一億円の花嫁

藤谷 郁

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スイートホーム

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 織人さんが用意してくれた私の部屋は、実家の個室の三倍の広さだった。

 白で統一されたインテリアは私好みのロマンティック。大型テレビにゆったりとしたソファーベッド、ドレッサーやライティングディスクなど、あらゆる家具が揃っている。
 なにより驚いたのは、壁一面に設えられた
立派な書棚だった。「本好きの奈々子のために」と、織人さんが特注してくれたらしい。

 そこまでしてくれる彼に、私は感動を覚えた。細部にわたっての心尽くしを素直にありがたく思い、感謝の気持ちでいっぱいになる。

 だけど……

 に関しては別の話であり、どうしても妥協できなかったのだ。




「約束どおり絶対に手を出さないから、寝室で一緒に寝よう。俺はベッドの端っこで小さくなってるから、なっ、いいだろ!?」

 先に風呂を済ませたあと、おやすみの挨拶をする私に、織人さんが懇願した。命乞いをするかのような、必死の形相で。

「頼む、奈々子。このとおり!!」
「…………いやです」

 というやり取りをしたあと、しゅんとする彼を残して私は自室に引きこもったのだ。ドアを閉めて、しっかりと鍵をかけて。

「ふうっ、これでよし」
 
 今日は一日歩き回って疲れた。その上、いろんな感情に振り回されて、身も心もへとへとである。

 ソファーベッドを倒して、枕と掛け布団をセットした。横たわってみると、実家のベッドよりはるかに寝心地が良い。
 
(明日からきっと忙しくなる。やるべきことが、てんこもりで……)

 なにしろ私は、織人さんのご両親に挨拶すらしていないのだ。こんな結婚があるだろうかと、今さら困惑する。

 だけど、今はとにかく眠ろう。
 体力を回復しないと、織人さんのペースに付いていけなくなる。

「ああ、もう、エネルギーが……」

 織人さんは、もう寝たかしら。キングサイズのベッドで、独りきりで。
 少しだけ申し訳ない気持ちになるが、私はいつしかウトウトして、夢の世界へと旅立っていた。


 ◇ ◇ ◇


「あれ……?」

 目が覚めた時、私は一瞬、自分がどこにいるのか分からなかった。
 しばし考えてから、がばりと起き上がる。

「そうか、私……結婚したんだ」

 私が眠ったのは、織人さんが用意した巨大なベッドではなく、自室に置かれたソファーベッド。
 結婚して第一日目の夜。
 私たち夫婦は、清らかに過ごしたのである。別々の部屋で。



「織人さんはまだ寝てるよね」

 リモコンでライトを点けて壁時計を見ると、4時半を過ぎたところだ。
 部屋は暖房が効いているのであたたかい。

「えっと、まずは顔を洗って、メイクして、洋服に着替えなくちゃ」

 昨日は突然のことで、着替えも持たずに来てしまった。

 しかし織人さんは抜かりなく、すべての準備を整えていた。
 クローゼットには冬物の洋服が並び、チェストには新品の下着とパジャマが用意してあった。どれもこれも私が選びそうなデザインなので驚いたが、織人さんが伝えたイメージを元に、コーディネートしてくれた女性スタッフがいるらしい。

 メイクについては、バスルームの洗面台にホテルのアメニティのようにスキンケア用品が揃っているし、自分の化粧ポーチがあるので問題なし。
 その上、ドレッサーには一流ブランドのクリスマスコフレが置かれていたりする。

 とにかく、至れり尽くせり。

 お金持ちの妻になるというのは、こういうことなのか……と、お姫様にでもなったような、贅沢な気分だった。

「こんな感じでいいかな」

 ウールのチェックワンピースにカーディガンを羽織り、レギンスを履く。これなら外出しても寒くないだろうし、動きやすくもある。
 
「そういえば、雪はどうなったかな」

 カーテンを開けて外を見渡し、思わず声を上げた。今は止んでいるが、昨夜はかなり降ったのだろう。
 夜明け前の暗闇の底には、街明かりに浮かぶ雪景色があった。

「すごい……」

 雪が積もるなんて、最近では滅多にない現象だ。
 今日も一日、寒くなるだろう。
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