一億円の花嫁

藤谷 郁

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運命の人

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 なんだか、自分の身勝手を思い知らされたようで、顔が熱くなる。
 私だって初めは、ロマンス小説のヒーローみたいな彼に惹かれたのだ。

「大切なのは、好きになったきっかけよりも、それからの二人の関係じゃないですか? 織人はいまや、奈々子さんが想像するよりもずっと、あなたに夢中だと思いますよ」

 翼さんが穏やかな声で、諭すように言った。
 顔を上げて翼さんを見返す。この人は、織人さんの親友である。

「あいつとは長い付き合いだが、結婚したい女性がいるなんて聞いたことがない。その気にさせたのは奈々子さんが初めてで、しかも入籍から同居から、何もかもが恐ろしく速かった。本気なのは間違いないです。もっと言えば、織人にとって奈々子さんは初恋の人を超えた存在なんですよ。あなた自身に惚れたんです」
「わしも同感じゃ。織人殿の気持ちは本物だと思うておる。なぜなら」

 花ちゃんが話を継ぎ、真面目な表情で私を見つめた。

「過去にとらわれていた奈々子を変えたのは織人殿。そなたが前に進めたのは、あやつのおかげじゃ。それこそ、愛情のなせるわざだと思わぬか?」
「愛……」

 ーー俺だったら、誰に脅されようが絶対に奈々子を裏切らない。必ず守り抜いてみせるよ。それが愛ってもんだろ。

 なぜかふいに、思い出した。
 綾華との過去や、夏樹と莉央について話した時、織人さんが言った言葉。
 あの時はピンと来なかったけれど、もしかしたら、あれこそが織人さんの想いなのかもしれない。

「で、でもいつからそんなに私を? 最初はメイがきっかけで私に関心を持ったとして、どのタイミングで私と結婚しようなんて……だって、山での告白も、まるで映画の再現のようで、メイを相手にしてるみたいで」

 あのキスも本当だったのかと、不安になってしまう。

「そいつは本人に聞くべきですね。でも結局のところ、奈々子さんは織人の理想だったわけです。俺の親父が言ってたでしょう? 奈々子さんは守ってあげたくなるような可愛らしい女性。織人は昔から、ヒーロー体質な男ですからね」
「となると、メイが初恋の人なら、奈々子は運命の人というわけかのう」

 運命の人ーー

 私は、織人さんとの出会いからこれまでを振り返った。いつから好きになってくれたのか、それは分からない。
 だけど、私は何度も彼に守られ、励まされてきた。それを忘れて、「初恋の人」にやきもちを焼いて、愛情を疑うなんて……
 身代わりだなんて……
 嫉妬にとらわれてしまった。
 なぜなら織人さんを、好きすぎているから。自覚するよりもずっと、キングもひっくるめて、大好きすぎて。

「翼さん、ありがとうございます。花ちゃんも。私、目が覚めました」

 笑顔で向き合うと、二人も微笑む。
 私は明るい気持ちになり、すぐにでも織人さんに会いたくなった。昨夜からの態度を謝って、想いを伝えたい。

「まったく奈々子は世話が焼けるのう。まあ、くよくよした性格は豪快な織人殿が補ってくれるだろうて」

 やれやれとぼやく花ちゃんに、翼さんがいやいやと首を振る。

「織人はあれで、意外と繊細なんです。今頃はクールに仕事しながら、内心は奈々子さんに嫌われたと思って悶々としてますよ、きっと」
「ほう、そうなのか。気の毒だが、ちょっと面白い絵面えづらだのう」

 わはははと笑い合う二人を前に、ソワソワしてきた。
 織人さんに早く会いたい。
 職場に押しかけたら迷惑だから、それは我慢して、せめてメッセージを送ろう。
 そして、美味しいご飯を作って、帰りを待つのだ。彼を待つことができるのが、とても幸せなのだと気づいたから。

「花ちゃん。翼さんも、今日はありがとうございました。私、そろそろ……」

 翼さんと花ちゃんは笑いを収め、私の気持ちを察してか、同時にうなずく。

「俺も仕事に戻ります。奈々子さん、寄るところがあれば車で送りますよ」
「それは良い。そうしてもらえ、奈々子」
「う、うん。ありがとう、翼さん」

 彼らの行動はきびきびとして素早い。私も釣られるように身支度をして、部屋を出た。




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