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倫理観……。4
しおりを挟む周りにいたディックやその他、同じクラスの生徒がすすとのいて行く。ララの突飛な行動には、私も注意が必要だとは思っていたが、これは避けようがない。私が数日前にした失態は、割と大きな爪痕になっているようだ。
「いいでしょう?魔法を使わなければ怪我もしないから、ね?」
顔を覗き込まれて、ローズピンクの瞳と目が合う。柔らかそうな栗色の髪がふわふわと揺れていて、主人公の眼力にとりあえずコクコクと頷く。
ここで私が突っかかったら、多分大変なことになる。それだけは分かる、そしてきっとチームの皆に怒られるんだ。ララは私にとって爆弾みたいなものだ。別世界にいた私だけが知っていること。
それは、この世界の主人公はララだということだ。正直本当に何が起こるか分からないし、彼女は規格外なのだ。私が容易に刺激していいものじゃない。
なにか彼女にやったらクラリス同様、破滅の道を進むことになるだろう。
「センセーいいって!この子、可愛いっ!小動物みたい。先生の飼い猫に似てるね」
「…………」
ララは私の手を取って抱きしめる。突然の行動に、私は体が硬直し、ピクリとも動けない。
彼女に関わるのは、できるならもっと後が良かった。というかこの世界でローレンスと一二を争うぐらい本当なら関わりたくないんだ。
そして簡単に物事の核心を突いてくるから怖い。あの猫ちゃんは私の元々の中身なのだから、似ているというか本人だ。そしてララは興味が無いことには鈍感なのか、この体も、あの猫ちゃんも両方がクラリスだと言うことにはまったく気が付かない。
「……“カギ取り”初めて結構ですよ、ララさん、クレアさん以外も、各自、始めてくださって構いませんから」
ララは私を離すと手を引っ張って移動する。
途中でローレンスやクラリスに助けてと視線を送ってみたが、ローレンスはにっこり笑っているだけ、クラリスは自分の前足をぺろぺろ毛ずくろいしており、どちらも助けてはくれない。
ララは、倉庫の外に並べられているラインカーで簡単に直径三メートル程の円を書く。
「“カギ取り”は知ってる?団体戦の対策のために戦闘は無しで、勝敗を決めるカギを取るための練習よ、名前のままよね」
あははっとララは笑って円に入る。彼女は、手首に鍵をつけている。私も入ると、他の生徒達もララの行動には少し戸惑いつつも、エリアル先生の指示で同じ様に円を書いて、二人一組だったり、五人程度で一つの円を囲んでいたりする。
「……貴方、口が利けないって事じゃないんでしょ?それとも、緊張しているの?」
ずっと喋らない私にララが問いかける。何を言ってもろくな事にならないような気がするし、なんならララは、悪役令嬢であったクラリスのライバルである。
そもそもクラリスは、自分で望んだ結末だったとしても、ララの事が憎く無いんだろうか。
そしてだ、ララの活躍を一番よく思っていなくて、行動に起こしたのは、確かにクラリスだ、でもその影には、自分たちの立場を守ろうと必死になっているアウガスの貴族が居たんじゃ無かったっけ?
原作では、クラリスが投獄されると、巨悪が去ったかのような書かれ方をしていたが……。
何となく周りを伺う。
私たちの近くで円を書いて、カギ取りを始めようとしているのは、先程、ローレンスやララ、コーディなど身分が高い人間に、付かず離れず、その後ろに張り付いていた人達だ。
私が試合を始めずに、ララの言葉も返さずに、そのララの後ろで非常にゆっくり、カギ取りの順番を決めている彼らが気になった。
「クレア?もしかして本当に言葉が不自由なの?」
数秒見つめていれば、その四人程のチームリーダー達と目が合う。これはこちらをうがっている事は確定じゃないだろうか。
……これでも長年都会で生活していたんだ、人の機微には気がつく方だよ、私。
何を考えているかまでは分からないが、視線や感情には私は割と敏感な方だと思う。まぁ、そのせいでというか、あんまり相手の押しが強いとその感情に負けてしまって、いつも通りの都合のいい人間を演じてしまうのだ。
ララは私をクラリスだとは認識していない、多分それは露ほども、クラリスがこの場にいるなんて考えていない事と、大幅に変更した化粧とキャラクターの違いのせいだろう。
対して私たちを見ているのは、クラリスの影に隠れて、ララが居ない方が良いと願う貴族。クラリスとは、敵対関係ではなくきちんと交流があったと思われる人たち。
そして今、いなくなったはずのクラリスと似ている人物が目の前に現れて、様子を探っている。いや、もしかしたら、気が付いているのかもしれない。そのうえで、彼らは私に何を望むだろうか。わからない。……わからないし、それに。
……都合のいい人間には、ならないよ、私!私は私が思っていることを言うんだ。もちろん、今だってララを害するようなことをする気も、自分では何も出来ない人たちの矢面に立つような選択はしない。
「……困っているんです。ララ、私、一般市民なのに、こんなに注目されて」
後ろの人たちを見たまま言うと、彼らの一人とまた目が合って慌ててそらされた。
「出来るだけ、波風立てたく無いんです。ララ、今後はあまり構わないで貰えませんか?」
私の言葉に、ララはポカンとして、それから彼女は、笑ったり怒ったり、泣いたりとポップでわかりやすい表情ではなく、少し心無いことを言われた時のような、買ったばかりのアイスクリームを落とした時のような、なんとも言えない寂しい表情をした。
「そ、そう……」
「すみません、ララ」
「うん、こっちもごめんね」
気まずい雰囲気が私たちの間に流れてそれから、パッと切り替えるようにララが笑う。その笑顔には先程の少し沈んだ表情の面影もない。
「じゃあ、始めよう、“カギ取り”私得意なんだ」
彼女は力拳を見せるようにしてポーズをとって、ニコッと笑ったあと腕まくりをする。
私も制服のジャケットを脱いで、ララに向き合う。
本当なら、私も彼女と同じテンションで渡り合いたかったが、外野が多すぎる上に、私の立場は弱い、サディアスにも何があってもおかしくないと言われているのだから、迂闊な行動は出来ない。
これでも“大人”だからね、周りを見て動かないと……。
「よーい、初めっ」
ララがそう声をかけて、私たちは、手押し相撲の構えのようなポーズのまま真剣に向き合う。
意外にもララはせめて来ない、けれど彼女の手首にはカギがある。
私のカギは腰の位置だ。
取られる心配がない。思い切って素早く手を伸ばすと、ララのカギが容易に掴める。私がそれを引っ張るより早く、ララが私の手を掴んだ。
……っ、それ反則!
じゃないんだった!これは手押し相撲じゃないし!そういえばそもそもルールを知らないんだった!
グンと体が引かれて、前に一歩踏み出すと簡単に私のカギが取られてしまう。ストラップはどうやら、引っ張ると簡単に外れるような作りになっていたらしい。
「わっ……いてっ」
カギを取られたことに気が向いて、つんのめって転んでしまう。
芝生なので痛くは無いが、反射的に声が出た。
「っ、あははっ、意外と鈍臭いのね」
「う、うーん」
意外も何も、運動は元より得意では無い。
なんと言っていいか分からずに、起き上がろうとすると、ララは私に手を差し伸べてくれる。
「ありがとう」
手を取ると、グンと引かれて、勢いよく立ち上がる。
「もう一回!」
「やるの?」
「うん!」
鈍臭いし、多分ララの運動神経についていけてないはずなのだが、ララは何やら楽しそうだった。
よく分からずにカギを受け取って、腰に付け直す。
エリアル先生の静止があるまで、私達はカギ取りをゲームのように楽しんだ。
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