一億円の花嫁

藤谷 郁

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気の合う二人

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「えっ、ホントに?」

 嬉しそうな顔。でもすぐにキリッとして、あらたまった様子になった。

「そうか、慣れたか。ふむ、それならどうかな。奈々子、今夜はためしに……その、一緒に寝てみるとか」
「!?」

 すかさず口説きにかかる。この人は、私の心をすべて読み取っているのかしら。
 だけど、そこまで単純にはなれない。
 私が好きなのは、やっぱりだから。

「……いやです」
「ええ~?」 

 がっかりした顔が可笑しくて、可愛いとすら思える。
 本当に、素直というか、子供みたいで。

「ま、しょうがないさ。こればっかりはな……しかし」

 織人さんに促されてシートに座り直す。まだ何かあるのだろうか。

「結婚といえば、キングではなく、由比織人としての結婚発表だけど。奈々子にちゃんと話しておかなくちゃな」
「あ、はい」

 今度は真面目な話だ。織人さんの顔つきが、仕事モードに変わっている。

「親父……会長が言うには、俺たちの結婚を近いうちに公式発表するそうだ。芸能人じゃあるまいしと思うだろうが、俺の存在は会社の広告塔みたいな部分があって、イメージに影響するらしいんだよな。だから、今度オープンする新ブランドホテルの初日に合わせたらいいんじゃないかと、提案された」
「えっ、わ、私と織人さんの結婚発表をですか?」
「そう。あと、その前日には増配開示の予定があってタイミングもいい。めでたいづくしにしたいそうだ」

 三保グループにとって、特別な日というわけである。

「増配って、配当金が増えるということですよね。株価が上がったりするのですか?」
「上がると思うよ。本当かどうか知らないが、大株主のマダムが『織人ロス』で株を手放しても、その日は買い方が圧倒的だからダメージも少なくて済むとか」
「そ、そうなんですね」

 確かに、織人さんを贔屓する株主がいてもおかしくない。王子様としての『由比織人』になら。

「予定としては、12月20日。発表といってもホームページに公式メッセージを載せるだけだし、奈々子の本名掲載も顔写真もナシ。俺らは特にやることがないから安心してくれ」
「分かりました」

 私は内心、ほっとする。公式発表というから、もっと派手なやり方を想像していた。たとえば、キングの報告のように。

「地味で良かった……」
「ん、なんか言ったか?」
「いえっ、別に」

 それにしても、公式発表に関しては、織人さんのテンションが低い。やはりこの人の場合、ド派手なキングが本体なのだ。

「あーあ。俺としては、動画でもっと派手にやりたいよ。奈々子も出演してさ、大々的に結婚発表&新婚生活リアル配信、とかさ」
「はい!?」

 ギョッとする発言に、声がひっくり返る。見ると、さっきとは打って変わって、織人さんの瞳が輝いていた。

「とんでもない。それだけはやめてください! わ、私はウーチューバーじゃないんですから」
「分かってるよ。ちょっと願望が漏れただけじゃん。奈々子のケチんぼ」
「え、なんですか?」
「なーんでもないよ。さてと、おしゃべりしてたらキリがない。そろそろ寝るか」

 いつの間にか11時を過ぎていた。
 織人さんがブツブツ言ったのは気になるが、早く寝なければ明日に差し障る。

「奈々子、先に風呂入っていいぞ。俺は動画のコメントをチェックしてからにする」
「分かりました。でも、あまり遅くならないようにして、明日はきちんとお仕事してくださいね」
「了解!」

 シアタールームを出てから自室に寄り、お風呂に入る準備をした。ふと、ソファベッドが目に留まる。

「キングの嫁、か……」

 新婚初夜はお預け状態。
 いつかその日が来るのだろうか。
 さっき見た動画が頭に浮かび、ため息をつく。

「まだまだ前途多難かなあ」

 キングにだいぶ慣れたし、抱きしめられても平気になった。
 もう、怖くなんかない……はず。
 だけどやっぱり、躊躇ってしまう自分がいた。


ーー「大丈夫、必ず上手くいく。奈々子と俺は、結ばれる運命なんだから」ーー


 織人さんの明るい笑顔を思い出す。自信にあふれた力強い言葉は、私を前向きにさせる。
 いつもながら、驚くほどの効果である。

「ほんとに、不思議な人」

 いろいろ心配になるけれど、きっと大丈夫。織人さんの励ましを胸に、私は進んで行ける。
 振り向かずに、未来へと。
 




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