91 / 198
スイートホーム
8
しおりを挟む
「そうだ。せっかく早く起きたんだから、朝ごはんを作ろう」
昨夜、織人さんにキッチンを案内された時、冷蔵庫に食材がたっぷり入っているのを見た。スタッフが用意してくれたそうで、数日は買い物しなくても良いとのこと。調味料も揃っていて、すべて自由に使える。
とにかくすぐに生活できるよう準備されていて、その用意周到ぶりには驚いてしまう。
自室を出て、キッチンに移動した。
廊下はシンとして、リビングを覗くと明かりが消えている。やはり織人さんは、まだ寝ているようだ。
「さてと、何を作ろうか」
冷蔵庫を開けようとして、手を止める。
織人さんの食生活がどんなものか、私はまるで知らない。朝からたくさん食べるのか、意外と控えめなのか、和食派か洋食派か、それすらも。
「仕方ないよね。いきなり夫婦になったんだもの」
だけど、ぼんやり想像することができた。何度か食事をともにして、私と彼は食の好みが似ていると感じていたから。
「私が食べたいものを作れば多分、大丈夫。よし、朝は洋食にしよう」
ストック棚に食パンがあるのを確認してから、冷蔵庫を開けてハムとレタスとトマト、玉ねぎを取り出す。
サンドイッチの具材を仕込み、あとはゆで卵、スープ、フルーツなどなど用意した。
最後にコーヒーメーカーをセットしたところで時計を見ると、6時になろうとしていた。
「織人さん、まだ起きてこない」
彼は早起きだと、なんとなく思い込んでいたのだけれど、そうでもないのかしら。まさか、寝坊してるとか。起こした方がいい?
スケジュールを聞いておくべきだったと後悔しかけた時……
「えっ?」
玄関ドアの開く音がして、続けて足音が近づいてきた。
「織人さん? もしかして出かけてたの?」
てっきり寝室で寝ているとばかり思っていた。こんな朝早くに、いったいどこに出かけていたのだろう。
慌てて廊下に出ようとすると、彼が先にドアを開けた。
「奈々子、もう起きてたのか。早起きだなあ」
「ひえっ!?」
キッチンに入ってきた彼を見て、声を上げた。
上半身裸で、しかも汗びっしょり。まるで、熱い温泉にでも入ったみたいに湯気が立っている。
「ど、どうしたのですか、その姿は……」
「ああ、悪い悪い。いつもの癖で、家に入るとすぐに脱いじゃうんだ」
何がおかしいのか、楽しそうに笑う。
いきなり獰猛な獣と遭遇した私は、卒倒しそうだと言うのに。
「おおっ、朝飯を作ってくれたのか!!」
調理台の上を見て、織人さんが吠えた。大げさに感激し、目を輝かせている。
「さすが奈々子! 俺のためにありがとう!!」
腕を広げて抱きしめようとするのを、サッと避けた。運動音痴の私とは思えないほどの反射である。
空振りした彼が、心外そうに見てきた。
「なんで逃げるんだよ」
「だ、だって汗でベタベタだし、ていうか、どうしてそんな格好なんです。とにかく服を着てください!!」
「分かった分かった、シャワーを浴びてくるから少し待っててくれ。そのあとゆっくり朝飯にしようぜ」
織人さんはにかっと笑い、素早く出ていった。
昨夜、織人さんにキッチンを案内された時、冷蔵庫に食材がたっぷり入っているのを見た。スタッフが用意してくれたそうで、数日は買い物しなくても良いとのこと。調味料も揃っていて、すべて自由に使える。
とにかくすぐに生活できるよう準備されていて、その用意周到ぶりには驚いてしまう。
自室を出て、キッチンに移動した。
廊下はシンとして、リビングを覗くと明かりが消えている。やはり織人さんは、まだ寝ているようだ。
「さてと、何を作ろうか」
冷蔵庫を開けようとして、手を止める。
織人さんの食生活がどんなものか、私はまるで知らない。朝からたくさん食べるのか、意外と控えめなのか、和食派か洋食派か、それすらも。
「仕方ないよね。いきなり夫婦になったんだもの」
だけど、ぼんやり想像することができた。何度か食事をともにして、私と彼は食の好みが似ていると感じていたから。
「私が食べたいものを作れば多分、大丈夫。よし、朝は洋食にしよう」
ストック棚に食パンがあるのを確認してから、冷蔵庫を開けてハムとレタスとトマト、玉ねぎを取り出す。
サンドイッチの具材を仕込み、あとはゆで卵、スープ、フルーツなどなど用意した。
最後にコーヒーメーカーをセットしたところで時計を見ると、6時になろうとしていた。
「織人さん、まだ起きてこない」
彼は早起きだと、なんとなく思い込んでいたのだけれど、そうでもないのかしら。まさか、寝坊してるとか。起こした方がいい?
スケジュールを聞いておくべきだったと後悔しかけた時……
「えっ?」
玄関ドアの開く音がして、続けて足音が近づいてきた。
「織人さん? もしかして出かけてたの?」
てっきり寝室で寝ているとばかり思っていた。こんな朝早くに、いったいどこに出かけていたのだろう。
慌てて廊下に出ようとすると、彼が先にドアを開けた。
「奈々子、もう起きてたのか。早起きだなあ」
「ひえっ!?」
キッチンに入ってきた彼を見て、声を上げた。
上半身裸で、しかも汗びっしょり。まるで、熱い温泉にでも入ったみたいに湯気が立っている。
「ど、どうしたのですか、その姿は……」
「ああ、悪い悪い。いつもの癖で、家に入るとすぐに脱いじゃうんだ」
何がおかしいのか、楽しそうに笑う。
いきなり獰猛な獣と遭遇した私は、卒倒しそうだと言うのに。
「おおっ、朝飯を作ってくれたのか!!」
調理台の上を見て、織人さんが吠えた。大げさに感激し、目を輝かせている。
「さすが奈々子! 俺のためにありがとう!!」
腕を広げて抱きしめようとするのを、サッと避けた。運動音痴の私とは思えないほどの反射である。
空振りした彼が、心外そうに見てきた。
「なんで逃げるんだよ」
「だ、だって汗でベタベタだし、ていうか、どうしてそんな格好なんです。とにかく服を着てください!!」
「分かった分かった、シャワーを浴びてくるから少し待っててくれ。そのあとゆっくり朝飯にしようぜ」
織人さんはにかっと笑い、素早く出ていった。
13
あなたにおすすめの小説
わたしの愉快な旦那さん
川上桃園
恋愛
あまりの辛さにブラックすぎるバイトをやめた。最後塩まかれたけど気にしない。
あ、そういえばこの店入ったことなかったな、入ってみよう。
「何かお探しですか」
その店はなんでも取り扱うという。噂によると彼氏も紹介してくれるらしい。でもそんなのいらない。彼氏だったらすぐに離れてしまうかもしれないのだから。
店員のお兄さんを前にてんぱった私は。
「旦那さんが欲しいです……」
と、斜め上の回答をしてしまった。でもお兄さんは優しい。
「どんな旦那さんをお望みですか」
「え、えっと……愉快な、旦那さん?」
そしてお兄さんは自分を指差した。
「僕が、お客様のお探しの『愉快な旦那さん』ですよ」
そこから始まる恋のお話です。大学生女子と社会人男子(御曹司)。ほのぼのとした日常恋愛もの
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
誘惑の延長線上、君を囲う。
桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には
"恋"も"愛"も存在しない。
高校の同級生が上司となって
私の前に現れただけの話。
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
Иatural+ 企画開発部部長
日下部 郁弥(30)
×
転職したてのエリアマネージャー
佐藤 琴葉(30)
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の
貴方を見つけて…
高校時代の面影がない私は…
弱っていそうな貴方を誘惑した。
:
:
♡o。+..:*
:
「本当は大好きだった……」
───そんな気持ちを隠したままに
欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。
【誘惑の延長線上、君を囲う。】
You Could Be Mine ぱーとに【改訂版】
てらだりょう
恋愛
高身長・イケメン・優しくてあたしを溺愛する彼氏はなんだかんだ優しいだんなさまへ進化。
変態度も進化して一筋縄ではいかない新婚生活は甘く・・・はない!
恋人から夫婦になった尊とあたし、そして未来の家族。あたしたちを待つ未来の家族とはいったい??
You Could Be Mine【改訂版】の第2部です。
↑後半戦になりますので前半戦からご覧いただけるとよりニヤニヤ出来るので是非どうぞ!
※ぱーといちに引き続き昔の作品のため、現在の状況にそぐわない表現などございますが、設定等そのまま使用しているためご理解の上お読みいただけますと幸いです。
【完】ソレは、脱がさないで
Bu-cha
恋愛
エブリスタにて恋愛トレンドランキング2位
パッとしない私を少しだけ特別にしてくれるランジェリー。
ランジェリー会社で今日も私の胸を狙ってくる男がいる。
関連物語
『経理部の女王様が落ちた先には』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高4位
ベリーズカフェさんにて総合ランキング最高4位
2022年上半期ベリーズカフェ総合ランキング53位
2022年下半期ベリーズカフェ総合ランキング44位
『FUJIメゾン・ビビ~インターフォンを鳴らして~』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高11位
『わたしを見て 触って キスをして 恋をして』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高25位
『大きなアナタと小さなわたしのちっぽけなプライド』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高13位
『ムラムラムラモヤモヤモヤ今日も秘書は止まらない』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高32位
『“こだま”の森~FUJIメゾン・ビビ』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 17位
私の物語は全てがシリーズになっておりますが、どれを先に読んでも楽しめるかと思います。
伏線のようなものを回収していく物語ばかりなので、途中まではよく分からない内容となっております。
物語が進むにつれてその意味が分かっていくかと思います。
羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。
泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。
でも今、確かに思ってる。
―――この愛は、重い。
------------------------------------------
羽柴健人(30)
羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問
座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』
好き:柊みゆ
嫌い:褒められること
×
柊 みゆ(28)
弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部
座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』
好き:走ること
苦手:羽柴健人
------------------------------------------
思い出のチョコレートエッグ
ライヒェル
恋愛
失恋傷心旅行に出た花音は、思い出の地、オランダでの出会いをきっかけに、ワーキングホリデー制度を利用し、ドイツの首都、ベルリンに1年限定で住むことを決意する。
慣れない海外生活に戸惑い、異国ならではの苦労もするが、やがて、日々の生活がリズムに乗り始めたころ、とてつもなく魅力的な男性と出会う。
秘密の多い彼との恋愛、彼を取り巻く複雑な人間関係、初めて経験するセレブの世界。
主人公、花音の人生パズルが、紆余曲折を経て、ついに最後のピースがぴったりはまり完成するまでを追う、胸キュン&溺愛系ラブストーリーです。
* ドイツ在住の作者がお届けする、ヨーロッパを舞台にした、喜怒哀楽満載のラブストーリー。
* 外国での生活や、外国人との恋愛の様子をリアルに感じて、主人公の日々を間近に見ているような気分になれる内容となっています。
* 実在する場所と人物を一部モデルにした、リアリティ感の溢れる長編小説です。
〜仕事も恋愛もハードモード!?〜 ON/OFF♡オフィスワーカー
i.q
恋愛
切り替えギャップ鬼上司に翻弄されちゃうオフィスラブ☆
最悪な失恋をした主人公とONとOFFの切り替えが激しい鬼上司のオフィスラブストーリー♡
バリバリのキャリアウーマン街道一直線の爽やか属性女子【川瀬 陸】。そんな陸は突然彼氏から呼び出される。出向いた先には……彼氏と見知らぬ女が!? 酷い失恋をした陸。しかし、同じ職場の鬼課長の【榊】は失恋なんてお構いなし。傷が乾かぬうちに仕事はスーパーハードモード。その上、この鬼課長は————。
数年前に執筆して他サイトに投稿してあったお話(別タイトル。本文軽い修正あり)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる