一億円の花嫁

藤谷 郁

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運命の人

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◇ ◇ ◇

 花ちゃんの家を出たあと、私は翼さんの車で、駅の近くまで送ってもらった。
 パーキングメーターの枠に停止すると、翼さんが時計を確かめる。午後10時を回ったところだ。

「お仕事の時間は大丈夫ですか?」
「次の予定まで間があるので、平気ですよ」

 バックミラーの角度を直しながら、にこりと笑う。

「ところで、後ろのSUVがずっとくっついて来ましたが、もしかして例のボディガードですか?」
「えっ?」

 振り向くと、すぐ後ろに白の乗用車が停まっている。運転席にいるのは、黒のスーツにサングラスの女性。
 私に向かって、小さく会釈する。

「は、はい。彼女はリーダーの雲井さんという方で、今朝、挨拶していただきました。私を尾行すると言ってましたので」
「ああ、特務室の」

 翼さんは特務室のメンバーを知っているようだ。

「ボディガードは彼女を含めて5人だそうです」
「ふうん。特務室の精鋭なら、格闘技に精通した強者だろうな。彼らが守ってくれるなら、安心して過ごせますよ」

 レベルの高いセキュリティチームだと、翼さんが太鼓判を押した。

「そうなんです。雲井さんも本当に体格が良くて、パワフルで、びっくりしました。それに、織人さんの部下は皆、彼の信奉者だと聞いています。すごく信頼できるなと思って」
「織人はああいう性格だから、部下に慕われてます。特に武闘派の連中は全員、キングのファンだろうね」
「キングの……」

 今なら分かる。
 一見、猿の化け物だけど、キングの中身は織人さんそのもの。いつでも全力で、一生懸命で、夢を追う少年のよう。

「私、織人さんにいろいろ謝らなくちゃ。考えてみると、彼に甘えていたのかもしれません。昨夜も今朝も、変な態度を取ってしまって」
 
 翼さんが、えっという顔になる。

「いやいや、あいつのほうこそわがままで、奈々子さんはよく付き合ってますよ。会うたびに大変そうだなと思ってるし、正直、同情を禁じ得ません」
「そ、そうなんですか?」
「甘えてるのは織人です。モテるがゆえに、女性には一線引いて来たあいつが、あなたには本音でぶつかっていく。奈々子さんなら受け入れてくれると思ってるんでしょうね。優しさに甘えてるってことです」
「私は、そんな」

 織人さんも、私を優しいと言った。
 自分では、優しさなんて意志の弱さであり欠点だと思っていたけれど、もしかしたら彼は本当に、こんな私だから……?

「織人と仲直りして、いつ、どのタイミングであなたに惚れたのか、強引に聞き出してください。照れながらも話してくれますよ。奈々子さんに迫られたら、嫌とは言えない」
「せ、迫る?」

 硬派な翼さんらしからぬアドバイスに、ドキッとする。
 でも、今日は本当に、彼に助けられた。この人の言葉はどれも信じられる。

「翼さん、感謝します。織人さんのことを一番よく理解しているあなたに彼の心理を紐解いてもらって、モヤモヤが吹き飛びました。あの……これからも、よろしくお願いします」
「ははっ、どういたしまして。こちらこそよろしくお願いします。前も言いましたが、今度は4人で食事でもしましょう。織人と、花さんと一緒に」
「はい。ぜひ!」

 翼さんに別れを告げて、車を降りた。
 駅ビルのデパートに入る私を、雲井さんが少し後からつけてくるのが分かった。

(私は、織人さんに守られている。いつも、どんな時でも)

 食品売り場をまわり、彼の顔を思い浮かべながら買い物した。
 今日は中華料理を作ろう。
 きっと、楽しい夕食になる。

「あ、そうだ!」

 買い物のあと、カフェに寄って休憩する。気持ちを落ち着けてから織人さんにメッセージを送った。

《織人さんごめんなさい》

《ご飯を作って待っています》

《早く会いたい》

 あれこれ考えた挙句、シンプルな文になった。
 胸にあふれる想いは、顔を見て伝えよう。

「あ、もう返事が……」

 見ると、笑顔のスタンプが一つ。続けて、

《超速で帰る!!》

 私は思わず微笑み、スキップするみたいにマンションへと向かった。

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