながら、まぶしさに目を細めた。
「そっか。良かったぜ」
由比さんが照れたように笑う。
私も微笑み、寄り添ってくる彼を素直に受け入れた。
我ながら単純だと思う。
だけど、指輪はそれほどまでに強力に私を魅了した。
「大切な君への、約束の証だ」
大切な君――
なぜだか、とても胸に響いた。
「奈々子は俺の花嫁であり、俺の大切な妻になるんだからな」
大切。大切。
由比さんを見上げ、あらためて問い詰めたくなる。どうして私なんかを?
――もしくだらん理由で君を傷つけるやつがいたら、誰であろうと俺は絶対に許さないし、完膚なきまでにボコボコにしてやる!
(綾華のことを話した時、由比さんは本気で殴りに行きそうだった。もちろん暴力はダメだけど……守ってくれようとする、その気持ちは喜んでいいのかもしれない)
中学時代のトラウマが原因で、人と関わるのを恐れ、生きてきた。人になにかを頼まれた時、拒否できない。少女のままの、孤独で臆病な心。
そんな私がNOと言えたのは、由比さんが初めてだった。でも彼は私を嫌ったりせず、それどころかまっすぐに向き合ってくれたのだ。
「よし、そろそろ行こうか。雪に埋もれないうちに」
フロントガラスの向こうをヘッドライトが照らす。初めて出会った日も、こんな風に雪が降りしきっていた。
(もしもあの日、由比さんと出会わなかったら……)
ふと、想像してみる。
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そして、今隣にいるのは由比さんではなかった。
(嫌だ……)
全身が震えた。
そんなの、絶対に考えられない。
「どうした、奈々子。寒いのか」
「えっ?」
心配そうに見てくる彼に、慌てて首を振った。
「いいえ、その……さっき外にいたから少し冷えたみたいで。でも大丈夫です。今は暖かいから」
「ならいいけど、もし寒かったら遠慮せず言えよ?」
「はい。ありがとうございます」
走り出す車の中で、私は大人しくした。体の内側からじわじわと湧いてくる感情に身をゆだねて。
(由比さんは王子様ではなく、化け猿のキングだった。最初は怖くて、絶対に無理って思ったけれど、今はなんていうか……)
そばにいるのが自然で、なぜかとても安心する。
夢に描いた王子様とは違う。だけど大丈夫、この先何があろうと、彼とならきっと乗り越えられる。
どうしてか、そんな気がするのだ。
本当に本当に、不思議な人。
私の心も……
(この感情って、まさか……)
街の光が薬指に反射する。ドキドキしながら、まぶしさに目を細めた。
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