死にかけ令嬢の逆転

ぽんぽこ狸

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24 試し打ち

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 ハンフリーとリーヴァイは二人で、ベルガー辺境伯邸の敷地内にある、訓練場で先程主から渡された魔法石をもって試し打ちにやってきていた。

 運よく今日は快晴で冬の晴れ間がのぞいている。

 気温も高く、今日はウィンディも従者たちを連れて屋敷の周りを散歩している。

 その様子が遠くに見えていた。もちろんそれを見守りつつもばれないように自室からのぞき込んでいる主の姿もばっちり見えている。

「ハハッ、情けねーな」

 つぶやくように言って面白おかしいヴィンセントに笑みをこぼすと、リーヴァイはヴィンセントの姿に気が付いていない様子で、ハンフリーの視線の先を追った。

 それから、ヴィンセントを発見し納得した様子で「ああまで心配するのなら声をかければいいのに」と口にする。

 しかしハンフリーは知っている。

 ヴィンセントはすでにウィンディに構いすぎだ。一日だって会わない日はなくて、毎日忙しなく、彼女の事を気にして彼女の為に尽くしている。
 
 実際、ロットフォード公爵家の問題に取り組むと決めたのも彼女の為という部分が大きいのだ。そのぐらいヴィンセントはウィンディを生活の中心にしている。

 ウィンディ本人はそれに気が付いているのかいないのか、いたとしてどういうふうに思っているのかは少々わかりづらい。

 しかし、もくもくとしてただ静かな女性なのかと思えば軽口をたたいてみたり。

 甘っちょろい無力な女性なのかと思えば、自分を大切にしてくれる人間にはきちんと義理を返す。
 
 芯が太く、あの体でなければとても器量の良い娘に育っただろうと思う。そしてヴィンセントが甲斐甲斐しく世話をしているおかげで彼女の体も徐々に回復しつつある。

 二人は将来、よい夫婦になるかもしれないそんなふうにさえ思っていた。

 というか順当にいけば、そうなるのが必然みたいなものだけれど、ヴィンセントには、ハンフリーやリーヴァイが知らない事情があるらしく自分は尽くしているけれど求めるようなことはない。

 それがどういうふうに解消するかはわからないが、今はとにかく彼らをネタに楽しめればいいのでハンフリーはリーヴァイに提案した。

「なぁ、リーヴァイ賭けようぜ! 俺らが業務に戻る前にヴィンセントが下りてきてウィンディに声かけるかどうか!」

 結局、どういう事情があったとしても、ハンフリーたちのやることは変わらず、ヴィンセントを守るだけだ。

 昔、ロットフォード公爵家からの襲撃が始まったころにはヴィンセントが危険にさらされたことが何度かあるらしい。

 このベルガー辺境伯家の血筋が途絶えることは何としてもあってはならない。

 だからこそ彼を守るのが協会所属の魔法使いであるハンフリーとリーヴァイの役目だった。

「そんな失礼なことをしていないで、さっさと試し打ちをしましょう。それにいつもあなたはそんなことばかり、いい加減節度というものを覚えてください」
「えー、駄目なのか? 俺は結局、心配になって偶然を装って会いに来るのが一番可能性高いと思うんだけどな」
「はいはい、的はあれでいいんじゃないですか?」

 言いながら、リーヴァイは練習場の端にある打ち込み台を指さした。

 騎士の訓練場と違って数も少なく、魔法を当てられるので多少古ぼけて破損しているがそのぐらいは大丈夫だろう。

「おう、いいんじゃね。丁度、二人が見える位置にあるし!」

 その打ち込み台はウィンディと練習場にいるハンフリーたちを直線状で結ぶような位置にあり、これならウィンディとヴィンセントの様子を見ながら試し打ちが出来るとハンフリーは納得して、魔力を込める。

 小さな魔法石は魔力を込めていくと光を強く放ち、魔法道具というにはまだ未完成なそれで魔法を放つ準備が整う。

 これはつい先日、ヴィンセントがウィンディから買い取るようにして貰ったものだ。

 もちろんウィンディには魔法使いの称号がないので売買目的では作れないのだがそこは少々せこい手を使ってすり抜け、彼女の手作りの品を買い上げた。

「それにしても、随分いい値で取引したみたいだが、あいつも身内びいきみたいな事すんだな。ウィンディは材料費だけでいいなんて言ってたのに、割と大金を押し付けてたぞ?」
「……それは、たしかに、素人が作った魔法道具はあまり他人が使えるレベルに達してない事が多いからその通りですけど……身内贔屓というか単純にそれがヴィンセント様の気持ちという事ではありませんか」

 リーヴァイの言いたいこともわかるし、もちろんそれが悪いって言っているわけじゃない。

 買ったら高い分、身内に作れたり調節できる人間がいると随分節約になるのもたしかだ。

 しかしそれは一般的な貴族の話であってベルガー辺境伯家は例外だ。

 魔法使いの知り合いなら山ほどいるし、むしろ製作者の方からベルガー辺境伯家の魔法を魔法道具にしたいと打診があるぐらいだ。

 だからこそ、あんな大金を払うのはやっぱり少しおかしいと思ってしまう。

「それに、もしかすると、ウィンディ様の魔石の加工技術がとんでもない腕だったりするかもしれません」
「なんだよソレ! 馬鹿いえ、普通の伯爵家出身だぞ、そんなわけあってたまるか」

 リーヴァイは傷のある厳つい顔を少し歪めて笑って言ったがその声音はどこか本気さが感じられた。
 
 その真剣さにはきっと、彼女がどうしてヴィンセントにあんなに執着されて溺愛されているのかという問いの答えを求めて、可能性の一つとして考えているからだろうことは簡単に予想できた。

 ハンフリーたちには伝えられないその理由は、ウィンディがきちんと了承するまで公にはしないつもりらしい。

 そうなると、気にしないつもりでいても気になってヴィンセントの行動の端々に可能性を見出すのもおかしな話ではない。しかしハンフリーは流石にこれではないだろうと思う。

 そんな才能があればとっくに魔法学園に入っているはずだ。

「ほら、使ってみるぞ、見てろ」

 けれどもリーヴァイが変な可能性を示してくるのでなんだか妙に緊張して、魔法石から狙いを定めて風の魔法を使う。

 一応、素人の手作りという事で変な方向に飛んで行ったり暴走しても大丈夫なようにここまで来たのだ、きちんと狙いをつけて魔法を打ち出した。

 すると、ゴオッと風が起き、芝生の葉と端に積もっている雪を巻き上げて、天高く舞い上っていく。

「……は、あ、やっべ」

 打ち出した魔法は打ち込み台のところまで飛んでいって、それを倒すぐらいの小さな風の球体だったはずが、巨大なたつまきになってゆったりと打ち込み台を巻き込んでゴウと音を立てながら進んでいく。

「っ、ウィンディ様!」

 焦った様子で、リーヴァイが彼女の方へと向かっていくが、回り込んで魔法を相殺するには位置関係が悪すぎる。

 大きく肥大化した風の魔法は着実にウィンディの方へと近づいていき、リーヴァイの叫び声によって彼女はハッと気が付いた。

 ……まずい、彼女に当たったら、俺、解雇じゃ済まな━━━━

 そう思考をしたのもつかの間、車いすから立ち上がってすぐにローナとリビーを背に守り、手をかざして魔法を使う。

 指につけている魔法道具がきらりと光り、相殺されるだけの規模の風の魔法が打ち出され、打ち消された竜巻は打ち込み台を地面に激突させて雪を散らす。

 ほっとしている様子もつかの間、ハンフリーは何が起こったのかと魔法石へと目線をやる。

 するとそこには一目見ただけではわからない魔法の回路がびっしりと病的に刻み込まれていて、鳥肌が立って硬直した。

「うわっ」
「なにをやってるんですか、行きますよ。あなたに限ってあんな魔力量を間違えるなんてらしくないじゃありませんか」
「いや……俺は間違ってないぞ、リーヴァイ。いつも通り、打っただけだ」
「いつも通りって……」

 リーヴァイは驚いたまま、こちらを見やってそれからハンフリーの手に握りこまれている魔法石を見て驚愕の表情を浮かべたのだった。



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