一億円の花嫁

藤谷 郁

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守ってあげたい

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「しかし、急いては事を仕損じる。俺は慎重かつロマンチックにことを進めようと考えた」

 そして彼は、絶景温泉の建設予定地に私を誘ったのだと言う。

「もともと連れて行くつもりだったし、スタッフにもライトの点灯を頼んでおいたからな。とにかく静かな場所でムードを盛り上げたくて、必死だった」

 だが、ムードを盛り上げてプロポーズするのは、思いのほか難しかったそうだ。

「王子様の状態でガンガン攻めるわけにいかないし、かと言っていきなり正体を見せたら引かれるだろ?」
「はあ」

 確かに、あの時点でキングに変身されたら、私は大パニックだろう。
 まあ、お見合いでの再会で、そうなったけれど。

「それに、女性に告白するなんて初めてで、どうやって伝えたらいいのか分からなくてさ」
「えっ、初めて?」

 びっくりする私に、彼は照れながらうなずく。

「奈々子が初めてだよ」

 信じられないと思った。
 でも、この人は嘘をついていない。
 たぶん、告白されるばかりの人生だったのだろう。それが、モテるということなのだ。

(それにしても、私が……初めて?)

 急にドキドキしてきた。
 織人さんに至近距離で見つめられ、舞い上がってしまう。

「それで、咄嗟に出てきたのがリーのセリフさ。俺にとって告白のフレーズといえば、それしかなくて」
「……あっ、映画の!?」


『俺はメイが大好きだ。可愛くて、愛しい』

『私は、あなたのことが可愛くて、愛しい』


 リーのセリフと、織人さんの告白が重なる。
 なんてことだろう。

「そ、そんな状況だったんですね」
「うん。情けないから、言いたくなかったんだけど」

(私は、メイの身代わりじゃなかった。あのセリフは、織人さんの純粋な気持ちだったのだ。それなのに私は、勝手に解釈して、勝手にヤキモチを焼いて)

 織人さんと話して本当に良かったと思う。こうして真相を知ることができた。

「とにかく、あの時は余裕がなかった。まさか、奈々子があんな事情を抱えていたとは思わなかったからな」
「あ、うん」

 そう、私は織人さんに告白される前に、打ち明けている。
 家の都合で、望まぬ相手と見合い結婚するという事情を。

「それを聞いた瞬間、プロポーズするとか何とか全部ぶっ飛んだぜ。とにかく熱い思いを伝えるのに必死だった。キスしたのも、そうせずにはいられなかったからだ」
「キス……」

 情熱的な口づけだった。このまま死んでもいいと思うほどに。

「とにかく、俺が奈々子を守る。その見合い相手とやらを追っ払い、俺が成り替わってやる。頭をフル回転させて、計画を練った」
「だからあの後、すぐに東京に向かったのですね」
「ああ。仕事がらみの計画だから、正体を明かすのは後回しになったが、それで良しとした。でも俺は、奈々子を絶対に幸せにすると決意していた。ただ、焦るあまり君を悲しませてしまったが」

 私の頬を撫で、詫びるように見つめる。

「何も言えなくて、すまなかった」
「あ……」

 ホテルに置いてきぼりにされた寂しさを、少しだけ思い出す。でも……

「私、幸せになりましたよ。あなたとこうして、結婚できたもの」

 私から腕を伸ばし、抱きついた。
 すぐに抱きしめ返されて、唇が重なる。

「……可愛い。世界一可愛いぜ、奈々子!! 一生かけて愛し抜く。何があろうと君を守ると誓う!」
「織人さん……」

 びっくりしたり、悩んだり。
 怒ったり、笑ったり。
 短くも長い日々を経て、ここまでたどり着いた。彼に導かれて……

 私たちはようやく、身も心も結ばれた。
 

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