悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

文字の大きさ
66 / 305

倫理観……。5

しおりを挟む

 あっという間に時間は過ぎ去り、もう昼休みだ。
 私が制服のジャケットを着ていると、カギを返しに行ってくれたララが、戻ってくる。割と険悪になることもなく、私達は授業の時間を過ごせたと思う。

 でも、考えてみれば、当たり前のことなのだ。私はララのことをよく知っている。どんな場所出身で、何が好きで嫌いか、どんな性格なのか。

 『ララの魔法書!』は割と長編で、ララの成長や恋を子供向けの優しい言葉で書かれていて、それでいて表現はすごく細やかだった。

 男主人公のローレンスの事が受け入れられなかっただけで、私はララのことは好いている。

「クレア!急に声をかけてしまってごめん……」

 ララは私のことをぎゅっと抱きしめた。家族が多くて幸せな家庭で育った彼女は、スキンシップが多めである。

「…………また、今度相手をしてね」
「うん」
 
 きっと彼女は、別のことを言いたかったんだと思う。けれど、私が最初に言った、周りの目が気になるという事を加味して、今度という曖昧な事を言う。後ろにはやはりまだ、こちらの話を盗み聞きしているであろうグループがいて、それにララも気が付いていたのか一瞬、流し目で彼らの事を確認したけれど、珍しくララは言い掛かりをつけるでもなく、私に手を降ってわかれる。

 ……そう……その人たちに何かを言っても意味は無い。
 原作が終わってから、この学校に来るまでの間もララは成長しているという事だと思う。

……原作だったら……。

「あなた達は私に、何か用があるのよね?」
「っ、あ、いいえ」
「特には……ありませんが」

 あっ、違ったらしい、成長はしていない。

 ララは好戦的なローズピンクの瞳で、後ろにいた四人を睨みつける。愛らしいピンクの瞳が暗く影って威圧的な雰囲気を生み出す。

 私と距離を置いたあとの言い掛かりだったので、ギリギリ私とは関係が無いように見えたのか、何も気にせず歩いて離れていけば集まり始めた野次馬の中に混ざることが出来る。

「彼ら、なにかララの気に触ることしたの?」
「さぁ?し、知らないかなぁ?」
「へぇ……ねぇ、クレア、君ララへはどういう感情があるわけ?」
「感情……ってディック!」

 ディックは出来るだけ遠くに逃げようとする私の腕を掴み、話しながら群がる人と人の間を縫ってすすみララ達のやり取りを見る。

「いいでしょ、少しぐらいは見てても。何か面白いことが無いかなって思ってたんだよね~」
「……面白いって、この学園の生徒って皆、揉め事が好きなの?」
「そうさ!魔法使いは世界の均衡を保つ者、でも皆それぞれ立場がある。弱腰じゃ自分の主張は通せない。そんな中でわがままを通すのなら、闘争心とそれから鍛錬が必要……でしょ」
「それと、私的に揉めるって別の問題じゃない?」
「別じゃない……何事も実践が一番だ、それはクレアもわかるでしょ~」

 それは、クレア……というか“私”は分からない。クラリスなら、同意したのかもしれない。彼女は強い人だから。

 私はしかたなくその場に留まり、ララ達の方を見る。

「嫌だなぁ、本当にコソコソと、私貴族って大っ嫌い!」

 ララは苛立たしげに吐き捨てた。

 その発言は多くの人間を敵に回すが、誰も野次を飛ばさない。アウガスの学校時代から、ララは不特定多数の人間が、自分の責任を放棄して言う野次や悪口を良しとしない。

 潔癖というか、簡単に言えば短気で執念深い。
 
 あからさまに、貴族らしく装飾過多であり整髪料でぴっしり髪を決めている男子生徒が、グッと拳を握る。
 
「誰でもいいわよ、一ゲームやりましょう?不満があるなら実力で示すまでよ。それともなに、貴方達、それほど特権階級気取っておいて、平民の私の相手をするのすら怖いの?」

 テンプレートな煽り文句を口にしつつ、ララは私とゲームをしていた円の中に入る。
 四人の中でも一番偉そうな人物が、うち一人にカギを持ってくるように指示をして、受け取り、ララに渡す。

「我々は何も……ララ、君に害意など……持っていません」
「御託はいいのよ。魔法ありでいいわね」
「ですから……」

 彼は、自分では敵わない事がわかっていつつも、断る事が自分の名誉に差し障ると理解してリングに入る。

 そして、魔法玉を起動しながらも、弁明を続ける。

「……ララ、君は我がアウガスの希望だ、そのような事、国を背負う我々が考えるはずが無いだろ」
「知らないわ、そんな事どうでもいい。さぁやりましょう」

 男子生徒は、今にでも始まってしまいそうな“カギ取り”を必死に避けるためにキョロキョロと辺りを見てそれから、少し切羽詰まった笑みを浮かべる。

「言うまいと思ったのですが、そこの平民、ソレが貴方に危害を加えるのではないかと……我々は気が気では無かったんだ」
「……」
「入学から問題ばかりのソレはまだ一度も魔法を公で使っていない、ララ、彼女が何かを隠しているのではと我々は不安で」

 いっせいに私に視線が集まる。
 一応、ローレンスも少し離れた場所から見ているが、庇ってくれるということは無いだろう。

 言葉を鵜呑みにしている訳では無いのだろうが、疑念のこもった視線が私を貫き、やはり教室に帰っておくべきだったと後悔しつつ考えた。

 ……彼らはもしかしてサディアスみたいに……私の事、クラリスだと確証がもてていない?だからこんな事を?それとも、苦し紛れに言うしか無かったの?

 どちらとも取れるし、どちらだとしていても私が今ここで、衆目に晒されているという事は確かだ。

「……、っ」

 ……何か、何か言わなきゃ。

 確かに、私は魔法を使えていない、でもそれの原因の説明はクラスの人しか出来ていないし、なんならクラスの人間にも認めてもらえているかすらさだかかでは無い。

「答えろ!……平民風情が、時間を取らせるな!」

 大きな声で言われて、体が震えた。私は誰かの怒気がいつだって怖いし、なんなら光る瞳が私を見ているということが恐ろしい。

 ……怪我をしたくない……痛いおもいは……。

 巡らせる思考の中で、チームメイトの言葉が頭をよぎる。

 ……そうだっ。

 バッとディックの腕を振り払って走り出した。鞄を取りに行く事なんか忘れて、できる限りの速度で走る、呼吸が上がっても、私は脱兎の如くその場から逃げ出した。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

悪役令嬢に転生しましたが、全部諦めて弟を愛でることにしました

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に転生したものの、知識チートとかないし回避方法も思いつかないため全部諦めて弟を愛でることにしたら…何故か教養を身につけてしまったお話。 なお理由は悪役令嬢の「脳」と「身体」のスペックが前世と違いめちゃくちゃ高いため。 超ご都合主義のハッピーエンド。 誰も不幸にならない大団円です。 少しでも楽しんでいただければ幸いです。 小説家になろう様でも投稿しています。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

悪役令嬢になったようなので、婚約者の為に身を引きます!!!

夕香里
恋愛
王子に婚約破棄され牢屋行き。 挙句の果てには獄中死になることを思い出した悪役令嬢のアタナシアは、家族と王子のために自分の心に蓋をして身を引くことにした。 だが、アタナシアに甦った記憶と少しずつ違う部分が出始めて……? 酷い結末を迎えるくらいなら自分から身を引こうと決めたアタナシアと王子の話。 ※小説家になろうでも投稿しています

幽霊じゃありません!足だってありますから‼

かな
恋愛
私はトバルズ国の公爵令嬢アーリス・イソラ。8歳の時に木の根に引っかかって頭をぶつけたことにより、前世に流行った乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったことに気づいた。だが、婚約破棄しても国外追放か修道院行きという緩い断罪だった為、自立する為のスキルを学びつつ、国外追放後のスローライフを夢見ていた。 断罪イベントを終えた数日後、目覚めたら幽霊と騒がれてしまい困惑することに…。えっ?私、生きてますけど ※ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください(*・ω・)*_ _)ペコリ ※遅筆なので、ゆっくり更新になるかもしれません。

処理中です...