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しおりを挟むハンフリーとリーヴァイが訓練場のあたりにいることには気が付いていた。
少し手を振ってコミュニケーションをとったあとは、侍女たちに押してもらったり、自分で歩いたりしながらエントランス付近を散歩する。
疲れたらすぐに休めるように、エントランスの中のソファーにはあらかじめお水と防寒具が置かれていた。
……毎日温かい場所にいるのも健康にはいいですが、風邪を引かない範疇で、外気に当たるのも体を強くするには必要な事ですからね。
そう思いつつ、私はモリモリと歩いて、たまに何もない所で転ぶリビーと今度は庭園の方へと行ってみようかと話をしていた。
すると、途端に強く風が吹いて、魔法の塊が樹々をざわめかせながらこちらにやってくる。
その様子に私は思わず立ち上がって魔法のまったく使えない二人を背に隠して手をかざした。
この体質の自分でも使えるように魔力を限界まで効率的に使えるようにした自分用の風の魔法道具だ。
「っ、……どうして突然こんな……」
幸い、大きいだけでそれほど意力がある物ではなかったらしく私の最近調子のいい体は、その分の魔力を捻出できたらしく相殺することができる。
するとすぐに彼らがどうしてこんなことをしたのかということが気になって、視線を送ると、軽快に足音が近づいてきて、私の手を捕られる。
振り向くと間近で金色の瞳と目が合った。
「大丈夫!? 怪我はない? 調子が悪くなったりは?」
「だ、大丈夫です。……というか、偶然ですね。いらっしゃったんですか」
「それは……ウン、たまたま」
「そうですか」
「にしても、ハンフリーか」
そう言って忙しなくやってきたヴィンセントは一通り、私を確認した後、怒っている様子でズンズンとハンフリーの方へと向かっていく。
その様子を見ながらもローナに視線を送ると、すぐに車椅子を押してくれる。
……もしかして……。
そしてようやく正常に思考が出来るぐらいに落ち着くと、彼がなぜ突然あんなことをしたのか理解できて「急いでください」とローナに振り返って告げる。
しばらく進んでいるうちに、ヴィンセントとは距離を放されてしまい、彼は練習場への生垣の向こうへと到着して、ハンフリーに鋭い視線を向けた。
「どういうつもり、理由を聞いてもいいかな」
ヴィンセントはいたって冷静にそう聞くけれど、怒気をはらんでいることは間違いなくフェイビアンは困った様子で彼らの後ろで交互にハンフリーとヴィンセントの事を見ている。
「ど、どういうつもりっていうかだな! いやなんていうか、な、リーヴァイ、これやばいだろ」
「はい、驚きましたまさか、そういう事だったとは」
「そういう事? ごめん話が読めないんだけど、まともに説明を━━━━」
あわただしく進む会話と彼らが魔法道具にもなってない魔法石を握っている様子から、私は思わず声をあげて、ヴィンセントに落ち着いてもらうように事情を口にした。
「わ、私の!!! 私の作ったものが他と違うから、そうなってしまったのかもしれませんっ!!」
大きな声を出すと、弾かれたようにヴィンセントは振り返って、困惑したような表情を向ける。
しかし、ハンフリーは私の言葉をすぐに理解した様子で、ぱたぱたとこちらに走ってきて「やっぱりか!」ととても嬉しそうに私の手を取った。
「だよなぁ、どう考えてもこの威力、ウィンディ! 素人だと思って甘く見てたが、こんなの滅多に、いや、初めて見た!! すごい腕だぞ! ヴィンセントが見初めたのもうなずける」
ぶんぶんと手を振って喜ぶ彼に、私は少しホッと胸をなでおろして、彼とともにローナに押してもらってヴィンセントたちの元へと向かった。
「ええ、本当にすごいです。ウィンディ様、ぜひ今度作業現場を見学させていただきたい、自分の血筋には魔法道具の技師もいるものですからその技術学ばせていただきたいです」
「……そ、そんな大げさです。ほめていただけるのはうれしいですが、私はただ、自分が少しでも他の貴族と同じように役立てる様、魔力を出来る限り少なく使えるように改良しているだけですから、何も特別な技術ではありません」
建前で大袈裟に褒めてくれるリーヴァイに向かって、少しばかり説明をする。
その件についてはあまり気が回らずに、ヴィンセントに渡してしまったので不慮の事故で私のいる方向に普通の魔力で魔法を使ってしまったのだろう。
それならば納得だ。
「ご謙遜を、これはちなみにほかの魔法道具などに転用などはされていますか? 見受けたところ風の魔法をお持ちのようですが」
「いやいや、リーヴァイ。ほかの魔法道具とは言わずに、魔力を純粋に増強させることもできるだろ。そうすれば欲しがる奴なんて山ほど出てくる、汎用性の高い技術だ」
「たしかに、しかし魔力を増強するというのは少々勝手が変わってきますが、いい発想ですね。ハンフリー。ウィンディ様は魔法学園に在籍の経験はありませんよね、そのあたりはやはり難しいでしょうか」
「あ……ええと、そうですね。一応、ロットフォード公爵が私の為に資料を用意してくださったので、多少の知識は持っているつもりです」
「なるほど、敵対していますがやはり公爵ともなると、あなたの技術に気が付いていたのですね、流石の目利きです」
「はぁー、ってことは、魔法協会に隠してウィンディの技術を独り占めしようとしていたって事だろ? でも今はこうしてヴィンセントの元にいる! これからもっといろいろなことに挑戦できるんじゃないか?」
彼らはとても、興奮した様子で私を取り囲んで、ああしようこうしようと話を進めていく、その様子に私は喜びすぎだと思う。
アレクシスもロットフォード公爵もただ普通に受け取って、家族たちも価値はないと言ったそれがこれほど喜んでもらえることだとは夢にも思っていなかった。
……けれど大袈裟だとしても喜んでもらえることはやっぱりうれしいですね。
彼らの様子に私まで嬉しくなってしまって、ヴィンセントにも受け取って彼らにきちんと渡してくれた事にお礼を言おうと視線を向けると、クラッと眩暈がして、焦点が合わなくなる。
「っ、……す、みません。すこしはしゃぎすぎたようです……」
すぐに車椅子の背もたれに体を預けて、呼吸をきちんとして、変な汗が出てくる久しぶりの感覚を落ち着ける。
「ウィンディ、とりあえず部屋に戻ろう。聞きたいことはたくさんあるけれど、今は君の安静の方が大切だ。驚かせてしまってごめん」
「いい、え。ヴィンセント、こうして喜んでもらえて何よりです、から」
「君らも、事情は分かったけど、ハンフリーは前方によく注意して魔法を使う事」
私の体調が悪くなるとヴィンセントはすぐに、気遣って話を終わらせる。それから釘をさすようにハンフリーに言って、ハンフリーは自分の失態を思い出したようで「も、もちろん、デス」とぎこちない敬語で言ったのだった。
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