悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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メンヘラっけを感じるんだよなぁ……。8

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「サディアス……貴方はね、自分の立場とかそういうもの、ものすごく低く見積っているでしょう?」
「……それは無い、妥当だ」
「そして多分、最悪の想定をするのが得意」
「……」

 徐々に温まってきた彼の手をやんわりと握る。その行動に彼の手は緊張する。
 
「でもね、心配事って起こらないことの方が多かったりするよ」
「……起きたら、すべてが台無しになるような心配事でもか?……君だって、全部が無くなる経験を……しているんじゃないのか……この不安が……わかるだろ」

 安心させるつもりで言った言葉だったが、彼の不安はもはや脅迫的だと思う。少し驚いて、瞬きをして彼を見る。その瞳は澱んでいて、サディアスの性格以上の何かが彼の中にはあるのだと思った。

「貴方って、何か私以外にも、ものすごい面倒事を背負ってたりする?」
「君以上の困り事は……今のところはないが」
「……うーん?」

 そうなるとやっぱり、彼より私の方がよっぽど絶望的だと思うんだが自惚れだろうか。

「サディアス、私ね、実は落第したら処刑されちゃうの」

 ビクッと彼は反応して、朱色の前髪の隙間から私を信じられないものを見る目で見てくる。

「あと、ローレンスとヴィンスが縁を切れなかったら、多分他のところからも命を狙われると思う」
 
 口にしてみると存外、一大事だった。死にたくないが、どうしようも無い。ここに来た時から崖っぷちなのだ。

「これでも出来れば死にたくないって思ってる」

 サディアスは思い詰めたような表情をして、強く私の手を握った。
  
 「それでも生きてるから大丈夫だよ」と明るくポジティブに励ますつもりだったのが、サディアスはさらに不安に駆られて顔を青くする。まるで、恐ろしい殺人鬼にでも追われているような顔だった。

 控えていた侍女ちゃんが何やらパタパタと部屋から退室していって戻ってこない。手を握る力は強くなる一方だ。

「どっ、どうしたの?サディアス、ごめんね、何かびっくりさせるようなこと言った?あ、言ったよね、大丈夫?な、な、なんか、わ、私間違っちゃった??」

 サディアスはガクッと俯いて、それから魔法を使って、彼のルビーみたいな瞳が光を孕む。
 
 ……あ、やばい。

 そう自覚した瞬間には、手は離されてテーブルが真っ二つになっていた。ドゴォンという嘘みたいな音が耳をつんざく。
 離された手をもう一度繋ぎ直して、どうしたらいいか正解が分からないまま、引き寄せてサディアスを力いっぱい抱きしめた。

 こういう事があるのだから、常日頃から魔法を使える状態にして置かなければとは思っているのだが、どうにも忘れがちだ今日も私は魔法が使えない。

 それでもなんとか、自分がボコボコになると、またサディアスのトラウマが酷くなってしまうので、彼を宥めようとなんとか背中に手を回し、ポンポンと一定のリズムでタップする。

「サディアス……サディアス、大丈夫、ごめん」

 このぐらいの年齢になると男女の性差は割とあり、抱きしめるのが大変だった。
 身長も彼の方が大きいので、少し背伸びをしている。

「サディアス…………落ち着いて、ね?」
「ッ……、ッ……」
 
 彼は獣のような呼吸を繰り返し、体は震えている。それでも私が根気強く、声をかけ続けると、次第に落ち着いてくる。

 ……よ、良かった~。咄嗟に逃げなくて!多分逃げてたら何かしら被害をこうむっていただろう。

「……サディアス、大丈夫」

 子供に言い聞かせるような心地だった。大きくなっても人間、癇癪ぐらいは誰でも起こすだろう。問題はない、頭を撫ではしないけれど、撫でてあげたいぐらいだ。

 腕が疲れて来たけれど我慢して目を瞑り、トントンとゆっくり背中に触れる。そういえば赤ちゃんにこれをやる理由は、お腹の中にいた時に聞こえていた心音を再現するためだとか何だとか。

「……なぁ、クレア」

 頭の中で豆知識を展開していると、サディアスがぽつりと言う。それから、私の手を少し避けて、それから魔法を使ったまま、抱き上げる。

「おうっ、ン、んん?」

 急に持ち上げられて、完全に足が浮く。腰と背中にがっちりと両腕を回されて、逃げ出せそうに無い。
 私は抱き上げられたまま、上から覗き込むような形で彼を見る。下を向くとサラリと髪が落ちてきて、サディアスの頬に触れる。

「……はぁ……俺の目の前で死ぬのだけは、やめてくれ。死ぬかもしれないと……いうことを打開策もないのに、口にしないでくれ……」

 すごく怒っているような、危ない目つきをしながら、サディアスは言った。彼の赤い瞳の光に、射抜かれたように私は硬直した。
 
 落ち着きを取り戻したのかと思ったがどうやら違う様子で、下手に何も言わないような気がして、グッと体を後ろに引くが、ビクともしない。

「でないと俺は……君に何をするか分からない」

 イキり倒している、自称喧嘩っぱやい男のそれとはまったく違い、本当に何かとんでも無いことをされそうな気がして、首振り人形のようにコクコク頷く。

 今この状況だって、正直危険だ。このままどこかに連れていかれるかもしれないし、それにギュッてされたら、私はキュッて死んでしまう。ヴィンスはメンヘラっけがあると思ったが、この人はそのきらいがある程度の問題では無い。多分、心療内科に受診した方が良い。

 サディアスは私の従順な反応に、少しはマシな気分になったのか、自分自身を落ち着かせるため目を瞑って深く深呼吸をした。

「……はぁ……すまない……俺は君にこんな姿を見せてばかりだな」
「う、うん、そうね。あの、とりあえず下ろしてくれる?」
「…………下ろした瞬間に、何らかの理由で死んだりしないか?」
「するわけないでしょ?!」
「……はぁ」

 意味のわからない会話をして彼はまた、ため息をつく。それからゆっくりと下ろされて、私はやっと窮地から解放され、彼からいつもより距離を取った。

「……遠いな」
「当たり前でしょ、今だってちょっと怖いもの」
「……」
「……サディアスはもしかして何か昔にあった?」

 そうでも無ければ、反応が過剰すぎる気がする。私を不可抗力で半殺しにしてしまったトラウマがあるとはいえ、先程の行動は説明がつかないだろう。



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