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スイートホーム
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「やめて、近寄らないで。大声を出します!」
「落ち着けって。俺が何をしたって言うんだ」
床に膝を付けて、怯える私を覗く。
「何かしようとしました!」
「違う! 俺はただ、寝心地最上級のベッドを見せたかっただけだよ」
「嘘です。だったらなんで、あんなに鼻息が荒いんですか」
「奈々子が喜ぶかなあって、興奮しちゃったんだ。しょうがないだろ」
ひとしきり言い合い、私たちは口をつぐむ。
なにか、すれ違っているような気がして。
「もしかして、襲われると思ったのか」
「……はい」
織人さんは絶句した。立ち上がり、しばらくそのままでいたが、ソファにどすっと座る。
「奈々子、少し話そう。ここに座って」
ソファのクッションをぽんぽんと叩く。私はおずおずと立ち上がり、彼を見下ろす。
「何もしないから。ホラ、早く」
「は、はい」
少し距離を取って腰を下ろす。織人さんは不満そうにするが、私としては安全を確保したい。彼はキングでもあるのだ。
「あのな、奈々子。まず断っておくが、俺はケダモノじゃない」
「えっ!?」
つい正直に反応してしまった。
「なんだ、『えっ』て」
「……すみません」
織人さんは心外そうにするが、責めはしない。やはり自覚があるのだろう。
だってこの人は化け猿だから。
「いや、そうじゃなくて。つまり分かりやすく言うとだな、奈々子を大切に思ってるってことだ。君の許しを得ずにそんな真似はしないし、決して泣かせたりしない」
「……」
そんな真似、というのは……確かめなくても分かっている。ついさっき、私が想像した行為だ。
「だってさ、こうして奈々子と結婚して、一緒に住めるだけで幸せなんだから」
「……」
私を見つめる目がきらめいている。頬を紅潮させて、少年みたいに。
「まあ、ここまでの流れが多少強引だったのは認める。だから警戒してるんだろ?」
「そう、です」
やはり、いろいろと自覚があるのだ。彼の強引さは多少なんてものではないけれど。
「それにしても、まいったな。今日一日で、かなり親密になれたと思ったんだけどなあ」
残念そうに言われても、困ってしまう。私だって、織人さんには馴染んだと思うけれど、無理なものは無理なのだ。
「そもそも、初めて会った時のインパクトが凄すぎて。つまりその、ものすごく申し訳ないのですが……生理的にむ、無理なんです。織人さん、というより……」
もごもごする私の言葉を、彼が引き取った。
「キングか」
私がうなずくのを見て、複雑そうに笑った。そして、何か考える風にあごを撫でる。
「それならこうしよう。奈々子が丸ごと受け入れてくれるまで、俺は手を出さない」
「丸ごと……」
織人さんとキング、どちらともという意味だ。
「奈々子のことだから、かなりの時間がかかるだろう。だから、そっち方面は置いといて、まずは二人の生活を楽しもうぜ」
「え?」
かなり譲歩した提案だった。
時間的猶予を得て、私は思わずホッと息をついた。
「いいんですか?」
「ああ。せっかくの新婚生活、楽しまなきゃもったいない。後々については、また考えればいいさ。奈々子のペースに合わせるから、要望があれば何でも言ってくれ」
織人さんの明るさに励まされた。
なんだかんだ言っても、この人の陽気で前向きなところに惹かれるのだと、あらためて認める。
「大丈夫、必ず上手くいく。奈々子と俺は、結ばれる運命なんだから」
彼の手が私の頬に触れる。
優しく見つめて、ゆっくりと近づいてきて……
「これぐらいなら、平気か?」
「はい、たぶん」
目を閉じると、彼がそっとキスをした。遠慮がちで、壊れ物を扱うような愛情表現に、かえってドキドキさせられる。
「結婚してくれてありがとう、奈々子」
窓の外は雪。
初めてデートしたのも雪のなかだった。
初めてキスしたのも……
(いつかきっと、丸ごと愛することができるだろうか。織人さんとキングの、両方を……)
柔らかく抱きしめられて、さっきまでの怯えが嘘のように消える。
(あたたかい)
とにかく今は、素直に甘えようと思った。
「落ち着けって。俺が何をしたって言うんだ」
床に膝を付けて、怯える私を覗く。
「何かしようとしました!」
「違う! 俺はただ、寝心地最上級のベッドを見せたかっただけだよ」
「嘘です。だったらなんで、あんなに鼻息が荒いんですか」
「奈々子が喜ぶかなあって、興奮しちゃったんだ。しょうがないだろ」
ひとしきり言い合い、私たちは口をつぐむ。
なにか、すれ違っているような気がして。
「もしかして、襲われると思ったのか」
「……はい」
織人さんは絶句した。立ち上がり、しばらくそのままでいたが、ソファにどすっと座る。
「奈々子、少し話そう。ここに座って」
ソファのクッションをぽんぽんと叩く。私はおずおずと立ち上がり、彼を見下ろす。
「何もしないから。ホラ、早く」
「は、はい」
少し距離を取って腰を下ろす。織人さんは不満そうにするが、私としては安全を確保したい。彼はキングでもあるのだ。
「あのな、奈々子。まず断っておくが、俺はケダモノじゃない」
「えっ!?」
つい正直に反応してしまった。
「なんだ、『えっ』て」
「……すみません」
織人さんは心外そうにするが、責めはしない。やはり自覚があるのだろう。
だってこの人は化け猿だから。
「いや、そうじゃなくて。つまり分かりやすく言うとだな、奈々子を大切に思ってるってことだ。君の許しを得ずにそんな真似はしないし、決して泣かせたりしない」
「……」
そんな真似、というのは……確かめなくても分かっている。ついさっき、私が想像した行為だ。
「だってさ、こうして奈々子と結婚して、一緒に住めるだけで幸せなんだから」
「……」
私を見つめる目がきらめいている。頬を紅潮させて、少年みたいに。
「まあ、ここまでの流れが多少強引だったのは認める。だから警戒してるんだろ?」
「そう、です」
やはり、いろいろと自覚があるのだ。彼の強引さは多少なんてものではないけれど。
「それにしても、まいったな。今日一日で、かなり親密になれたと思ったんだけどなあ」
残念そうに言われても、困ってしまう。私だって、織人さんには馴染んだと思うけれど、無理なものは無理なのだ。
「そもそも、初めて会った時のインパクトが凄すぎて。つまりその、ものすごく申し訳ないのですが……生理的にむ、無理なんです。織人さん、というより……」
もごもごする私の言葉を、彼が引き取った。
「キングか」
私がうなずくのを見て、複雑そうに笑った。そして、何か考える風にあごを撫でる。
「それならこうしよう。奈々子が丸ごと受け入れてくれるまで、俺は手を出さない」
「丸ごと……」
織人さんとキング、どちらともという意味だ。
「奈々子のことだから、かなりの時間がかかるだろう。だから、そっち方面は置いといて、まずは二人の生活を楽しもうぜ」
「え?」
かなり譲歩した提案だった。
時間的猶予を得て、私は思わずホッと息をついた。
「いいんですか?」
「ああ。せっかくの新婚生活、楽しまなきゃもったいない。後々については、また考えればいいさ。奈々子のペースに合わせるから、要望があれば何でも言ってくれ」
織人さんの明るさに励まされた。
なんだかんだ言っても、この人の陽気で前向きなところに惹かれるのだと、あらためて認める。
「大丈夫、必ず上手くいく。奈々子と俺は、結ばれる運命なんだから」
彼の手が私の頬に触れる。
優しく見つめて、ゆっくりと近づいてきて……
「これぐらいなら、平気か?」
「はい、たぶん」
目を閉じると、彼がそっとキスをした。遠慮がちで、壊れ物を扱うような愛情表現に、かえってドキドキさせられる。
「結婚してくれてありがとう、奈々子」
窓の外は雪。
初めてデートしたのも雪のなかだった。
初めてキスしたのも……
(いつかきっと、丸ごと愛することができるだろうか。織人さんとキングの、両方を……)
柔らかく抱きしめられて、さっきまでの怯えが嘘のように消える。
(あたたかい)
とにかく今は、素直に甘えようと思った。
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