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幼なじみ襲来!
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翼さんと会った翌日。
彼が織人さんに、「西野綾華との縁談を正式に断った」と連絡をくれた。翼さんの父親……羽根田不動産の社長である九郎さんにも事情を説明し、納得してもらった上で、スピーディーに決着をつけたとのこと。
織人さんが仕事から帰るなり、嬉しそうに報告してくれた。
「今日の昼頃に電話があったんだ。そうそう、奈々子にはえらく感謝してたぞ。本当は直接お礼を言いたいが、俺が嫉妬するからやめておくってさ」
「そ、そうなんですね」
「まったく、気を遣いやがって。この俺が嫉妬なんか……」
カウンターで料理を盛り付ける私の前に回り込み、じっと見つめてきた。
「するに決まってるだろ。どうも君たちは気が合うみたいだし?」
「ええっ? な、なにを言って」
「ま、奈々子の運命の男は俺だし、万が一でも君が浮気するなんて考えられないけどな! わはは」
笑顔だが目が笑っていない。
私は曖昧にうなずき、特にコメントせずにおいた。言葉を一つでも間違えたら、延々と絡まれそうだから。
「えっと……それより織人さん、夕飯の用意ができましたよ。冷めないうちに早く食べましょう?」
「お、そうだな。今日は忙しくてお茶を飲む暇もなくてさ、腹がぺこぺこだよ。着替えてくる!」
キッチンを出てしばらくすると、カジュアルな部屋着姿で戻ってきた。飲み物を注ぎながら、私の料理を手放しで褒め称えている。
切り替えの早さが織人さんの良いところだ。私はほっとして、彼と向き合った。
食事中も翼さんの話題が出たが、テーマは子どもの頃の思い出話だった。特に空手道場での稽古が楽しかったらしく、エピソードが尽きない。
「エネルギーが有り余ってるから、稽古が終わっても俺たちだけスクワット百回とか、組手百本とかで勝負して、いつまでも帰らなかったなあ。あいつも結構、ムキになるタイプでさ」
「そうなんですね」
今は筋骨隆々の二人だが、子供の頃はきっと可愛かったのだろう。
ケンカしたりじゃれ合ったりする姿を想像すると、微笑ましくて、なんだかほっこりする。
本当に仲の良い幼なじみなのだ。
「幼なじみといえば、奈々子の友達の花ちゃんだっけ。彼女とは今でも親友なんだろ?」
「あ、はい。家がご近所だから、時々遊びに行ったりしてます」
「話を聞いてると、すごく良い友達だよな」
織人さんの言葉に、大きくうなずいた。
「そうなんです。花ちゃんは私にとって、かけがえのない友達で、いろんなことを相談できる唯一の相手なんです。私の性格はもちろん、家族との関係も知ってるから、的確にアドバイスしてくれたり」
「へえ。ていうか、なんとなく俺に近いタイプじゃない?」
「えっ、タイプ……ですか?」
性格が似ている、ということだろうか。言われてみれば、そう感じたことがあった気がする。
「例えばさ、西野綾華に激怒して、仕返しに行こうとしたとか。直情型で、言動がストレートなところにシンパシーを感じるね」
「ああ……確かに」
二人とも武道の経験者だし、正義感が強くて熱血だ。それに、花ちゃんは時代劇の剣豪、織人さんはアクションスターに憧れているし、同じ属性といえる。
それを発信するところも、共通項である。
「ほう、時代劇が好きなのか」
「昭和のDVDをコレクションしたり、血湧き肉躍る血闘に興奮すると言っています」
私にはよく分からない世界だが、織人さんなら理解できるだろう。
「かなりウマが合いそうだ! 一度、会ってみたいなあ」
目をキラキラさせて前のめりになる。思ったとおりの反応。これはたぶん、本気だ。
「ところで、いろいろ相談できる相手ってことは、俺についても彼女に話したりしたのか?」
「えっ、あ、あの、それは……」
鋭い質問にたじろいでしまう。
だがそのとおり、織人さんについては花ちゃんに相談済みだし、あれこれとアドバイスされた。
そういえば、お見合いの結果を花ちゃんに報告していない。彼女のことだから、きっとヤキモキしてるだろう。
(バタバタしてて、すっかり忘れてた。早く報告しなくちゃ……でも、お見合い相手が予想どおり織人さんで、しかも既に結婚して一緒に住んでるなんて知ったら、びっくりして腰を抜かすかもしれない)
「なあなあ、奈々子。花ちゃんにはどこまで話したんだ、俺のこと」
「ええと、それはその」
旅先での出会いからお見合いする直前までのあれやこれやを、詳しく話してある。ただ、織人さんがこういう人であるとは、まだ花ちゃんは知らない。
彼が織人さんに、「西野綾華との縁談を正式に断った」と連絡をくれた。翼さんの父親……羽根田不動産の社長である九郎さんにも事情を説明し、納得してもらった上で、スピーディーに決着をつけたとのこと。
織人さんが仕事から帰るなり、嬉しそうに報告してくれた。
「今日の昼頃に電話があったんだ。そうそう、奈々子にはえらく感謝してたぞ。本当は直接お礼を言いたいが、俺が嫉妬するからやめておくってさ」
「そ、そうなんですね」
「まったく、気を遣いやがって。この俺が嫉妬なんか……」
カウンターで料理を盛り付ける私の前に回り込み、じっと見つめてきた。
「するに決まってるだろ。どうも君たちは気が合うみたいだし?」
「ええっ? な、なにを言って」
「ま、奈々子の運命の男は俺だし、万が一でも君が浮気するなんて考えられないけどな! わはは」
笑顔だが目が笑っていない。
私は曖昧にうなずき、特にコメントせずにおいた。言葉を一つでも間違えたら、延々と絡まれそうだから。
「えっと……それより織人さん、夕飯の用意ができましたよ。冷めないうちに早く食べましょう?」
「お、そうだな。今日は忙しくてお茶を飲む暇もなくてさ、腹がぺこぺこだよ。着替えてくる!」
キッチンを出てしばらくすると、カジュアルな部屋着姿で戻ってきた。飲み物を注ぎながら、私の料理を手放しで褒め称えている。
切り替えの早さが織人さんの良いところだ。私はほっとして、彼と向き合った。
食事中も翼さんの話題が出たが、テーマは子どもの頃の思い出話だった。特に空手道場での稽古が楽しかったらしく、エピソードが尽きない。
「エネルギーが有り余ってるから、稽古が終わっても俺たちだけスクワット百回とか、組手百本とかで勝負して、いつまでも帰らなかったなあ。あいつも結構、ムキになるタイプでさ」
「そうなんですね」
今は筋骨隆々の二人だが、子供の頃はきっと可愛かったのだろう。
ケンカしたりじゃれ合ったりする姿を想像すると、微笑ましくて、なんだかほっこりする。
本当に仲の良い幼なじみなのだ。
「幼なじみといえば、奈々子の友達の花ちゃんだっけ。彼女とは今でも親友なんだろ?」
「あ、はい。家がご近所だから、時々遊びに行ったりしてます」
「話を聞いてると、すごく良い友達だよな」
織人さんの言葉に、大きくうなずいた。
「そうなんです。花ちゃんは私にとって、かけがえのない友達で、いろんなことを相談できる唯一の相手なんです。私の性格はもちろん、家族との関係も知ってるから、的確にアドバイスしてくれたり」
「へえ。ていうか、なんとなく俺に近いタイプじゃない?」
「えっ、タイプ……ですか?」
性格が似ている、ということだろうか。言われてみれば、そう感じたことがあった気がする。
「例えばさ、西野綾華に激怒して、仕返しに行こうとしたとか。直情型で、言動がストレートなところにシンパシーを感じるね」
「ああ……確かに」
二人とも武道の経験者だし、正義感が強くて熱血だ。それに、花ちゃんは時代劇の剣豪、織人さんはアクションスターに憧れているし、同じ属性といえる。
それを発信するところも、共通項である。
「ほう、時代劇が好きなのか」
「昭和のDVDをコレクションしたり、血湧き肉躍る血闘に興奮すると言っています」
私にはよく分からない世界だが、織人さんなら理解できるだろう。
「かなりウマが合いそうだ! 一度、会ってみたいなあ」
目をキラキラさせて前のめりになる。思ったとおりの反応。これはたぶん、本気だ。
「ところで、いろいろ相談できる相手ってことは、俺についても彼女に話したりしたのか?」
「えっ、あ、あの、それは……」
鋭い質問にたじろいでしまう。
だがそのとおり、織人さんについては花ちゃんに相談済みだし、あれこれとアドバイスされた。
そういえば、お見合いの結果を花ちゃんに報告していない。彼女のことだから、きっとヤキモキしてるだろう。
(バタバタしてて、すっかり忘れてた。早く報告しなくちゃ……でも、お見合い相手が予想どおり織人さんで、しかも既に結婚して一緒に住んでるなんて知ったら、びっくりして腰を抜かすかもしれない)
「なあなあ、奈々子。花ちゃんにはどこまで話したんだ、俺のこと」
「ええと、それはその」
旅先での出会いからお見合いする直前までのあれやこれやを、詳しく話してある。ただ、織人さんがこういう人であるとは、まだ花ちゃんは知らない。
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