148 / 198
運命の人
6
しおりを挟む
なんだか、自分の身勝手を思い知らされたようで、顔が熱くなる。
私だって初めは、ロマンス小説のヒーローみたいな彼に惹かれたのだ。
「大切なのは、好きになったきっかけよりも、それからの二人の関係じゃないですか? 織人はいまや、奈々子さんが想像するよりもずっと、あなたに夢中だと思いますよ」
翼さんが穏やかな声で、諭すように言った。
顔を上げて翼さんを見返す。この人は、織人さんの親友である。
「あいつとは長い付き合いだが、結婚したい女性がいるなんて聞いたことがない。その気にさせたのは奈々子さんが初めてで、しかも入籍から同居から、何もかもが恐ろしく速かった。本気なのは間違いないです。もっと言えば、織人にとって奈々子さんは初恋の人を超えた存在なんですよ。あなた自身に惚れたんです」
「わしも同感じゃ。織人殿の気持ちは本物だと思うておる。なぜなら」
花ちゃんが話を継ぎ、真面目な表情で私を見つめた。
「過去にとらわれていた奈々子を変えたのは織人殿。そなたが前に進めたのは、あやつのおかげじゃ。それこそ、愛情のなせるわざだと思わぬか?」
「愛……」
ーー俺だったら、誰に脅されようが絶対に奈々子を裏切らない。必ず守り抜いてみせるよ。それが愛ってもんだろ。
なぜかふいに、思い出した。
綾華との過去や、夏樹と莉央について話した時、織人さんが言った言葉。
あの時はピンと来なかったけれど、もしかしたら、あれこそが織人さんの想いなのかもしれない。
「で、でもいつからそんなに私を? 最初はメイがきっかけで私に関心を持ったとして、どのタイミングで私と結婚しようなんて……だって、山での告白も、まるで映画の再現のようで、メイを相手にしてるみたいで」
あのキスも本当だったのかと、不安になってしまう。
「そいつは本人に聞くべきですね。でも結局のところ、奈々子さんは織人の理想だったわけです。俺の親父が言ってたでしょう? 奈々子さんは守ってあげたくなるような可愛らしい女性。織人は昔から、ヒーロー体質な男ですからね」
「となると、メイが初恋の人なら、奈々子は運命の人というわけかのう」
運命の人ーー
私は、織人さんとの出会いからこれまでを振り返った。いつから好きになってくれたのか、それは分からない。
だけど、私は何度も彼に守られ、励まされてきた。それを忘れて、「初恋の人」にやきもちを焼いて、愛情を疑うなんて……
身代わりだなんて……
嫉妬にとらわれてしまった。
なぜなら織人さんを、好きすぎているから。自覚するよりもずっと、キングもひっくるめて、大好きすぎて。
「翼さん、ありがとうございます。花ちゃんも。私、目が覚めました」
笑顔で向き合うと、二人も微笑む。
私は明るい気持ちになり、すぐにでも織人さんに会いたくなった。昨夜からの態度を謝って、想いを伝えたい。
「まったく奈々子は世話が焼けるのう。まあ、くよくよした性格は豪快な織人殿が補ってくれるだろうて」
やれやれとぼやく花ちゃんに、翼さんがいやいやと首を振る。
「織人はあれで、意外と繊細なんです。今頃はクールに仕事しながら、内心は奈々子さんに嫌われたと思って悶々としてますよ、きっと」
「ほう、そうなのか。気の毒だが、ちょっと面白い絵面えづらだのう」
わはははと笑い合う二人を前に、ソワソワしてきた。
織人さんに早く会いたい。
職場に押しかけたら迷惑だから、それは我慢して、せめてメッセージを送ろう。
そして、美味しいご飯を作って、帰りを待つのだ。彼を待つことができるのが、とても幸せなのだと気づいたから。
「花ちゃん。翼さんも、今日はありがとうございました。私、そろそろ……」
翼さんと花ちゃんは笑いを収め、私の気持ちを察してか、同時にうなずく。
「俺も仕事に戻ります。奈々子さん、寄るところがあれば車で送りますよ」
「それは良い。そうしてもらえ、奈々子」
「う、うん。ありがとう、翼さん」
彼らの行動はきびきびとして素早い。私も釣られるように身支度をして、部屋を出た。
私だって初めは、ロマンス小説のヒーローみたいな彼に惹かれたのだ。
「大切なのは、好きになったきっかけよりも、それからの二人の関係じゃないですか? 織人はいまや、奈々子さんが想像するよりもずっと、あなたに夢中だと思いますよ」
翼さんが穏やかな声で、諭すように言った。
顔を上げて翼さんを見返す。この人は、織人さんの親友である。
「あいつとは長い付き合いだが、結婚したい女性がいるなんて聞いたことがない。その気にさせたのは奈々子さんが初めてで、しかも入籍から同居から、何もかもが恐ろしく速かった。本気なのは間違いないです。もっと言えば、織人にとって奈々子さんは初恋の人を超えた存在なんですよ。あなた自身に惚れたんです」
「わしも同感じゃ。織人殿の気持ちは本物だと思うておる。なぜなら」
花ちゃんが話を継ぎ、真面目な表情で私を見つめた。
「過去にとらわれていた奈々子を変えたのは織人殿。そなたが前に進めたのは、あやつのおかげじゃ。それこそ、愛情のなせるわざだと思わぬか?」
「愛……」
ーー俺だったら、誰に脅されようが絶対に奈々子を裏切らない。必ず守り抜いてみせるよ。それが愛ってもんだろ。
なぜかふいに、思い出した。
綾華との過去や、夏樹と莉央について話した時、織人さんが言った言葉。
あの時はピンと来なかったけれど、もしかしたら、あれこそが織人さんの想いなのかもしれない。
「で、でもいつからそんなに私を? 最初はメイがきっかけで私に関心を持ったとして、どのタイミングで私と結婚しようなんて……だって、山での告白も、まるで映画の再現のようで、メイを相手にしてるみたいで」
あのキスも本当だったのかと、不安になってしまう。
「そいつは本人に聞くべきですね。でも結局のところ、奈々子さんは織人の理想だったわけです。俺の親父が言ってたでしょう? 奈々子さんは守ってあげたくなるような可愛らしい女性。織人は昔から、ヒーロー体質な男ですからね」
「となると、メイが初恋の人なら、奈々子は運命の人というわけかのう」
運命の人ーー
私は、織人さんとの出会いからこれまでを振り返った。いつから好きになってくれたのか、それは分からない。
だけど、私は何度も彼に守られ、励まされてきた。それを忘れて、「初恋の人」にやきもちを焼いて、愛情を疑うなんて……
身代わりだなんて……
嫉妬にとらわれてしまった。
なぜなら織人さんを、好きすぎているから。自覚するよりもずっと、キングもひっくるめて、大好きすぎて。
「翼さん、ありがとうございます。花ちゃんも。私、目が覚めました」
笑顔で向き合うと、二人も微笑む。
私は明るい気持ちになり、すぐにでも織人さんに会いたくなった。昨夜からの態度を謝って、想いを伝えたい。
「まったく奈々子は世話が焼けるのう。まあ、くよくよした性格は豪快な織人殿が補ってくれるだろうて」
やれやれとぼやく花ちゃんに、翼さんがいやいやと首を振る。
「織人はあれで、意外と繊細なんです。今頃はクールに仕事しながら、内心は奈々子さんに嫌われたと思って悶々としてますよ、きっと」
「ほう、そうなのか。気の毒だが、ちょっと面白い絵面えづらだのう」
わはははと笑い合う二人を前に、ソワソワしてきた。
織人さんに早く会いたい。
職場に押しかけたら迷惑だから、それは我慢して、せめてメッセージを送ろう。
そして、美味しいご飯を作って、帰りを待つのだ。彼を待つことができるのが、とても幸せなのだと気づいたから。
「花ちゃん。翼さんも、今日はありがとうございました。私、そろそろ……」
翼さんと花ちゃんは笑いを収め、私の気持ちを察してか、同時にうなずく。
「俺も仕事に戻ります。奈々子さん、寄るところがあれば車で送りますよ」
「それは良い。そうしてもらえ、奈々子」
「う、うん。ありがとう、翼さん」
彼らの行動はきびきびとして素早い。私も釣られるように身支度をして、部屋を出た。
13
あなたにおすすめの小説
わたしの愉快な旦那さん
川上桃園
恋愛
あまりの辛さにブラックすぎるバイトをやめた。最後塩まかれたけど気にしない。
あ、そういえばこの店入ったことなかったな、入ってみよう。
「何かお探しですか」
その店はなんでも取り扱うという。噂によると彼氏も紹介してくれるらしい。でもそんなのいらない。彼氏だったらすぐに離れてしまうかもしれないのだから。
店員のお兄さんを前にてんぱった私は。
「旦那さんが欲しいです……」
と、斜め上の回答をしてしまった。でもお兄さんは優しい。
「どんな旦那さんをお望みですか」
「え、えっと……愉快な、旦那さん?」
そしてお兄さんは自分を指差した。
「僕が、お客様のお探しの『愉快な旦那さん』ですよ」
そこから始まる恋のお話です。大学生女子と社会人男子(御曹司)。ほのぼのとした日常恋愛もの
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
【完】ソレは、脱がさないで
Bu-cha
恋愛
エブリスタにて恋愛トレンドランキング2位
パッとしない私を少しだけ特別にしてくれるランジェリー。
ランジェリー会社で今日も私の胸を狙ってくる男がいる。
関連物語
『経理部の女王様が落ちた先には』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高4位
ベリーズカフェさんにて総合ランキング最高4位
2022年上半期ベリーズカフェ総合ランキング53位
2022年下半期ベリーズカフェ総合ランキング44位
『FUJIメゾン・ビビ~インターフォンを鳴らして~』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高11位
『わたしを見て 触って キスをして 恋をして』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高25位
『大きなアナタと小さなわたしのちっぽけなプライド』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高13位
『ムラムラムラモヤモヤモヤ今日も秘書は止まらない』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高32位
『“こだま”の森~FUJIメゾン・ビビ』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 17位
私の物語は全てがシリーズになっておりますが、どれを先に読んでも楽しめるかと思います。
伏線のようなものを回収していく物語ばかりなので、途中まではよく分からない内容となっております。
物語が進むにつれてその意味が分かっていくかと思います。
You Could Be Mine ぱーとに【改訂版】
てらだりょう
恋愛
高身長・イケメン・優しくてあたしを溺愛する彼氏はなんだかんだ優しいだんなさまへ進化。
変態度も進化して一筋縄ではいかない新婚生活は甘く・・・はない!
恋人から夫婦になった尊とあたし、そして未来の家族。あたしたちを待つ未来の家族とはいったい??
You Could Be Mine【改訂版】の第2部です。
↑後半戦になりますので前半戦からご覧いただけるとよりニヤニヤ出来るので是非どうぞ!
※ぱーといちに引き続き昔の作品のため、現在の状況にそぐわない表現などございますが、設定等そのまま使用しているためご理解の上お読みいただけますと幸いです。
思い出のチョコレートエッグ
ライヒェル
恋愛
失恋傷心旅行に出た花音は、思い出の地、オランダでの出会いをきっかけに、ワーキングホリデー制度を利用し、ドイツの首都、ベルリンに1年限定で住むことを決意する。
慣れない海外生活に戸惑い、異国ならではの苦労もするが、やがて、日々の生活がリズムに乗り始めたころ、とてつもなく魅力的な男性と出会う。
秘密の多い彼との恋愛、彼を取り巻く複雑な人間関係、初めて経験するセレブの世界。
主人公、花音の人生パズルが、紆余曲折を経て、ついに最後のピースがぴったりはまり完成するまでを追う、胸キュン&溺愛系ラブストーリーです。
* ドイツ在住の作者がお届けする、ヨーロッパを舞台にした、喜怒哀楽満載のラブストーリー。
* 外国での生活や、外国人との恋愛の様子をリアルに感じて、主人公の日々を間近に見ているような気分になれる内容となっています。
* 実在する場所と人物を一部モデルにした、リアリティ感の溢れる長編小説です。
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
昨日、あなたに恋をした
菱沼あゆ
恋愛
高すぎる周囲の評価に頑張って合わせようとしているが、仕事以外のことはポンコツなOL、楓日子(かえで にちこ)。
久しぶりに、憂さ晴らしにみんなで呑みに行くが、目を覚ましてみると、付けっぱなしのゲーム画面に見知らぬ男の名前が……。
私、今日も明日も、あさっても、
きっとお仕事がんばります~っ。
網代さんを怒らせたい
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「なあ。僕たち、付き合わないか?」
彼がなにを言っているのかわからなかった。
たったいま、私たちは恋愛できない体質かもしれないと告白しあったばかりなのに。
しかし彼曰く、これは練習なのらしい。
それっぽいことをしてみれば、恋がわかるかもしれない。
それでもダメなら、本当にそういう体質だったのだと諦めがつく。
それはそうかもしれないと、私は彼と付き合いはじめたのだけれど……。
和倉千代子(わくらちよこ) 23
建築デザイン会社『SkyEnd』勤務
デザイナー
黒髪パッツン前髪、おかっぱ頭であだ名は〝市松〟
ただし、そう呼ぶのは網代のみ
なんでもすぐに信じてしまい、いつも網代に騙されている
仕事も頑張る努力家
×
網代立生(あじろたつき) 28
建築デザイン会社『SkyEnd』勤務
営業兼事務
背が高く、一見優しげ
しかしけっこう慇懃無礼に毒を吐く
人の好き嫌いが激しい
常識の通じないヤツが大嫌い
恋愛のできないふたりの関係は恋に発展するのか……!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる