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38 魔力石
しおりを挟む屋敷に戻って私がまずしたことは、あの布団の中に大切に置いてある湯たんぽの布袋のボタンをはずして中身を確かめることだった。
ガラガラと音を立てて中から出てくるのは大きな魔石……というか魔力石だ。
魔石という言葉は、魔力を得て転変した自然物という意味でつかわれる言葉であり、そこから魔法を組み込まれた魔法石、それを加工されて魔法道具、そして一定以上の魔力を込められた大きな魔石を魔力石と呼ぶ。
その魔力石は、魔力を蓄えるために使われて、今のこの魔薬被害が大きいレイベーク王国では大変高価なものになっている。
それがいくつもゴロゴロと掛け布団の上に散乱していて、パッと見ただけでも、大きな領地を何カ月も維持させられるだけの量がある。
…………言葉にならない感覚とはこのことですね。
何と言ったらいいのかわからない。しかしこれのおかげで私の体は回復した。
少し考えればすぐにわかった事なのだ。
これを渡されて温かいと思った事、定期的に取り換えられていたこと、重みがあって体に密着させて眠るようにと言われていたこと。
それらは全部、もはや答えのようなヒントになっていたのにまったく気がつかなかった。
私の病気は、体が魔力を作っても作っても、どんどんと魔力が体外へと流出してしまうことが原因だった。
しかし、だからと言っても際限なくそうというわけではない。
生命の維持ができていたからには、作った分を少し余す程度に魔力の体外流出は起こっていると推察できる。
ということは魔力欠乏の症状をなくし、体調をよくするためには、魔力を体外へ流出する魔力以上に取り込めばいい。
……そんなこと、理論上は理解していました、けれどまったく現実的ではない。
だからこそ、誰もその治療を実践しなかった。
みんな自分の魔力は惜しいし、このご時世だ、魔力は貴重で金銭にも換えようがないほど高騰している。
それを惜しみなく袋に詰め込み、私に与え、体調が良くなるまでの長い間、供給され続けてきた。そんな状況なら体調だって当たり前に良くなる。
宴が終わって、戻ってきたのでもう夜も更けている。明日、彼にきちんと気持ちを整理して話をつけることもできるだろう。
しかし今夜もこれに頼って、温かく眠ることなど私にはできない。
丁寧に魔力石を一つ一つ集めて袋に戻す。それから、心配している様子の侍女たちに視線を向けた。
「ローナ、リビー、私はヴィンセントと折り入って話があります。なので彼の元に向かおうと思います、止めないでくれると大変助かります」
それだけ言って、車椅子にも乗らずに部屋を出ようと考えた。
しかし、ローナがすぐに反応して「待ってください」と冷静な声で言った。
「ウィンディ様……先程、部屋に戻る前。ヴィンセント様にウィンディ様がそうおっしゃるはずなので、部屋で待っているように伝えて欲しいと言われています」
「そうなんです! 私も聞きました! 夜間に寒い廊下を一人で歩かせるわけにはいかないからって!」
二人は、視線を交わしてそう言って、先手を打たれていたことに私は、勢いをそがれてその場で立ち止まり肩を落とす。
……ヴィンセント……あなたはどこまでも……。
私の事を想いやって、どこまでもどこまでも……。
やるせないのか、うれしいのか、苦しいのかわからない気持ちがやってきて、思わずため息をついた。
「……はぁ、わかりました待ちましょう」
「ええ、そうなさってください。今日は素晴らしかったです、ウィンディ様、ウィンディ様の魔法道具が素晴らしいとは話に聞いていましたが、あれほどとは知りませんでした」
「私も、ドキドキしてしまったけど、みんながわっと驚いているのを見て誇らしい気持ちになりました」
「……ありがとう、でも一人の力ではないんです。……私は……」
褒めてくれる侍女たちにも、どういう反応をしたらいいのかわからずに歯切れの悪い言葉を返してしまう。
しかし彼女たちは、興奮している様子であまり聞いていない。
魔法道具はたしかに、ここ最近に作った出来のいいものをつけていったがそれだけではないのだ。
それが後ろめたい、けれども彼女たちが喜んでいるのを見ると少し心が落ち着いて、ヴィンセントに会う準備をしてソファで彼がやってくるのを待ったのだった。
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